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幻想と召喚の絆  作者: イ尹口欠
桜が乱れ咲く里編
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 大歓迎。


 そう言い表すのが適切でしょう。


 桜の乱れ咲く里は、風光明媚もはなはだしく、そこに住む森人族の美貌と相まって不思議な世界観を演出していました。

 そこで里の集会場で出来る限り持ち寄った酒と料理に舌鼓を打って、いろいろな話をしたり聞いたりしました。


「つまり、お主らは山の番人であったスノウ・ワイバーンを倒してきたのか!」


「はい。あ、もしかして倒すとまずかったですか?」


「いんや。そうじゃないが、普通はあれ、相手にせずに逃げるもんだろうて」


「ああー……」


 そうですね。

 逃げるという手もありましたね。


 ボス戦だからと思って、完全に倒す以外の選択肢が頭にありませんでした。


「まあそれだけの腕があるなら申し分ない、明日は我が家を訪ねてくれ。そこで改めて少し話そう」


 おっと来ましたよ。

 一体、何を頼まれるんですかね?


 宴席ではカナコさんがゲームのイベントだと割り切って、彼女にしては比較的社交的に振る舞っていましたが、慣れないことをしたせいか中盤から疲れ切った様子でちびちび料理をつつくだけになっていました。


 私は大いに楽しんだんですけどねー。

 ウケが良かったのは低レベル朽ち果てた寺院攻略ネクロマンサー縛りの話でしょうか。


 デビルサモナーの件も含めて、最後は拍手喝采でしたからね。


「やるなあ。さすが善の神に召喚された召喚士だ。しかしネクロマンサーというのは珍しいしな」


「だな。この里にネクロマンサーが来たのはいつぶりだ? ここ百年は来てないだろう」


「来とらんなあ。戦うのはそう得意でもないという話だし、イメージもあまりよくないしなあ」


 ネクロマンサーが使役していない自然発生するアンデッドは不浄なる存在として忌み嫌われています。

 とはいえネクロマンサーが使役していたとしても、やっぱりアンデッドに忌避感を覚える人も多いわけで。


 そういう意味でも、やっぱり不人気なんですねえ、ネクロマンサー。

 ま、私の中でダントツ人気あるので、他人の評価なんてどうでもいいんですけどね?


     ◆


 さて熱烈な歓迎を受けた翌日です。


 約束通り、里長の家にやって来ました。


 連れは最古参にして最強、スペクター・ウォーリアバロンのヨサク。

 そしてカナコさんとメイド・ドールの蒼玉と紅玉です。


 あまり沢山つれ歩くのもなんだし、かと言ってまったく連れていないのも不自然ですからね。

 実力を示すためにも護衛や、身の回りの世話役を連れていた方が、里長のこれからの話にも影響があるのではないかと勝手に展開を読んでみたわけですが。


 さて吉と出るか、凶と出るか。


「ほっほう。これはまた別嬪の人形と……スペクターとはな。これなら試練も心配あるまい」


 吉と出た、と判断していいですかねー?

 そして気になるワードが出ましたよ。


「里長。その試練というのはどういうものでしょうか。受けなければならないものですか」


「いや、受けねばならぬ類ではない。気を楽にしていいぞ。……まず、この村にはギルドがない」


「え、ないんですか」


「まあ正確にはギルドという施設はないが、召喚陣はひとつある。里長が代々、ギルドの受付の真似事をして登録をしておる」


 ほほう。

 確かに里の規模を考えると、いちいち箱物を用意して人を常駐させる意味はなさそうです。

 しかし私は、次の言葉にぶったまげました。


「インセクトクイーンとドラゴンメイジという職業だ」


「なん……ですと」


「…………」


 カナコさんもポカンと口を開け放って、その事実に衝撃を受けています。


 そのふたつは聞いたこともない、紛れもなくアドリアンロットの街にない新しい職業なのですから。


     ◆


 アニマルテイマー、エレメンタラー、ゴーレムマイスター、ソウルブリンガー、ドールメイカー、ネクロマンサー。

 アドリアンロットの街に存在するギルドはこれら六職業のみです。


 インセクトクイーン?

 ドラゴンメイジ?


 なんですかそれ、完全に新規要素じゃないですかー!!


