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【クイーンビー“ジ・ワン”シャルルステラが討伐されました】
【アドリアンロット北部山嶺地帯北西部を完全解放しました】
【アドリアンロット北部山嶺地帯北西部を支配下に置きますか?】
ふうー。
最後の増援ラッシュは焦りましたね。
正直、MPポーションが残ってなかったら死に戻ってました。
しかし危険を冒した甲斐はありました。
なんとなんとの3レベルアップ、現在の私はレベル29ですよ!
あとひとつで30の大台です。
いやあ美味い狩場でした。
ところでこの女王蜂、ヘルプによるとリポップしないらしいんですよね。
どうもネームドは一度倒すと、二度と復活しないようです。
例外は魔王たちですかね。
奴らは中身がスタッフですからね。
さて……なにやらシステムメッセージがイエス・ノーを求めているんですが、これはなんぞや。
ヘルプヘルプ……ううん、見当たりませんねえ。
ゲーム外の例外的な事態でもない限りは原口さんに頼りたいと思わないのですが、これヘルプに無いのなら運営の不手際ですよね?
運営にメールしときましょ。
イエス・ノー選択は保留にして、北西部から出ない範囲で休憩にしましょうか。
MPの自然回復をしたらまた巣にちょっかいかけて、蜂蜜でも漁りましょうかね。
◆
ファナ様
どうも御機嫌よう原口です。
件のメール、拝見しました。
ていうか、何やってるんですかあなた。十五年前より進行が酷いですよ?
ユニオンを結成していると、地域を支配しているネームドを倒すことで、その地域を支配下に置くことが可能となります。
この辺りはユニオンのヘルプにちゃんと書いてあるので、そっちを読んで下さい。
結論を言えば、イエスを選択してもノーを選択しても、ユニオン未結成状態では支配下に置けませんのであしからず。
原口
◆
なるほどー。
迅速な返信に感謝しつつ、ヘルプのユニオンの欄を読み込みます。
どうやら支配下に置いたユニオンは、その地域に街を作ったりできるみたいですよ。
……なにそれ楽しそう!
ただし莫大な資金もしくは手間が必要になりますが、この辺はおいおいということで、ひとまず支配下に置くだけ置きましょう。
ネームドを倒して地域を支配下に置かない場合、ネームドを倒した場所にユニオン所属者が向かうことでもう一度、支配するかどうかのメッセージが標示されるのだそうです。
とりあえずイエスを押してみましょう。
ぽちー。
【ユニオンに所属していないため、地域を支配することは出来ません】
ふむ、ヘルプ通りですね。
では誰かがここにやってくる前に、急いでメオントゥルムを往復してきましょう!
◆
皆様おはようございます、無事にユニオン『グレイブキーパー』を開設したファナです。
総合ギルドが二十四時間営業で助かりました。
いやーユニオン結成には拠点となる建物と登録料が必要なのですが、とにかく安い物件をと受付嬢のフェミニオさんに探してもらったところ、墓地の横の寂れた掘っ立て小屋があったのでそれを即購入。
本当にここで良いのか、と何度も確認されましたが、ネクロマンサーであるこの私に相応しい拠点じゃないですか。
むしろ感謝しながら、建物を購入し、登録料を支払い、マッハで戻ってきたわけです。
徹夜になってしまいましたが、日が昇る前に巣に辿り着けて何よりです。
【アドリアンロット北部山嶺地帯北西部を支配下に置きますか?】
もちろんイエス!
【アドリアンロット北部山嶺地帯北西部を支配下に置きました】
【現地の氏族ジャイアントビーが恭順を求めていますが、受け入れますか?】
ほっほう、早速来ましたね。
ネームドの種族を支配下に置いて、その地のひとまずの住人とすることが出来るシステムです。
これももちろんイエス。
残念ながら、ユニオンメンバーは私ひとりですので、入植させられる数に限りがあるのです。
【ジャイアントビーを支配下に置きました】
するとブンブンと警戒剥き出しで飛び交っていたジャイアントビーたちが、急に私を仲間扱いでもするように静かになりました。
さて敵対もしなくなったので、巣の中をまずは探索しておきましょうかね。
◆
ハニカム構造の巣の中は広さの割に単純な構造で、迷うこと無く女王蜂の間にたどり着くことができました。
もちろん玉座は空白です。
まあ目当ては玉座ではなく、その手前に書いてある魔法陣なんですがね。
これは召喚陣とよく似ていますが、どちらかというと朽ち果てた寺院にあったような魔物を呼び出すもので、私たち召喚士が使えるものではありません。
しかし既に支配下に置いたこの巣の魔法陣は変質し、住人召喚陣と化したのです。
住人召喚陣……読んで字のごとしですね。
メニューからユニオン欄を開きます。
《ユニオン『グレイブキーパー』
ユニオンリーダー ファナ
ユニオンメンバー 1人
住人召喚獣 0体
支配地 アドリアンロット北部山嶺地帯北西部
従属氏族 ジャイアントビー》
住人召喚獣という項目がありますよね?
