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「グリズリーです!」
ソコヤマさんの悲鳴が叫び渡ります。
「防御、迎撃に徹して」
カナコさんは素早くチャラ男とビッチに命令を出します。
そしてソコヤマさんがすごい勢いで近くの木に登って逃げました。
たいへん既視感のある光景ですが、これでグリズリーを狩る準備は万端ですね。
今回のパーティ編成は前回とは違ってお試しの要素を多分に含んでいます。
具体的には、スペクター・ウォーリアバロンのヨサク、スケルトン・ガーディアンのササキ、デュラハンのセルフィ、リビング・チャクラムのグラインダーといった構成です。
ムラマサとマドカが抜けてどことなく頼りない感じが、堪りません。
果たしてこれで、グリズリーが上手く狩れるでしょうか?
「ヨサク、ササキ、セルフィは歩調を合わせて前進、グリズリーをあなたたち三体で押さえ込みなさい。グラインダーは自由に攻撃、ただし味方の邪魔をしないように注意。かかれ!」
ササキ、セルフィを左右に進ませ、中央をヨサクが二体の進む速度に合わせて前進するという感じですね。
相変わらずグリズリーは獲物を見るや突進一択のようです。
まっすぐに突っ込んできました。
さすがに二メートルの巨体、その運動エネルギーをどうにかしろというのは酷でしょう。
支援を決めます。
「ブラインド!」
ギャリギャリギャリ! と砂利を巻き上げながら、グリズリーは急停止しました。
しかしジリジリと詰め寄るヨサクらに業を煮やしたのか、……グラインダーが飛び出しました。
シュッ、シュルルルル……ッ!!!
一度空中を飛び跳ねるようにホップしながら加速、水平回転から垂直回転に移行してグリズリーに迫ります。
グリズリーは耳をぴくぴくさせながら迫りくる何かに対応しようとしますが、まさかそれがチャクラムであるなど、しかも意思を持って動き回るなど予測もし得ないでしょう。
……そういえばアンデッドのくせにリビング・チャクラムなんですよね。
まあ「生きているチャクラム」ではなく意訳で「生きているかのようなチャクラム」といったところなんでしょうけど。
グリズリーは高速で迫るグラインダーを避けましたが、くるりと空中で軌道を変えられては敵いません。
シャっ!!
グラインダーは首元を切り裂き、そのまま離脱。
どうやら距離をおき、侵入角度を変えていくつもりのようです。
見えてない相手にゲスい戦法ですよ、この問題児。
しかしヨサクたちが戦線に到着したため、グラインダーは「もはや活躍の機会が失われた」と嘆くかのように、ゆるゆると速度を落とし始めました。
ズドッ!
長柄の斧として振るわれたヨサクのハルバードが、グリズリーに突き刺さります。
グリズリーの左肩にグッサリ食い込んだハルバードを一旦引き抜くと、今度は槍として顔面を突きに行きます。
しかしグリズリーは首筋を切り裂かれてすぐに肩を破壊されたことで不利を悟ったのか恐慌状態に陥り、素早く後退を始めました。
それを追い縋るように、伸びるような槍の一撃がグリズリーに突き込まれました。
デュラハンのセルフィの鮮やかな初撃です。
対してスケルトン・ガーディアンのササキは盾を前にジリジリと距離を詰めていきます。
ちょっと何してんの、早くトドメを刺しなさい!
ササキがもたついている間に、セルフィの槍が二度、三度とグリズリーを貫きます。
そして、四度目を待たずにポコン! とマヌケな音をたてて消滅しました。
あーあ、なにやってるんですかねササキくん。
ちょっと不思議に思ってスキル欄を見たところ、なるほど。
盾スキルが第四段階ではあるものの、そもそも斧スキルがありません。
シールドバッシュで有利な状況を作ってから、斧を叩き込む算段だったようですね。
やはりササキは私たちの護衛に回して、他の召喚獣を攻撃に回した方が有効に働くのは確実なようです。
しかしセルフィの槍は凄かったですね。
さすがこちらも槍スキルは第四段階ですから、強いはずです。
ここでウチの前衛たちの武器スキルを確認しましょう。
ヨサクが斧5、槍2、格闘2、盾。
ムラマサが剣4。
ササキが盾4。
マルキドが鞭3、格闘3。
セルフィが剣2、槍4、斧2。
うーんだいたい三~四あれば十分な強さのようですね。
しかしどう見てもハルバードはセルフィ向けでした。
でも古参のヨサクを優先するのは私の中で確定なので、これはどうしようもないですね。
これだけ節操なくスキルがあるなら、サブウェポンに剣あたりを持たせてもいいかもしれません。
出発までに準備しておくべきでしたかね。
気になるのはマルキドの第三段階ずつしかない武器スキルですが、こっちはもうなんか独特なので、単純なスキルの数値では測れないかもしれません。
単純に武器スキルを補う手段もなくはないのですが、武器スキルではない束縛2が恐らく鍵になるような気がします。
はたしてマルキドがグリズリーの巨体を束縛できるかは、やる前から不安しかありませんが……。