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幻想と召喚の絆  作者: イ尹口欠
森人族の少女とメオンの塔編
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「ちょおっと待ったぁ!!!」


 まさに森人族の里を旅立とうとしている私たちに、大音声の待ったがかかりました。

 見れば森人族の少女……あ、少女とは限りません。外見からでは実年齢が計れないのがこの種族でしたっけね。


「あー。どなたでしょうか?」


「私はこの里長の孫、ノマキよ! あなたたち、メオントゥルムに行くって聞いたから同行させてもらおうと思ってね!」


「は? 何を勝手なことを……里長やネイヒェルさんの許可は取ったんでしょうね?」


 私は不審なものを感じ取って、というかゲームイベント的にはこれ、確実に家出でしょう。

 思わず半眼になってしまうのも仕方のないことです。


 カナコさんも感じるものがあったのか、少し引いてますね。


 そしてタイミングのいいことに、里長が早歩きでこちらに向かってきているのが、推定少女の背後に見えます。

 あ、ネイヒェルさんが先行して走ってきますよ。


「こらノマキ!! 何をやっている!?」


「げ、お兄様……! うわ、お祖父様もいる!?」


「当然だ、客人の見送りだからな。部屋を見に行ってみれば、もぬけの殻、しかもその大荷物だ。まったく何を考えている……かは見れば分かるな。お前、ファナたちについていくつもりだな?」


「そ、そうよ! 私、こんなひなびた里で一生を終えるつもりはないのよ!」


「ドラゴンメイジを目指すのではなかったのか?」


「目指すわよ! でもこのままじゃいつ挑めるか分からないじゃないの! 私はメオントゥルムで第二職業を得て、強力な合体召喚獣でもってドラゴンを倒すのよ!」


 その言葉にネイヒェルは頭が痛いとでも言いたげにこめかみを押さえて、首を振りました。


「我が里では、いや里の者ならば、インセクトクイーンのみでドラゴンと渡り合えねばならない。そんなことは百も承知だと思っていたのだがな」


「そ、それは……」


 うん?

 第二職業もなしにドラゴンに挑むのはかなり無謀ではないでしょうか。


 私とて合体召喚獣がいなければ、ドラゴンのソロ討伐なんて絶対に無理だと思うのです。

 いやまさか、この里にいるという三人のドラゴンメイジは、第一職業のインセクトクイーンのみで試練を突破したとでも言うのでしょうか。


 ノマキさんの言っていることは、あながち間違いとも思えません。


 ただ里のローカルルールを無視していいとは、外部の人間が軽々に口に出して良いことではないのもまた事実ではあるのですが。


「あの……もしかしてネイヒェルさんはインセクトクイーンのみで試練を突破するつもりなんですか?」


 とはいえ精神衛生上、疑問は解消しておくに限ります。


「ん? ああそうだ。我が里ではギルドがないためインセクトクイーンにしか登録できぬし、ドラゴンの助力をより多く得るために第二職業の取得は避けられている」


 なるほどー。

 ネイヒェルさんの一言で疑問は氷解しました。


 つまり第二職業にドラゴンメイジを選択できれば、第三職業で選択するよりも、より多くのドラゴンを召喚できるということでしょう。


 しかし私の感覚だと、第三職業が選択できるレベル30近くまで鍛えなければ、第一職業のみでドラゴンを討伐することはできなさそうです。

 ……プレイヤーにはあまり旨味がない慣習のように思えます。


 いやしかし、もし仮に第二職業にドラゴンメイジが選択できれば、通常攻撃代わりにドラゴンを召喚できるようなものなので、確かに強いかもしれません。

 縛りプレイのご褒美みたいなものかもしれませんが、私には既に関係のない話です。


 兄妹が侃々諤々(かんかんがくがく)と言い合うのを眺めていると、ようやく里長が到着しました。

 のんびり歩いてくる里長の表情は、まるでよくある光景だと言わんばかりに笑顔です。


「こら、その辺でよさんか。客人の前でみっともないぞ」


「あ、お祖父様。……ファナ、申し訳ありません。お見苦しいところをお見せしました」


 いえいえ私は気にしてませんけどね。


「ふん!」


「おいノマキ、お前も謝らないか!」


 しかしノマキさんは「私は何も間違ったことは言っていない」という態度を崩しません。


 うーん。ありがちなイベントですねえ。

 こうなってくると落とし所も見えてきますよ。


「別に足手まといにならない限りは、ノマキさんがついてくるのは構いません。もちろん、里長とネイヒェルさんの了承を得られたら、ですが」


 なので先に釘を差しておきます。


「うぐ……」


「ふん。ファナ、気を使わなくてもいいぞ。ノマキはまだ未熟だ。里の外に出すわけにはいかない」


 提案を一蹴したネイヒェルさんに、しかし里長が止めに入ります。


「いや待てネイヒェル。ノマキを行かせるのも手だぞ」


「何を仰るのですか、お祖父様!?」


「考えても見よ。ここ何十年もメオントゥルムから召喚士が来ない。そしてアドリアンロットから召喚士が、しかもドラゴンメイジになれる手練がやってきたのだ。託すのも手ではないか」


「うぬ……」


 正論ですね。

 実際、森人族の里は何十年も外部との接触がないまま長い年月を過ごしてきました。

 彼らの寿命や時間感覚からすると大したことのないようにも思えますが、しかし不便でしょうし、刺激も少ないでしょう。


「ノマキや。メオントゥルムで第二の職を得て強くなったなら、里に戻ってくるように。そのときにできるだけ外の世界の情報と物資を持ち帰りなさい。それが旅に出る条件だ」


「はい、お祖父様。大好き!!」


 ノマキさんが里長に抱きつきますが、それをネイヒェルが複雑そうに見ています。


 ノマキさんをメオントゥルムにやれば、強くなって帰ってきたノマキさんから外の物資や土産話が手に入る。

 実に合理的判断です。さすが里長ともなると視野が広いですね。


 対してネイヒェルはまだ若いようで、ノマキさんの我が儘を利益に結びつけることができませんでした。


 里長は申し訳なさそうにしながら、私たちの方に頭を下げます。


「そういうわけで、ノマキのことは頼みます。ファナ、カナコ。おいネイヒェル、宝物庫に死蔵しとった杖と鎚があったろう。あれを差し上げろ」


「え、あれは……はい。分かりました」


 おや、アイテムが報酬でしたか。

 これはなかなかありがたい展開ですね。


 使いっ走りになったネイヒェルさんが持ってきたのは、サファイアの杖+5と鍛冶師の鎚+4でした。


 サファイア、つまり宝石系の杖は魔石と同様、特定の属性を強化します。

 ただし威力や精度の強化ではなく、消費MPの軽減効果を持つという性質があり、魔法をより多く打てるようになる優れものです。


 威力重視の魔石と継戦能力重視の宝石は好みの分かれるところですが、ストレージから装備を入れ替えるのに十秒もかかりませんから、使える属性の杖は両方揃えるのが魔法使いの常識です。

 あ、βの常識ですよ、多分正式版でも変わりませんけど。


 ちなみにサファイアは水属性の消費MP軽減効果ですね。

 ちょうどドラゴンの試練で上げた水魔法がより多く使えるので、ありがたいです。


 カナコさんも鍛冶スキルに修正のある鎚を手に入れて大満足のご様子。


「お祖父様、私にも何か頂戴!」


「これノマキ、あれは御礼の品だ。己の実力で優れた得物を手に入れるのも修行の内だぞ」


 ノマキさんがぶーたれてますが、まあ仕方ないでしょうね。


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