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幻想と召喚の絆  作者: イ尹口欠
北の山編
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45

 北の山の山頂付近は残雪がありましたが、スノウ・ワイバーンなんてのもついでに出現するとは思いませんでした。

 ええ、というかグリズリーと15レベルも差のある化物が出て来るとか、誰が思いますか。


 ……ただまあ、一体です。

 恐らくはフィールドに出没するボスのような存在なのでしょう。

 これがグリズリー並みにエンカウントするようなら、旅のことは考え直したほうがいいかもしれません。


「パーティ変更します。できれば刺激しないように、時間を稼いでください!」


「ど、どうやって」


「私が気を引いてみましょう!」


 ソコヤマさんが気配を消して疾走します。


 あ、ワイバーンがチラリと横目に見ましたよ。

 なんだか嫌な予感がしますね?


 ササキ、マルキド、セルフィをパーティから外して、ムラマサ、マドカ、グラインダーのいつものメンバーに戻します。


「敵は飛んでいる。地上に落ちたら、ヨサクとムラマサで攻撃。グラインダーは私たちの護衛だ。奴が近づいてこようとしたら牽制しろ。翼の皮膜を狙える自信があるなら開幕に一度だけ攻撃に行くことを許可する。マドカ、ブラインドを」


「……ブラインド」


 マドカの闇魔法は第五段階、第三段階の私よりも成功率はたかいはず。


 ……効いた!!


 ワイバーンは嫌そうな素振りで首を振り、デタラメに翼と尻尾を振り回します。


 しかし地上に降りてくる気配はなし。

 目が見えなくても平衡感覚を失わないのか、問題なく空に君臨し続けています。


 シュッ!


 グラインダーが飛び出しました。


 命令には自信があればと言いましたが、今の状況ではグラインダーが翼を傷つけなければヨサクたちが戦えないと判断したのでしょう。

 どう見ても滅茶苦茶に動くワイバーンに、いま近づくのは危険です。


 ソコヤマさんの二刀流投擲剣がワイバーンの翼を狙いましたが、あっさりと弾き落とされました。

 どうも翼の硬い部分に当たってしまったようです。


 すぐにメニューを弄って手元に引き戻しますが、――それを許す相手ではありませんでした。


 攻撃の方向を察したのか、ググっと喉から何かがせり上がり、真っ白い息が吐き出されました。


 バシュウウウゥ――っっっ!!!


「ソコヤマさん!」


 氷の吐息……あれで第二段階!?


 ビシビシと凍りつき、砕けていくソコヤマさん。

 あっさりとHPバーが吹き飛び、ソコヤマさんは死にました。


 ほんとうにあっさりと。


 一瞬、呆けそうになりましたが戦闘は続いています。

 気を抜いている暇などありません。


 グラインダーが果敢に攻めますが、被膜に浅い傷をつけることに成功するものの、ワイバーンにはたき落とされました。


 完全に失速してくるくると地上に落ちるグラインダーに、


「リペア・アンデッド!」


 回復魔法を掛けました。


 グラインダーに回復魔法をかけるのは初めてのことです。


 何か打つ手は……スキルリストを開き、逡巡する私を横目に、カナコさんが大槌をワイバーンに向けます。

 カナコさんの大槌は杖のように照準の役割を担っていますが、もちろん先端が無駄に重いので杖の代わりにするには向いていません。


 そんなことはどうでもよく、カナコさんはレベルアップして第三段階になった火魔法を披露するつもりのようです。


「ファイヤボール」


 ファイヤボールはファイヤアローほどではありませんが、緩い誘導性能がある火の玉です。

 大きさは野球ボールくらいですが、着弾すると爆発し、ファイヤブラスト並の範囲を焼き尽くします。


 スノウ・ワイバーンというくらいだから、もしかしたら火魔法が弱点かもしれませんね。

 少なくとも火耐性はありません。


 ――ボンっ!!


 ファイヤボール、無事にワイバーンに炸裂しました。


 ダメージにはなりましたが、地上に降りてくる気配はありません。


 これはマズイ。


 先程のソコヤマさんの二の舞いです。


「カナコさん、人形二体に自分を運ばせて移動、氷の吐息の回避に専念して!」


「!? わ、わかった!」


 カナコさんは初期作成で、器用と筋力を上昇させるために敏捷を犠牲にしています。

 出歩かずに鍛冶に専念する気だったのでしょう。


 このような最前線の戦場に立っている予定はなかったので仕方ないのです。


「よしマドカ。私とウーンズで翼を狙う。MPが尽きるまで試して構わない」


 ウーンズは闇魔法の第二段階の攻撃魔法で、ナイフでつくったような浅い傷を敵につける魔法です。


 直接相手に傷を発生させるため、着弾により攻撃方向が読まれる心配はありません。


 ただまあ、


「ウーンズ!」


「……ウーンズ」


 呪文の詠唱はきっちり相手に聞こえていることでしょうけどね。


 おっと、まだ出来る手がありましたよ。


 グラインダーをパーティから外し、スケルトン・アーチャーを呼びます。


 未合体の召喚獣です。


 さらに実は戦闘初参加。

 どこまで戦ってくれるでしょうか?


「アーチャー、ワイバーンの翼を弓で狙って。矢は撃ち尽くして構わない」


「……」


 急に修羅場に呼び出して恐縮ですが、矢を撃ち尽くすまでは死なれては困ります。


 エンチャント・ファイヤをかけようとして、はたと気づきました。


 矢の一本一本にかけていたらMPの無駄ですね。


 むしろグラインダーにエンチャント・ファイヤをかければもう少し戦果を稼げたでしょうか。

 幸いHPは回復させたので、アーチャーが矢を撃ち尽くしたら入れ替えてもいいかもしれません。


 逃げ回るカナコさんたちに、氷の吐息が何度か吹き付けられています。


 しかし人形に担がれたカナコさんは、なんとかそれを回避し続けていました。


 カナコさんに夢中で、こちらの魔法の詠唱には気づいていないようですね。

 しめしめ、と思っていたら、アーチャーの矢がひゅるひゅるとワイバーンに向かって飛んでいきます。


 ……しまった、裏目だった!!


 ウーンズに気づかれていないなら、アーチャーに攻撃させてはいけませんでした。


 流動的に動く戦況に、私が対応しきれていません。


 冷静にならねば、まずは冷静に。


 一旦、魔法をやめて周囲を見渡します。


 ヨサクとムラマサが所在なさげに立ち尽くしています。


 ワイバーンはようやく自分の翼に多数の傷がつけられていることに気づきました。


 さらに矢が放たれたことにも気づいて、こちらに鎌首をもたげます。


 カナコさんたちはこれぞ幸いにとワイバーンから距離を取りました。


「……ほんと。状況が見えてませんでしたね」


 でもようやく、勝利へ至る細い道筋が見えましたよ。


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