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幻想と召喚の絆  作者: イ尹口欠
プロローグ
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5

 ネクロマンサーギルドを出ました。


 おっと、ただでさえプレイヤーでごった返している街中で召喚獣を連れ歩くのはマナー違反です。

 今はまだいいのですが、レベルが上って連れ歩ける召喚獣の数が増えてくると邪魔になるので、β時代は不文律として守られてきました。


 召喚してそのままだったマドカをパーティ編成から外し、メニューからログアウトを……あれ、どこですかねログアウト?


 β時代からかなり洗練されたユーザーインターフェースですが、おおまかなメニュー項目の位置や内容までは変わりません。


 ここに至って、やけに街中でたむろしているプレイヤーが多い理由に気付きました。

 なるほど、ログアウト障害だったのですね。

 そりゃログアウトできないのは、不安という一言では言い表せられないストレスでしょう、街中で復旧を待つ気持ちも分からなくはないです。


 ブラウザを立ち上げて公式ホームページやニュースサイトを確認しようとしましたが、上手く繋がりませんでした。

 こうしてゲームにログインしているので、回線の問題ではないでしょう。


 ……しかもゲーム開始から既に数時間は経っています。

 運営からのアナウンスすら皆無とくれば、古典的な小説の導入部を彷彿とさせる状況です。


 まあ、そんなことあるわけないのですが……しかし解せませんね。

 VRゲームハードのメーカーでは、ソフトウェア監査部門が必ずゲーム内容をチェックしているため、ログアウト不能などという特大のバグを見逃すはずがありません。

 そもそも人間の五感をゲームに置き換える、つまり脳と神経に関わる技術ですから、メーカーはその辺の安全対策にかなりの人員と予算を割いているのです。


 ……休日出勤なんてことにならないといいのですが。なんにせよ月曜日が憂鬱です。


 さて……仕事のことは忘れて、まずは情報収集ですね。

 β時代の知り合いから当たってみましょうか。


     ◆


 大通りの露天で、目当ての人物を見つけることができました。


「こんにちはー」


「……ファナか?」


「当たりですー」


 β時代とアバターの外見を変えていませんが、成りすましの可能性もあります。

 これでもそこそこ名の通ったプレイヤーでしたからね。


 そして私が探していた目の前の相手……カナコさんもまたβ時代のアバターと外見は同じとはいえ、別人の可能性も無きにしもあらずなのですが。


 露天に並べられている刀剣類は紛れもなくカナコさんの作品でしょう。

 スキルレベルこそ初期か少し伸ばした程度なのでしょうが、そこはβでとった杵柄というもの。

 滲み出るプレイヤースキルは隠せません。


「カナコさんは今回も鍛冶師なんですねー」


 ちなみに鍛冶スキルを取得して生産活動に注力しているプレイヤーのことを鍛冶師と呼び習わすだけで、鍛冶師という職業があるわけではありません。

 何の職業でも、鍛冶スキルをメインに据えているなら、そのプレイヤーは鍛冶師なのです。


「そう言うファナは、どうせネクロマンサーだろ」


「ザッツライト! その通りでございますー」


 好きなプレイを貫く、その点でカナコさんと私は互いに仲間意識を持っています。

 私はネクロマンサー、カナコさんは鍛冶師。

 まあお互いソロだし何かあったら無理のない程度に助け合おうねー、くらいの軽い関係ですが、基本ソロ気質の私たちにとってはこの程度の距離感が丁度いいみたいです。


「で、カナコさんは何の職業にしたんですか?」


「ドールメイカー」


「なるほどー、生産重視ですねえ」


「そういうこと」


 ドールメイカーは人形を召喚する職業です。

 基本はアンティークドールのような人間を模した球体関節人形で、ランダム生成される外見は美男美女揃いなうえにオンリーワンでもあります。

 人形を愛でるだけでも楽しい職業ですが、性能もなかなか侮れません。

 人形に部品を組み込むことで、戦闘、生産、何にでも対応できる汎用性の高さがウリなのです。


 カナコさんはおもむろに人形を召喚しました。

 腰まで伸びた青いロングヘアに宝石のような瞳、そして……


「いきなりメイド・ドールですかー」


「運が良かった」


 エプロンドレスのメイドさんです。

 男性プレイヤー垂涎のレア召喚獣ですね。

 もちろん性能も高いはずです。


「じゃあ私の方もお披露目しますかー」


「……どうぞ」


 なぜそこで目が泳ぎますか、カナコさん。


「まずは第一のしもべ、可愛い可愛いスケルトン・アックスマンのヨサクですよー」


「うん」


「お次はゾンビ!」


「……」


「なぜ目を逸らすんですかー……まあいいです、更に更に定番のゴースト!」


「……うん」


「そしてなんと最後にリッチ・ガールのマドカちゃん!」


「……リッチ・ガール?」


「はい。βのときはいませんでしたよねー。新しく実装されたのかもしれませんねー」


「いくつかあるみたい。新召喚獣」


「あ、やっぱり他の職業でも増えてるんですねー」


「ていうか……もうレベル4?」


「ずっと狩りしてましたからねー」


「この状況で……」


 カナコさんは呆れたような視線を投げかけますが、露天に並んでいる商品を見るに、彼女も平常運転だったことは明らかです。


「で、カナコさん。教えてほしいんですが……ログアウト障害、いつからなんですか? 私、気づいたのがついさっきでして」


「あんなに騒ぎになってたのに?」


「いや面目ない。スタートダッシュで頭が一杯だったんですよー」


「……気持ちは分かる」


 ですよねー?

 スタートダッシュ、大事ですよねー?


「最初から」


「え?」


「サービス開始からずっと、ログアウトできない」


「……マジですかー」


「マジ。リセマラ勢がキレてた」


「うわー」


 状況は思った以上に深刻なようです。


 しかしこのゲームでもリセマラ……リセットマラソンするプレイヤーがいるんですねー。

 正直、最初の召喚獣でレアを引くまで粘らなくても、レベルアップでいずれ引けると思うのですが。

 アカウントの再作成に費やす時間を考えると、さっさと始めてレベリングした方がいい気がします。


 そんなことを言ったら、カナコさん曰く「メイド・ドールを絶対に引きたい男性プレイヤーと、バトラー・ドールを絶対に引きたい女性プレイヤーが結構いた」そうで。

 なるほどー……この話題、止めましょうか。


「カナコさん、今度うちのヨサクに片手斧を作って欲しいです」


「ヨサク……斧スケルトンのこと?」


「はいー。それとも予約で一杯だったりします?」


「いや、まだ始まったばかりだから。私でいいのか」


「カナコさんの腕前なら信用できますからねー」


 ふっとカナコさんの表情が緩みます。

 こういう所が可愛いんですよねー、このひとは。


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[一言] リッチ・ガール!? 少女時代に魔法を極めたのかー
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