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メオンの塔、それは石造りの塔で、地上十階ほどもある巨大な建造物です。
他の建物がニ~三階程度であることを考えると、その高さが目立つことが想像できるでしょう。
さて受付は、と。
「ようこそメオンの塔へ、神に召喚されし召喚士様。私は総合ギルドの窓口担当のフェミニオと申します」
「あ、どうもこれはご丁寧に。私はネクロマンサーのファナです」
「ネクロマンサーのファナ様ですね。……ええ、ネクロマンサーギルドとソウルブリンガーギルド、それから森人族の里にあるドラゴンテイマーの職を既に得ていますね」
「え、そんなの分かるんですか?」
「はいもちろん。ギルドでは登録されている召喚士の情報が共有されておりますので。よろしければ説明いたしますが」
「お願いします」
どうもワールドガイド関連の話のようで、ゲームシステム的なものではありませんでした。
かいつまんで言えば、ギルドに登録することでそれぞれの職業を司る神と接続され、その経路を使って召喚している、とかなんとか。
へえ。ギルドへの登録っていうのは事務処理じゃなくて、神様の力を借りるために必要な報告だったんですねえ。
「なるほど、それは知らない話でした。ありがとうございます」
「いいえ。召喚士の多くがその仕組も知らずに召喚陣を使っておられますからね。別に仕組みを知らなくてもいいのですが、たまには神に感謝の祈りを捧げるのも個人的にはよろしいかと思っています」
「なるほど。そういう神殿のようなものはあるのですか?」
「それがないんですよ。敢えて言うならば、召喚陣が神と繋がっているはずですので、そこでお礼を申し上げると伝わるかもしれませんね。あ、もちろんこれは私の想像で、実際には多忙な神々がいちいち耳を傾けているとも思えませんし、召喚陣が声を伝えるという機能を持っているとも思えません」
フェミニオさんは「今の話は忘れてくださいね」などと言いましたが、毎回、召喚の度に気合を入れて呪文を唱えている私には逆効果です。
絶対、忘れませんよ~。
神様がもし聞いているなら、こっちの欲しい召喚獣を寄越すようお願いしてみましょうかね。
「あ、フェミニオさん。それで聞きたいことがあるのですが」
「はい、どのようなことでしょう」
「まず一つ目はユニオンの結成条件です。なにかクエストのようなものをクリアしなければならないとか、条件はありますか?」
「ユニオンの開設には、まず総合ギルドへの登録料がかかります。それから、ユニオンの具体的な所在地、拠点となる建屋が必要になりますね」
「ふむふむ。つまりお金がかかるだけ、と」
「平たく言えばその通りです。街外れの不便な場所なら拠点の購入も安く済みますし、ギルドへの登録料は一律ですので、一定の額をメンバーで出し合えば割りと簡単にユニオンを開設できますよ」
「なるほどー」
総合ギルドへの登録料と、拠点となる建物の具体的な相場などを聞いてみますが、これソロでもなんとかなりそうな額ですね。
良心的です。
いずれは家が欲しいと思っていたので、ユニオン開設はともかくどこか綺麗で住みよい場所に家を買う時の参考にしておきましょう。
「それで二つ目なのですが、召喚獣同化について知りたいのですが」
「あら、ファナ様は既に召喚獣同化の条件を満たしておられますよ」
「なんですと!?」
え、いつの間に?
「召喚獣を五体使役できるようになった召喚士は、ここメオンの塔の上層階にて召喚獣同化の儀式を行うことが出来ます。……ただし、同化には条件がありますので、そちらはヘルプをご覧ください。……はい、ファナ様はここメオンの塔へ辿り着いたことで、召喚獣同化のヘルプが解禁されました」
つまりレベル20の特典だったわけですか。
なるほど魔王アインスがアップデートの順番的にメオントゥルムの方が先だと言っていたのはこの辺のシステム的特典のことを言いたかったのでしょう。
ちょっとレベル5ごとに解放される要素について、整理してみましょうか。
レベル5はパーティ枠1体追加。
レベル10はパーティ枠1体追加、第一職業の召喚獣がティアー2になる、第二職業の解禁、召喚獣合体システムの解禁。
レベル15はパーティ枠1体追加、第二職業の専用魔法をレベルの半分で使用可能。
レベル20はパーティ枠1体追加、第一職業の召喚獣がティアー1と2になる、第三職業の解禁、召喚獣同化システムの解禁。
なるほど、となるとレベル25では第三職業の専用魔法が解禁されそうですね。
そしてうっかりしていましたが、ドラゴンメイジの専用魔法については知りません。
「フェミニオさん、ドラゴンメイジの専用魔法はどんなものがあるか、ご存知でしょうか。多分、そろそろ使える頃だと思うのですが」
「確かにファナ様はそろそろ使える頃ですね。ドラゴンメイジの専用魔法は、まず全身の防御力を高めるドラゴンスケイル、次に攻撃に使える尻尾を生やすドラゴンテイル、その次は確か空を飛べるドラゴンウィングだったはずです」
「は~。自分がドラゴンの能力を得ていくイメージなんですかね」
「そうだったはずです。しっかり調べればその先も出てくるはずですが、よろしければ総合ギルドの資料室で調べてまいりますが……」
「あ、いえ。最初の方がわかればいいです。それと、第三職業の専用魔法は、第一職業の半分くらいで使えるのか、それとも三分の一くらい使えるのか、分かります?」
「三分の一だと聞いております」
「なるほど、ありがとうございます。同化のヘルプを読んだら、また来ますね」
「はい、ご利用ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
◆
メオンの塔を出た私は、近くの公園でクルミをポリポリかじりながら、ヘルプを熟読していきました。
その結果、だいたいのことは把握できたのですが、同時にいくつか疑問も湧きました。
召喚獣同化システムは、第一職業の未合体の召喚獣としか同化できないらしいです。
しかも一度同化したら、二度と別の召喚獣と同化できないそうです。
つまり今の私ならティアー2のレア召喚獣を同化するのが最適なのですが……さてそうなるとティアー3は存在するのか、という問題が首をもたげるのですが。
もし存在するなら、ティアー3が召喚できるレベル30になってからの方が良くないですか?
でもそんなことを言ったら、レベル40でティアー4が召喚できるようになったときにどうするんでしょう。
……ううむ。
待てば待つほど、強くなる可能性は高まりますが、果たしてそんな不便なシステムにしますかねえ?
折角、同化できるようになったならすぐに同化したくなるのが人情ってものです。
強くなりたいならお預け、なんてことをするとは思えないんですよね。
確かにそういう我慢を強いるゲームはあるのですが、それならばそもそも魔王アインスがヒントを出しに来るとは思えないのです。
今、強くなるために同化すべき。
それがアインスの、十年後のアップデートまでもを恐らく知る人物からのヒントなら、従うべきだと思うのです。
これは想像でしかないんですが、レベルが上がれば同化した召喚獣を強化したり、別の召喚獣に変更したりするシステムが解禁されるのではないでしょうか。
……とすると、今すべきはレベル分の召喚獣を引いておくことですかね。
いやこれは、いついかなるときも引いておくべきなんですが。
ひとまずこの街のネクロマンサーギルドへ向かうことにしました。