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配置が悪くて二体ほど残しましたが、ジャイアントアントを気持ちよく消し飛ばすことができました。
ドラゴンブレス、これはなかなかいいものですね。
惜しむらくは爪を合体に供してしまったため、そっちを試すことができなかったことでしょうか。
合体させる前にせめて一発、試しておくべきでしたね。
この辺のうっかりは既にカナコさんに絞られた後です。
じゃあ後はセルフィの騎竜召喚も見ておきましょうかね?
そう思っていたところ、何やらヨサクたちがおたおたと怯えるような態度で、上空を見上げています。
「……何かありましたか?」
白い仮面をかぶった男が、上空に佇んでこちらを見下ろしていました。
《?デビルサモナー
Lv?》
「げ」
私が気づいたことに気づいて、デビルサモナーはゆっくりと地上に向けて降りてきます。
しまった、虎の子のドラゴンブレスを二発とも使い切っている!?
タイミングは最悪です。
いや、まだセルフィの騎竜召喚が残っているのがせめてもの幸いでしょうか。
しかしなぜこのようなタイミングで、デビルサモナーと遭遇してしまったのでしょうか?
特にイベントなどの前フリはなかったはずなんですが……。
「こんばんは。良い月夜ですね」
「こんばんは。……あなた、前のデビルサモナーじゃないですね」
「前の? ……ああ、朽ち果てた寺院? あれは僕じゃないですよ」
よく観察すれば体格もかなり違います。
以前の奴はすらりと長い手足の、どことなくスマートな痩せ型。
いま眼の前にいるのは、中肉中背というか、特徴のない体型をしています。
危険ですね。
率直に危険を感じます。
体型に特徴がないということは、それ以外に特徴がある、ということに他ならないからです。
ゲームにおいてキャラ付けは大事ですからね。
コミカルな演出を含めて、敵には特徴的な外見が与えられるものです。
デビルサモナーの外見は、両目と口のところにぽっかり丸い穴の空いた白い仮面と、空飛ぶ生きたマントであるシャドウサーヴァントです。
これらは共通する外見的特徴であり、彼らの中での個性ではありません。
だから、そう。
外見に特徴がないということは、中身に特徴があるということで。
それは大抵は強さだったり、地位だったりします。
「デビルサモナーが複数いるなら、あなたにも名前がありますよね。伺ってもよろしいですか?」
「名前? ああ、もちろんあるよ。アインスだ」
「アインス? ……ツヴァイやドライもいそうな名前ですね」
「あはははは。そうだね、アインス、ツヴァイ、ドライ、フィーア、フュンフ、ゼクス。今のところは六人いるかな」
「ほほう、では寺院で会ったのはどれですか」
「うーん。あいつに名前はあるのかな、知らないよ」
ゾワリと背筋が泡立ちます。
違う。
こいつは違う。
NPCではない。
中に人が入っている!!?
「プレイヤーがデビルサモナーになれるとは聞いたことが無いのですが……」
「うん? 何の話をしているんだい?」
違いましたか。
ならコイツはなんなんですかね、一体。
可能性はみっつに絞られました。
まずひとつ目。
「あなたは運営のスタッフですか? もしくは原口さん本人とか」
「いや、僕は運営でも原口さんでもないよ」
ではふたつ目。
「じゃ運営に雇われたアルバイトとかですか?」
「いいや。そういう立場でもないし、特に報酬などは貰っていませんね」
最悪でした。
残る可能性はもう、ひとつしかありません。
「あなた、十五年後の現在からログインしていますね!?」
「あー……凄いな。さすがだ」
顔に手を当て、天を仰ぎ見ます。
隙だらけのその所作に、一瞬攻撃をしかけようかと思いましたが、情報が欲しいので踏み止まります。
「……絞り込もうとするような質問だとは思ったけど。……今の会話だけで確信が持てるものなのかな?」
「ええ。NPCではなくプレイヤーでもなく、ブレインエミュレーションされた当時の運営スタッフ関係者でもない。原口さんが自分をコピーしたわけでもないのなら、答えは、現在からログインしている人間しかいません」
「まあそうなるか。しかし現在から、か……。ここは過去なんだなあ」
仮面で表情は見えませんが、感慨深そうな声の調子ですね。
一体、彼は何者なのでしょうか。
「それで。私に何の用事ですか? 原口さんが私に用事があるなら、メールを私に送るだけで済むはず。あなたは原口さんのあずかり知らぬ方法で、このサーバーにログインしているのでは?」
「ファナさんは時々、考えすぎることがあるよね」
「……っ」
「今日は挨拶を兼ねて来ているんだ。原口さんからの了承は取り付けてある」
「では……」
一体、この遭遇はなんなんですかね。
ゲームのイベントじゃないから、先の展開が予測できません!
