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【魔王アインスが悪魔を召喚しました】
【速やかにこれを討伐してください】
システムアナウンス、遅いですよ!
っていうか討伐できるんですかね、魔王ですけど!?
「ああ、心配ありませんよ。私は魔王の中で最弱ですので」
「それ、倒される前に本人が言うセリフじゃないですよー!?」
「ははは、本当だ」
《デビルサモナー“魔王”アインス
Lv20 格闘6 歩法4 火魔法2 光魔法4 筋力強化6 知力強化 精神強化 悪魔同化》
《シャドウサーヴァント
Lv20 影刃6 飛行3 非実体2 闇魔法5 闇耐性5》
見慣れないスキルがいくつかあります。
いかに魔物知識があっても、スキルの内容までは分かりません。
ですが分かることもあります。
シャドウサーヴァントを入れて敵の召喚獣は五体。
そしてアインス本体を含めれば……こちらの人数とレベルは同じであるということ。
……舐めてかかってくれるものです。
これがゲームのイベントならいざしらず、外から来た人間の仕業だと思えば、怒り心頭、意地でも負けてやる気にはなりませんよ!
ハーピーとシャドウサーヴァントがふわりと浮かび上がり、制空権を取ろうとしてきます。
頭を抑えられると動きづらいですね、こちらも応戦しましょうか。
「グラインダーはハーピーとシャドウサーヴァントを牽制。別に倒しても構いませんけど、無理はしないでください。セルフィは騎竜召喚後にブレスで敵地上戦力を薙ぎ払ってから、やはりグラインダー同様に敵空中戦力を撃滅。かかれ!」
ぶわり、と生ぬるい腐臭を伴った風がセルフィから流れ出すと、足元からぬぅっとドラゴンゾンビが現れます。
それにまたがり、セルフィは槍を掲げて――
ごわぁあああああぁぁ……!!
紫がかった毒々しい煙が敵陣を襲います。
おお、これが猛毒の吐息……!
素敵です!
ミノタウロス、ヘルハウンド、そして魔王アインスまでもが、もがき苦しむさまは見ていて大変、心躍る光景ですね!
良いザマです。
シュッ、シュルルるる……!
少し大ぶりになったグラインダーは、猛毒の霧を物ともせずに空中戦力に向かっていきます。
ドラゴンゾンビもぶわりと羽ばたき、グラインダーの助力に向かいます。
恐らく長く空中で戦うことは出来ないでしょうが、それでも敵戦力を削れればそれでいいのです。
咳き込んでいる魔王アインスを尻目に、いまかいまかと命令を待っている子たちを戦闘に参加させてあげましょう。
「マドカはファイヤボールで先制攻撃、その後はブラインドかファイヤアローで支援を。ヨサクとムラマサは切り込んで、敵を殲滅してください! よし、かかれ!」
命令の途中でしたが、三体が最後まで聞くことはありませんでした。
マドカは迷わずファイヤボールを敵陣に撃ち込み、ヨサクは魔王アインスに、ムラマサはまずいちばん弱そうなヘルハウンドに斬りかかりました。
ギィン!
しかしムラマサの刀は、間に割って入った巨大な斧によって防がれます。
ミノタウロスの巨体に見合う巨大な鉄の塊。
さしものムラマサもそれを切り裂くことはできません。
ヨサクは魔王アインスに果敢に攻め込みましたが、アインスが素早い動きで格闘距離に踏み込み、思うようにハルバードを振るえません。
ゴッ!
ガッ!
ドゴッ!
