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道具屋で野営に必要な寝袋と保存食、雨用のフード付きマントに多目的ナイフ、ロープやら火口箱に水袋。
いやーいろいろなものが必要なんですね。
あ、火口箱というのは火打ち石セットのようなものです。
火魔法があるのですが、万が一MPが使えないような状況や、温存したい場合など、念のためあった方がいいでしょう。
基本的にはアイテムストレージに収納できるため、かなり身軽です。
この点でもNPC召喚士とは大きく異なるそうで、ウルシラさんが「容量無制限とかおかしいだろ」とかぼやいてました。
なにかあればフレンド通信ができるため、野営で困ったら連絡することを約束しました。
というかフレンド通信があるから、メオントゥルムとも連絡だけなら付くのではないか、とウルシラさんに聞いたら「知らない」とのこと。
「だがファナの言うとおりだな。恐らく領主や有力商人なら、フレンド通信ができるのではないか? まあ通信ができたところで行き来できないならあまり意味はないが」
いえいえ、情報の交易ができるじゃないですか。
……なんてことをいちいち指摘しても仕方ないので、「そうですね」とスルーして旅の準備に専念します。
フレンドたちにも挨拶くらいはしておいた方がいいですね。
でも連れて行けと言われても足手まといですし、レベリングを手伝う気もさらさらないのです。
私が出発するまでに自力でレベル10になったら一緒に行くのもいいですねえ。
……などと考えていましたが、いささか甘かったようです。
買い物を終えてウルシラさんと別れた後、カナコさんに挨拶をしたところで指摘されました。
「それで。武器と防具のメンテナンスは自分でするの?」
…………。
はい、鍛冶スキルをお持ちの方、一名様ご同行ですー。
いえほんと、これは完全に失念していました。
ヨサクの武器はまだ鉄の斧なので、メンテナンスしないといずれ壊れてしまいます。
ソウルブリンガーの武器なら自動修復されるんですけどねー。
ちなみに私が生産スキルを取得するというのは今のところ考えていません。
いずれゲームクリアされた暁には、農業でもやりながら眺めの良い一軒家でのんびり生活したいものですが、農業はぶっちゃけ攻略に関係なさすぎです。
食事関連が魔法特化ネクロマンサーにはほぼ不要であるのが大きいですね。
アニマルテイマーなら餌でバフが付くというのに……。
うちの連中で食事でボーナスが得られるのは新人のグールくんだけでしょう。
それも死体限定なので、私の食糧事情にまったく通ずるものがありません。
いや死体をお肉だと考えれば牧畜なんですが、これから旅をしようというのに牧畜を取得しようなどとはまったく思えません。
そして私が生産スキルを取得しないのは、単純です。
ネクロマンサーの戦闘能力を信用していないからなのです。
こういう言い方をすると愛が足りない、などと言われかねないのですが、いいえ違います。
母親が子供のもしもの時のために貯蓄をするように、ネクロマンサーの戦力で対応できない状況に陥ったときにはプレイヤーがSPを使って適切なスキルでサポートせねばならないのです。
鍛冶や木工は装備の整備に必要ですが、私がやらなければならないことではありません。
……つまり、この調子でいくとエクレアさんも付いてくるでしょうし、そうなるとセインさんやバラスケもハブるわけにはいかなくなります。
でも戦力的には厳しいんですよねー。
朽ち果てた寺院をソロで回れるウルシラさんが「近づいたら死ぬ山」なんて言うくらいですから、正直いまの私がどのくらい戦えるのか不明なのです。
……そんなことを思っていたのですが、
「わたくしたちは遠慮しますわ」
「そうだね。私も足手まといになる気はないよ」
「私がファナ様の足を引っ張るのは有り得ませんよ」
エクレアさん、セインさん、そしてバラスケは揃って断ってくれました。
いや確かに杖のメンテナンスは滅多に必要にならないので、木工師は確かにいなくてもいいのですが……。
「…………」
そして代わりにカナコさんが「あれ、じゃあ自分は空気読まずに足引っ張る前提でついていこうとしていたのか?」みたいな顔をしています。
それを見たバラスケが手を振って言葉をかけました。
「カナコさんはファナ様に必要でしょう。鍛冶師としての技量もそうですが、なによりファナ様をひとりにすると、何をしでかしてくるか分かりません。側にいて何があったか、掲示板に書き込む人が必ず必要です。それはカナコさんが最も適していると思います」
「……掲示板要員か、それは必要かも」
「え、ちょ」
私、そんなに信用されてませんか!?
「というかどうせ、新しい街で新しい職業なんてものが見つかったら大騒ぎですわよ。ファナはそれを嫌がって情報を出し渋りそうですもの。過小に報告したり、見なかったことに平気でしますわ」
まったくそのつもりでしたー!
いやはや、おみそれしました。友人ってのは凄いもんですねえ。
そんなわけで私のフレンドからはカナコさんがついてくるだけになりました。
まあ一人なら守れるでしょう。
「ファナ、もうひとり連れていきたいヤツがいる」
「え、今の話の流れで?」
セインさんが軽く眉を上げました。
「サバイバルの達人」
「カナコさん、それは是非にお願いします!」
思わず両手を握って、私の方からお願いしました。