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本日は活動報告のブックマーク1250件突破記念SSとブックマーク1500件突破記念SSをこちらに転載しています。
読んでいなくて短編も楽しめる方はそちらもどうぞ。
ソコヤマさんの抜けた穴は思った以上に大きかったようです。
「ファナ、グリズリーが」
「っ迎撃!」
のっそりと木の陰から至近距離に現れたグリズリーに対処するため、慌てて命令を出します。
もちろん歴戦のスペクター・ウォーリアバロンのヨサクは命令などされなくても迎撃するんですけどね。
しかし気配察知要員がいなくなったのは痛かったです。
特に視界の効かない木々の生い茂る山の中では、グリズリーがとても厄介な相手に早変わりします。
北の山と違って複数と遭遇することもありますからね。
正直、気が休まりません。
かと言って気配察知を私が取得するのか、と言われると微妙です。
私は初期作成で器用と筋力を下げ、知力と精神を伸ばしました。
しかし気配察知に関わる重要な能力値である感知が平均的でしかないため、もし気配察知を取得しようものなら、完全にスキル頼りになってしまうのです。
するとSPを大量につぎ込むことになり、本来備えるべき戦闘での手詰まりに対応できなくなってしまうのです。
幸い、カナコさんと私の隊列は周囲に召喚獣を配した密集陣形で、どこから襲われても大抵、私の召喚獣が対処してくれます。
ヨサクはもちろん、スペクター・ブレイドマンのムラマサ、レイス・ソーサレスのマドカは非魔法攻撃無効があるので、グリズリーの奇襲を受けても無傷で耐えます。
そしてスケルトン・ガーディアンのササキはその圧倒的な防御性能で、グリズリーの奇襲を根性で乗り切ることが出来るのです。
常に気を配るためにササキを先頭に配置し、攻撃を受けたらすぐさまリペア・アンデッドを飛ばせるようにしてあります。
最後尾をヨサクに締めてもらって、右にマドカ、左にムラマサ、どこかが襲われたらひとまずその位置から動かず、マドカとカナコさん、そして私の魔法による支援を中心にして迎撃する布陣です。
我ながらなかなかのものじゃありませんか?
「カナコさん、ファイヤボールを」
「分かってる。ファイヤボール」
カナコさんのパワーレベリングも継続中です。
その甲斐あって、カナコさんのレベルは10になったのです。
ただし召喚陣がないため、召喚も合体も、それ以前に第二職業の選択すらできませんが。
とりあえずグリズリーを無事に撃退。
あー、やっぱり私のEXPバーはちびりとしか動きませんね。
「どうします、カナコさん。死に戻って第二職業の選択します?」
「…………」
実はアドリアンロットに戻らなくても、戦力強化は順調と言えなくもないです。
カナコさんの火魔法は第五段階、威力も精度も見違えるほどに上達しています。
今ではグリズリーに有効ともいえるダメージを出すまでになっているので、ようやく適正レベルに辿り着いたといったところでしょうか。
ちなみに未だに第三段階のファイヤボールを使っているのは、MP節約と同時に、第四段階と第五段階の魔法がやや使いづらいためでもあります。
至近距離に炎をまとわせた高威力の拳を叩き込むバーニングナックル、アンデッドを火葬するクリメイション、どちらも特定の状況下ならば輝く魔法ですが、カナコさんの普段使いには不便です。
「……戻りたくない」
「分かりました。とりあえず火魔法も随分上達してきたので、戦力的には十分に貢献していますよ。あとは鍛冶スキルを疎かにしないで、半分以上は回してくださいね。元々、鍛冶師としてプレイするつもりだったんですから。私に付き合わせてスキル構成を歪める必要はないですよ」
「分かっている」
カナコさんは頷くと、「先に行こう」と私を促しました。
◆
出現する魔物はグリズリーだけじゃありません。
「アリだー!」
「カナコさん、ほんとアリのときだけ叫びますよねー」
《ジャイアントアント
Lv14 格闘2 蟻酸2 蟻兵誘引2》
グリズリーと比較すれば随分と弱いですが、コイツの厄介なところは味方を延々と呼び寄せるところです。
また蟻酸は地味に魔法ダメージであるというゲーム的な判定により、スペクター組とレイスの非魔法攻撃無効を突破してくるという嫌らしさ。
蟻酸の何処が魔法なんでしょうねー?
「ファナがこのネタを知らないとは思わなかった」
「それ何度も言われてますけど、結局元ネタはなんなんですか」
「秘密」
これだからもう。
現れたジャイアントアントは全部で三匹でした。
こいつらは上半身を持ち上げて両手でパンチをしてくる雑魚ですが、呼び寄せられるアント・ソルジャーは槍を持って来るので少し強いのです。
仲間を呼ばれる前に、撃破しておきたいですね。
「ヨサク、ムラマサ、手早く始末して。ササキは私たちの護衛。マドカは火矢で援護! かかれ!」
「……!」
「……!」
「……ファイヤ、アロー」
ヨサクとムラマサは蟻に向かって走り出し、マドカは早速、魔法を放ちました。
私もファイヤアローで援護を手伝います。
エクレアさんの作品である火魔石の杖+6と、知力強化スキル第四段階により、火魔法が第一段階でも牽制には十分な威力が出せるのです。
「ファイヤアロー!」
ちなみにゲームなので、火の魔法を森のなかで使おうとも山火事になったりしません。
吸い込まれるようにして突き刺さるファイヤアローがジャイアントアントのHPバーをガリっと減らし、怯んだところへヨサクのハルバードが一体の首を刎ねました。
ムラマサは二体の首を一閃し、戦闘終了――かと思いきや、遠目に新手が来るのが見えます。
「アント・ソルジャーが来ますねー」
若干、うんざりしたものの、倒さなければなりません。
《アント・ソルジャー
Lv18 槍3 蟻酸3 蟻兵誘引3》
そして何が厄介かと言えば、仲間を呼ぶ能力が強化されていることです。
レベルを見ての通りグリズリーよりは弱いのですが、かと言って侮れません。
なんせ相手は、複数体で現れるのが基本ですからね。
最低が三匹、多ければ十匹を越えます。
ジャイアントアントを素早く倒したのが功を奏したのか、出現数は三体です。
しかしこいつらも素早く倒せねば、次がやって来てしまいます。
「マドカとカナコさんはファイヤブラストで焼き尽くして。その後、引き続きヨサク、ムラマサは速やかに敵を排除。かかれ!」
おっと命令を出されていない子がいますよ。
「あ、ササキは私たちの護衛ですよ。特に蟻が来ている方角以外に注意してくださいね」
言うやいなや、ササキは盾と斧を構え、左後方に向けてジリジリと位置を変えていきます。
…………うん?
唐突にファイティングポーズをとったことに疑問を覚えながら、ササキの警戒方向を向くと、そこにはなんとグリズリーがいるではありませんか!!
「なん……だと……?」
グリズリーとアントのコラボレーションは初めてですね。
幸い距離は詰まっています。
つまり突進するための助走距離はありません。
それならばしばらくササキで保たせられるでしょう。
「ブラインド!」
ササキの援護を優先します。
さあ、正念場ですよ!!