小刻みに乱打されるアインスの拳。
筋力強化が第六段階にも達している魔王の拳は、普通ならばとっくに内蔵破裂で死んでいる威力があることでしょう。
しかし骸骨のヨサクに内蔵はなく、そもそもスペクターであるヨサクは非魔法攻撃無効のおかげでダメージを受けません。
殴った手応えがないことに気づいたアインスが、「しまった」と顔を歪めたのは大きな隙でした。
「……ブラインド」
マドカの盲目魔法が、アインスを捕らえます。
……が、しかし。
「おっと。ライト!」
光魔法の第一段階、ライトは蛍光灯のような灯りを作り出す魔法ですが、同時に闇魔法のブラインドを解除するという性質を持っています。
ブラインドは強力な魔法ですが、所詮は第一段階の魔法です。
解除手段も、対となる光属性の第一段階についでのように存在しているわけで、決して万能ではありません。
「マドカ、ブラインドはもういい。スティールマインドでアインスのMPを奪い続けて!」
「相変わらずファナさんはエゲツないなあ」
「知ったことですか。悔しければ闇耐性でも付けてくるんでしたね!」
「ではそうしましょう」
「……は?」
ズルリとアインスの背から蝙蝠のような翼が生え、メキメキと頭部からは牡羊の角が、更にはインプのような尾っぽまで生える始末。
これが悪魔同化スキルとやらの効果なのは間違いないでしょう。
《レッサーデーモン“魔王”アインス
Lv20 格闘6 歩法4 火魔法2 光魔法4 筋力強化6 知力強化 精神強化 飛行2 全属性耐性3》
全属性耐性!?
「闇耐性どころじゃないし!!」
「まあまあ、そう言わずに。お付き合いください、――セレスティアルレイ!」
聖なる光線がヨサクを貫きます。
マズイ、対アンデッドに効果的な光魔法の第四段階にある攻撃魔法です!
「マドカ、アインスは無視。空中の援護に!」
そろそろセルフィのドラゴンゾンビの効果時間が気になってきます。
地上に注意を払っていたので戦況が不明ですが、さて?
アインスから視線を切るのは不安ですが、必要ならば対空戦力を投じなければ――ってなんですかあれは。
ドラゴンゾンビがハーピーを握りつぶす勢いで掴み、それをセルフィが槍で突き回しています。
グラインダーはシャドウサーヴァントを追いかけ回し、時折凄い回転を伴った体当たりで敵を切り刻んで遊んでいました。
「……マドカ、たびたび命令変更して申し訳ないのですが、ムラマサの援護です」
「……ファイヤ、アロー」
飛んだ火の矢はしかし、火耐性の高いヘルハウンドが身を挺したため有効打にならず。
ムラマサは物理攻撃しかできないミノタウロスを無視してメデューサと切り結んでいますが、ダメージこそ無いもののミノタウロスの斧で体制を崩され、ヘルハウンドの火の吐息に注意をはらいながらで苦戦気味です。
いやそもそも軽快さを持ち味にしているはずのムラマサの動きが、かなり悪いです。
もしかしたら石化の視線というものの効果でしょうか。
いきなり石にされるのではなく、徐々に動きを鈍らせるタイプなのかもしれません。
……というか、ムラマサが三体を相手にしている状況は非常にマズイのでは!?
「マドカ、ムラマサの戦っている相手にブラインドを!」
「……ブラインド」
唱えること三回。
しかしメデューサは精神強化が高いためか、効いている様子はありません。
ミノタウロスは盲目になったようですが、高い気配察知のお陰でムラマサのいる場所に大雑把に斧で薙ぎ払いを続けています。
ヘルハウンドも盲目になったはずですが、どういう理屈か的確にムラマサに火の吐息を吐き続けています。
一方、ヨサクは魔王アインスのセレスティアルレイに苦戦していました。
光線は何も光の速さで襲い掛かってくるわけではありません。
肉眼で追える程度の速度の光条が対象に向けて放たれるというもので、決して回避ができないものではないのですが……ヨサクは重装備で回避はあまり得意ではありません。
高い能力値によって鎧などで受けて致命傷を避けていますが、そもそも合体した時点で鎧もヨサクの一部です。
ムラマサとヨサクのHPがゴリゴリと減っていくのを見て、ようやく私が何もしていないのが数的不利を作り出していることに気づきました。
戦況把握と命令に徹しすぎましたね。
これはマズイです、今からひっくり返せますかね?