「え、それぞれどういう職業なんですか?」


「うん? 知らんのか。まあ確かにアドリアンロットに里の者が行ってもう何十年か経っておるからな。仕方のないことかもしれん」


 聞いてみたところ、インセクトクイーンは道中で出会ったジャイアントアントなどの昆虫を使役できる召喚士らしく、召喚獣は生物でありながらアニマルテイマーの動物より従順であるという性質を持っているそうです。


 ドラゴンメイジは特殊で、契約を結んだドラゴンの力を一瞬だけ借りるというもので、ブレスを一発か、爪で薙ぎ払うかするだけで帰ってしまい、一日の間は再召喚に応じないとか。


 前者はともかく、後者のドラゴンメイジはなんですかそれは。


「ただし強いぞ。そうだな、第十段階くらいの攻撃魔法をタダで一日に一発、契約の数だけ撃ち込めるとしたらどう思う?」


 うん、あれ?


 仮に私が第三職業としてドラゴンメイジを選択すると、多分初期ボーナスで五体のドラゴンと契約できることでしょう。

 その時点で既に五発の特大魔法が約束されている、と?


 そしてレベルアップする度に一発ずつ増える?


 あれ、それヤバいのでは。


「ファナ、多分すごく強い」


「ですよねえ」


 カナコさんも同じ発想に至ったようです。

 しかも合体の可能性を考えれば、更に夢は広がるのではないでしょうか。


「そのドラゴンメイジ、なるにはどうすればいいのですか。先程、試練がどうとか言ってましたけど」


「おお、そうなのだ。ドラゴンメイジになるにはドラゴンと契約を結ぶに足る強さが必要でな。試練を受け、戦い、勝たねばなれない。この里には三人のドラゴンメイジがいる」


 逆に言えば三人しかいない、と。


「どんな試練でしょうか。是非とも受けたく思います」


「まあそう慌てるな。ところでスノウ・ワイバーンを倒したのは二人がかりか?」


「いいえ、三人でした。ひとりは死に戻りまして……」


「ふうむ。まあ三人でも普通は全滅だ。逃げの一手しかない。ひとりの犠牲で勝てるなら見込みはあろう」


「実質、そのひとりは戦闘向きの人材ではなかったので、ふたりで勝ったと言っても過言ではありません」


「ほう、そうなのか」


 カナコさんが私を凄い目で見ながら唖然としていますが、ここは全力で里長に強さアピールをした方がいいと、私のゲーマーとしての勘が告げています。


「ならば大丈夫だろう。おい、ネイヒェル。鈴を持て」


「はい、お祖父様」


 ネイヒェルと呼ばれた青年は、私たちを山の麓に迎えに来てくれた森人族でした。

 どうやら里長のお孫さんだったようですね。


「ネイヒェルはドラゴンメイジを目指して修行中の身だ。試練の内容もよく知っておるから、試練場まで案内させよう」


「それで肝心の試練の内容とは?」


「うむ。ドラゴンを納得させることだ」


「…………つまりそれは」


「ドラゴンと戦って、勝てということだ」


 いやいやいや。

 無理でしょうそれは。


 ワイバーンにすら苦戦する私たちが、どうやって正真正銘のドラゴンに勝てと!?


「ああ、案ずるでない。戦うのは若い竜で、強さはスノウ・ワイバーン程度だ。それを一人で倒せばいい」


「ひとりで!?」


 スノウ・ワイバーンをソロ討伐。


 ……あれ、出来ますよね、今の私なら多分。


「……無理です」


 カナコさんが悄然として言いました。

 まあカナコさんは仕方ないですね、まだ第二職業も得ていませんから。


「あれ、そういえば里には召喚陣があるのですよね?」


「うむある。使ってもいいぞ」


「ギルドの登録は、やっぱりインセクトクイーンのみですか」


「そうだ。ここではインセクトクイーンとドラゴンメイジのみ、受け付けておる」


 ううん。

 仮にカナコさんが第二職業にインセクトクイーンとやらを選んで合体が上手く行ったとしても、単独でスノウ・ワイバーンに勝てるかと言えば、多分レベルが足りません。


「とりあえず追加の召喚などを行ってもいいですか、試練の前に準備がしたいです」


「おお、そうだな。突然では無理もあろう。すまんすまん、急ぐ必要はない。試練はいつでも受けられる。そちらのお嬢さんも、腕を磨いてから来るといい」


「はい」


 とりあえず追加の召喚ができるのは僥倖です。


 じゃあ早速、新しい仲間を召喚しに行きましょう!


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