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待ち合わせをすっかり忘れて遅刻をしたことを、たくさん怒られました。
グリズリーの闊歩する危険な山だと認識されているので、死なないように逃げ続けているせいで街に戻れないのではないか、などと心配されていたようです。
「いやあ、合体に夢中になっちゃって……」
「ふむ、合体」
カナコさんは興味津々といった表情ですが、それはこの場にいる全員も似たり寄ったりです。
今日は次の町であるメオントゥルムに向けての壮行会、という名目の宴会です。
だから参加者は実際に出発する私とカナコさん、ソコヤマさん、そしてそのフレンドになるのですが……。
どうも直接のフレンド以外もいるようですね。
フレンドのフレンドは他人なのですが、これもトッププレイヤーの務めでしょうか。
いや私がトップだと決まったわけじゃないんですけどね。
もしかしたら凄いソロプレイヤーが人知れず私を越える実力を備えていて、ボス単独撃破を繰り返してそのうちグランドクエストが達成されてみんなびっくり、なんて展開があるかもしれません。
……ないか。
でもヨサクのステータス欄を見てしまうと、そういうことも起こりうるのではないかと考えてしまいます。
トップを突き進んでいるように思えて、意外と後続はあっという間に追いついてくるかもしれませんね。
少なくとも合体召喚獣が作れるようになったら、そこからは加速度的にインフレしていくのは私自身で確認したことですから。
ああ、早く新しい街に行ってこのリードを守りたいなあ。
別にゲーム攻略というか、ラスボス討伐に前向きなわけじゃないんですけどね。
事情を知っているだけに、ゲームがクリアされてしまえばここのみんなは消え、私だけがゲーム内で生きていくという予定ですから。
幸い、NPCとも仲良くなれることが分かったので、そう寂しい思いはしなくて済みそうです。
……ですがなんでしょうか、このモヤモヤした感覚は。
本当に、全員消してしまってもいいのでしょうか。
せめてカナコさんくらいは残るよう誘っても、罰は当たらないような気もします。
でもそれはカナコさんにも十字架を背負わせることにもなるし、何より心の健康を害する危険性すらあります。
やっぱり誰にも言わずにおくのが良さそうですね。
物思いにふけっていたので気づきませんでしたが、どうも宴席の主役の一人がぼんやりしているのがマズかったようで、結構な人数がいるのに静まり返っていました。
うわあ。
この大惨事を気づかなかったフリをしながら、カナコさんに助けを求めます。
「カナコさん、ずいぶん静かだけど、みんなどうしたの?」
「…………」
信じられないものを見るような目でカナコさんは私を見ました。
いやいや、そうですよね。
よく考えたら人選を間違えました。
カナコさんが掲示板以外で気の利いたことを言うはずがないじゃないですか。
といういわけで、もうひとりの主役の方を向きます。
緊張した面持ちのソコヤマさんは、「え、私? そこで私の方を向いてしまいます?」と言いたげな表情で口をパクパクさせていました。
ちょっと可愛そうですけれど、男なのでなんとかしてもらいましょう。
ニコニコと笑みを浮かべて、ソコヤマさんがどう対応するのか待ちます。
「ファナさん。みなさん、召喚獣合体が気になっているんですよ」
「はあ」
「ほら、具体的な仕様がどうなっているのか、どうしてスケルトンが黒いのか、チャクラムがひとりでに飛び回っていたのはなんだったのか、いろいろな疑問があるんです」
「はあ」
「ですから、触りだけでも何か教えてもらえると、みんなレベル10へのモチベーションが上がるんじゃないかと、私は、思うのですが……」
どんどん声が小さくなっていくソコヤマさんに失望しながら、私は周囲を見渡します。
どうやら何か言わなきゃ、この空気はどうにもならないようですね。
「そういうことなら、私から言えるのはひとつだけですね」
「ひとつ?」
カナコさんが不安げな表情をします。
一言で語り尽くせるようなものでないことは、ここにいる全員が察していることでしょう。
だから言うのは敢えて一言、核心を突くだけです。
「ギルドの先輩方に質問すればいいんですよ。彼らの中には、もうレベル10を越えているひともいますから」
その言葉に全員が虚を突かれたような顔をしました。
まあ私とて、実際にウルシラさんと出会わなければNPCがそれなりの事情通だなんて思わなかったですからね。
どうやら一言で全て解決したと判断したエクレアさんが、立ち上がって杯を掲げます。
「では検証については各自で行えばいいですわね。お手を拝借。……乾杯!!」
強引に乾杯して、宴会状態に突入させました。
やりますね、さすがはエクレアさん。