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ヨサクとムラマサをパーティから外します。
グラインダーを呼び、エンチャント・ファイヤをかけようとしてはたと気づきました。
もっといい魔法があるじゃないですか。
リビング・チャクラムに投擲スキルはありません。
もはや人が扱う技など意味が無いと言わんばかりに、器物の身体というスキルを代わりに保持しています。
これは武器スキルとはいえないので、ソウルブリンガーの専用魔法インストラクト・スキルでの強化対象ではないのです。
しかしそもそもソウルブリンガーのレベル1専用魔法は、もっと幅広く効果のある強化魔法なのです。
「アウェイク・パワー!」
それは武器・防具の単純なステータスアップ。
これなら器物の身体であるグラインダーにも効果はあります。
更に万全を期すため、
「エンチャント・ファイヤ!」
付与魔法も掛けておきます。
「グラインダー、敵の攻撃を避けることを優先しつつ、翼を狙って攻撃。エンチャントが切れたら戻ってきて」
次にスケルトン・キャスターを呼び出します。
木の杖オンリー、防具なしです。
未合体のアーチャーとキャスターを戦線に投入する気は、私には全くなかったのです。
手持ちの数少ない遠距離戦力だというのに、なに準備不足をかましてるんですかね、私は。
「まずキャスターはウィンドブラストを一発。当ててくださいね」
「ウィンド、ブラスト」
ぎぎ、とキャスターが杖を掲げ、突風が放たれます。
傷ついた翼では上手く体勢を維持できなかったのか、ワイバーンはぐらりと空中でよろけました。
ウィンドブラストは風魔法の第一段階の魔法です。
誘導性能なし、ただしファイアブラスト同様に適度に広い範囲をもち直進します。
ファイアブラストと違うのは、直撃しても吹き飛ばすだけ。
高温で焼くことができる火魔法の第二段階の魔法とは違います。
……しかし思ったより悪くないですね。
翼を十分に傷つけた後になら使えそうです。
一度、地面に落とせば勝機はなくもないのです。
いや、マドカがMPを使い切ろうとしているのはマズいですね。
「マドカ、一旦やめ。キャスターはウィンドブラストを一発撃てるだけのMPを残してウーンズで翼を狙いなさい」
「ウーン、ズ」
スケルトン・キャスターの使える魔法は闇魔法が第二段階、風魔法が第一段階です。
初期のマドカを風に変えたような感じですが、ノーマル召喚獣とレア召喚獣の能力値の差は埋めがたいものがあります。
しかし危ないところでした。
地上に落とせる目があるなら、マドカのMPは温存しなければなりません。
「マドカ、シャドウバインドを使うMPは足りますか?」
コクリとうなずきます。
シャドウバインドは闇魔法の第四段階の捕縛魔法です。
地上から影の手が伸びて、相手を雁字搦めにして一時的に身動きを封じることが出来ます。
いや、それより。
「うわ、こっち来た!」
急いでフレンド通信でカナコさんに「ファイヤボール」と送りました。
「カナコさーん!!」
向こうは慌ててファイヤボールを撃って、こちらに気を向けていたワイバーンに着弾。
またも魔法を当てられたワイバーンは、そろそろ本気で怒りをどこかにぶつけないと収まらないようですね。
おっとブラインドが切れていませんか。
カナコさんを睨みつけましたよ?
しかし私の第三段階の闇魔法が果たして効くでしょうか。
……ここはSPの使い所でしょうね。
未取得の知力強化を一気に第四段階まで、取得成長させます。
知力は魔法の命中に関わる能力値ですので、これで闇魔法が第五段階で知力強化が初期段階のマドカと同等かそれ以上の成功率を見込めるでしょう。
素直に闇魔法を伸ばさなかったのは、私には火魔法と地魔法もある上に、他の属性の魔法を習得しないとも限らないからです。
「ブラインド!」
無事にワイバーンを盲目にして、……遂にアーチャーの矢が尽きましたね。
半分どころか三分の一も命中しなかったのではないでしょうか。
さすがに未合体ではステータスもスキルも足りませんか……。
飛んでいる相手というのも悪かったですしね。
アーチャーをパーティから外し、再びヨサクを呼び出します。
「ヨサク、指示はさっきと変わらず。ただワイバーンが地に落ちたら翼を優先的に破壊してね」
そのくらいは分かっている、と強く頷かれた気がします。
心強いですね。
私はMPポーションを一本消費し、ウーンズで翼を狙っていく作業に戻ります。
「ウーンズ! ウーンズ!」
同じ魔法を連呼していると舌を噛みそうになりますが、そこはできるだけ落ち着いて詠唱するようにします。
浮力が落ちているのでしょうか。
徐々にワイバーンの羽ばたきが大きくなり、高度が下がってきているように見えます。
「よし。少し接近します。キャスターはウィンドブラストを当てる準備をしておいて。マドカはワイバーンが落ちたらシャドウバインド、ヨサクは翼を優先して破壊。翼は片方が破壊できればもう片方はいいです。さあ行きましょう!」
大詰めですよ!