「用事はふたつ。ひとつめは原口さん絡みでね。これは包み隠さず、事情を知っている君にだけ伝えることになっている」
「そうですか。どんな内容ですか」
「ファナさん。ゲームのアップデートって、別に新しいデータが追加されるだけじゃないんだよ。新しいマップが追加されることもあるんだよ」
「は、マップ? ……あ!」
「気づいた?」
そうでした。
十年分のアップデートが全て適用済みだというなら、私たちは自由にどこへでも行けてしまうのです。
それこそサービス開始当初から行けたマップだろうと、ゲーム終盤で追加されたハイレベルなマップだろうと、地続きになってしまっているのです。
しかし本来ならば、アップデートされる度に新しいマップを目指してプレイヤーは移動するものです。
「僕らの目的はプレイヤーの誘導だよ。『君はどこそこに行ったことがあるかい?』みたいなことを丁寧に伝えて、できるだけアップデートの順番通りに誘導するのが目的なんだ」
「確かに必要なことですね」
必要なこと、ではありますが。
しかし原口さんらしくもないです。
こんな違法行為に、他人を巻き込むだなんて!!
「アインスさん、あなたはこのゲームサーバーをどう思いますか? ブレインエミュレーションされた多数のプレイヤーたちのことを、どう考えますか?」
「……それについては、なんとも言えないな」
「重大な違法行為です。あなたはそれに、手を貸すということになるんですよ?」
「……そうだねえ」
ゆるり、と頭を振って言いました。
「そんなことはどうでもいい、かな。バレるつもりもバラすつもりもない。バレない犯罪は犯罪じゃないんだよ」
「それは……そうですが……」
「ファナさんはゲームクリア後もここで生きていくんだろ? 大丈夫だよ、僕は君を殺したりなんかしない。むしろできるだけ長生きしてくれるように、サーバーの維持を手伝ってもいいくらいだ」
分かりません。
この人が、一体なにを目的に行動しているのか、まったく。
「そうそう。それとふたつめの用事なんだけど」
言うやいなや、四体の悪魔が召喚されました。
《メデューサ
Lv20 爪5 蛇頭5 回避2 地魔法4 闇魔法3 石化の視線6 知力強化3 精神強化4 感知強化4》
《ミノタウロス
Lv20 斧5 頑健7 筋力強化9 気配察知5》
《ハーピー
Lv20 蹴爪5 呪歌6 歌唱5 飛行3 敏捷強化2 精神強化5》
《ヘルハウンド
Lv20 牙6 火の吐息2 連携2 筋力強化2 敏捷強化4 火耐性5》
そして急に雰囲気と口調が変わり、
「僕の名はアインス、魔なる神に仕える魔王のひとり。だから善なる神に召喚されし者よ、かの愚神に招かれた者として、」
彼は手を上げて、
「――ここで死ね」
振り下ろしました。
気ままに書いた短編をアップしました。タイトルは
『PKs - 人を傷つけることに躊躇いを覚える優しい少女を無慈悲なPKに育てる話 -』
です。なおR15残酷描写ありなので、ご注意を。
とりあえず『幻想と召喚の絆』が優先なので、『PKs』は不定期更新です。