ユニオンが支配地を得た場合、レベルの数だけ住人を召喚することができるというシステムがあるのです。
現在の私のレベルは29ですので、住人を29体、この地に配備できるわけですね。
しばらくはジャイアントビーの巣に間借りして、小さな村でも興そうかと思います。
ではさっそく召喚しますかねー。
ヘルプによると、召喚される住人は召喚士のもつ職業のいずれかからランダムで召喚されるそうです。
最も確率が高いのはもちろん第一職業で、次いで第二職業、第三職業と住人の比率には偏りが出るわけですね。
まあ私はネクロマンサーなので、アンデッド村が出来れば大満足です。
じゃあぱぱっと召喚しましょう。
【ソウル・農具を召喚しました】
【ゾンビを召喚しました】
【ソウル・裁縫道具を召喚しました】
【スケルトンを召喚しました】
【ゴーストを召喚しました】
【ドラゴンインファントを召喚しました】
【ゾンビを召喚しました】
【ドラゴンインファントを召喚しました】
【ソウル・農具を召喚しました】
【ソウル・料理道具を召喚しました】
【スケルトンを召喚しました】
【ゴーストを召喚しました】
【ドラゴンインファントを召喚しました】
【ゾンビを召喚しました】
【ソウル・農具を召喚しました】
【スケルトンを召喚しました】
【ソウル・木工道具を召喚しました】
【ドラゴンインファントを召喚しました】
【ドラゴンインファントを召喚しました】
【ゴーストを召喚しました】
【ゾンビを召喚しました】
【ソウル・農具を召喚しました】
【ドラゴンインファントを召喚しました】
【スケルトンを召喚しました】
【ゴーストを召喚しました】
【ゾンビを召喚しました】
【スケルトンを召喚しました】
【ソウル・狩猟道具を召喚しました】
【ゴーストを召喚しました】
いやいやいや。
この農具とか狩猟道具ってのはソウルブリンガーの住人ですかね?
住人というかもうただの道具なんですが……。
きっと丈夫で壊れないのでしょうけど、それにしたってソウル・農具って。
分かりやすいですけど、運営のネーミングセンスも大概酷いですね。
さて無事? に住人を召喚したので、次はこの地に常住して街の建造に当たる召喚獣を捻出せねばなりません。
これは住人ではなく、戦闘のできる私の召喚獣ですね。
スケルトン・キャスター、スケルトン・スピアマン、スケルトン・ソードマン、グールが余ってますね。
こいつらまとめてここに配備しちゃいましょう。
さすがにヨサクなどの主力組を配備するのは無理があります。
しかしヨサクはバロン、つまり男爵ですから行政はお手の物でしょう、多分。
ひとまず支配地への配備と解除はいつでもできるようなので、全ての召喚獣を配備して様子を見ましょう。
さてアンデッドに偏ってますけど、どんな村になるか楽しみですね。
◆
黙々と指示を出すヨサクを眺めながら、私は女王蜂の玉座で惰眠を貪っていました。
脳を再現したCPUに疲労がないとはいえ、記憶の整理のためには睡眠は必須です。
徹夜になってしまったので、こうして休んでいるのですが……。
ぶっちゃけ、村づくりが気になってよく眠れません。
だって農具をもったスケルトンやゾンビがヨサクの指示に従って三々五々に散っていくのを見ると、不安しかありません。
ていうかゴーストとドラゴンインファントは何をしてくれるのでしょうか。
見ている限り、ゴーストはふわふわ浮いて漂っているだけですし、ドラゴンインファントに至ってはジャイアントビーを追いかけ回して遊んでいるようにしか見えません。
インファントは幼児とかそういう意味なので、ある意味で仕方のないことかもしれませんが……。
いずれ育つんですかね、ドラゴン。
育ったら育ったらで面倒くさそうですけど。
奴ら基本的に働くイメージありませんし。
これがメイドドールとかだと安心なんですが……。
ユニオンメンバーが私一人だと、住民の偏りが酷いですね。
かと言って、住人目当てにユニオンに他のプレイヤーを誘うのも抵抗があります。
というか見てみたいんですよね。
アンデッドが作る村って奴を。
だから当分、ユニオン『グレイブキーパー』は私ひとりのソロユニオンです。