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幻想と召喚の絆  作者: イ尹口欠
おまけ
38/151

ブックマーク750件突破記念SS

活動報告から転載しました。

※ この短編は本編のほんのすこし前の出来事です


 今日は記念すべき『幻想と召喚の絆』のサービス開始日です。

 本日のために有給休暇も一ヶ月前から申請済み、ゲーム情報サイトから事前情報も仕入れて、公式サイトのワールドガイドにまで目を通して、……万事抜かりなしですよ!

 インストールも完了しましたし、いざ鎌倉!


 クルリと世界が反転したかと思うと、私は宇宙空間のような広い、しかし真っ暗な空間に放り出されます。


【『幻想と召喚の絆』にログインしました】


 しかしすぐに全面が青空に変化します。

 太陽のような光源のない、ただ明るい青空という不思議な世界に違和感がありますが、VRゲームではよくある光景で、私はもう慣れたものです。

 しかしこれ、高所恐怖症の人には地獄らしいですね。ずっと目をつむって待つらしいですよ。

 足元の感覚のない不安な数秒を経て、突如、無限に広がる石畳の床が空間に生まれました。


 私は軽めの重力に引かれてゆっくり床に降り立ち、そのままシステムアナウンスに従い、今か今かとその時を待ち構えております。


【初期空間を作成中です】

【しばらくお待ちください】


 ほらほら、早く早く。


 そう待たされること無く、変化が始まりました。


 カカカカカ、とレンガが積み重なり、あっという間に私はレンガ造りの部屋のなかに閉じ込められます。

 次いで壁にぽっかりと空いた窓のスペースに木枠が取り付けられ、鎧戸がパカリと開きました。

 剥き出しだったレンガの壁は白い壁紙で覆われ、無骨だった部屋が途端に印象を変えます。

 剥き出しだった石畳の上にフカフカした毛足の長いカーペットが生えてきて、私の足元に柔らかな感触が触れ、ちょっとくすぐったいですね。


 そして目の前、部屋の奥まった場所にマホガニーと思しき執務机がニョキリと生えてきて、私の背後に革張りのソファが現れます。


 そして執務机の横の壁に立派な木製のドアが浮き上がるようにして現れ、ギィ、と重い音を立てて開きました。

 現れたのは銀縁メガネを掛けた神経質そうな女性です。


 女性は執務机にツカツカと歩いていき、迷わず腰掛けると、


「どうぞお掛けください」


 とソファに座ることを促されました。


 β時代よりもスピーディな処理に関心しながらソファに腰掛けると、今度は目の前の空中に空白の並んだフリップが出現、同じくペンが浮いた状態で現れました。


「これからあなたには『幻想と召喚の絆』における活動体……分身となるアバターを作成してもらいます」


「はい」


 分かってますよ。

 待望のキャラメイクですね!?


 名前から始まり、能力値とスキル、外見設定。

 たくさんの項目が並んでおり、紙と思しき感触のフリップは何故か縦スクロール用のバーがついている不思議仕様です。

 ペンもいわゆるタッチペンですが、文字を直接書くこともできます。書き味は鉛筆と似ていますね。

 ペンの柄尻に消しゴムの機能を持った白いマットなオブジェクトがくっついているのも、鉛筆を意識しているのでしょう。


 ええとまずは名前ですか。

 これはβの頃と同じでいいでしょう。

 本名の船橋杏奈を縮めたファナが、私の中ではRPGなどで主人公につけるデフォルトネームとなっています。


 次に能力値。

 これは器用、敏捷、筋力、生命、知力、精神、感知の七種類があり、初期値はすべて真っ平らな値になっています。

 プレイヤーにできることは簡単で、能力値ひとつを苦手分野に指定することで、他の能力値ひとつを得意分野にすることができます。

 ひとつ苦手にするごとに、ひとつ得意に。合計でプラスマイナスゼロになるようにするわけですね。


 私はマジックユーザー、つまり魔法使いプレイをするので、武器を操るのに重要な器用と筋力は不要です。

 苦手分野に指定して、知力と精神を得意分野に指定しました。


 敏捷は走る速度などに影響がありますし、生命はHPや毒への耐性など生存に関わる重要な能力値であり、下げるのは得策ではありません。

 また感知は言葉通り見聞きする能力であり、これが低いと遠くのものが見えにくくなったり、敵が接近する足音などに気づくのが遅れるなどという致命的な状況に陥る可能性があるため、これもまた下げることは危険を伴います。


 感知を苦手分野にできるのは、気配察知に優れた動物を使役するアニマルテイマーか、気配察知を他人に任せられるパーティプレイを前提としている場合くらいでしょうか。


 私は基本的にソロなので、生存に関わる能力値までは下げられません。

 まあ魔法に必要な知力と精神が既に得意分野に指定されているため、敢えてどこかを下げてどこかを上げる必要がないとも言えますが。


 さて次はスキルですね。

 一覧から五つ、重複しない限り自由に選択できます。

 これはもう実は私の中では決定済みです。

 迷うこと無く、杖、闇魔法、地魔法、火魔法、暗視の五つを選択肢ました。


 戦士の場合は武器スキルがひとつかふたつ、筋力強化や敏捷強化など能力値を上昇させるスキルを取得するところです。

 もちろん魔法使いならば属性魔法をひとつかふたつ選択して、知力強化や精神強化などを取得するのも手でしょう。

 しかし私はとある事情により、三種類の魔法の取得と魔力増幅のための杖スキル、そして使役するアンデッドたちに合わせた暗視と取るスキルを予め吟味しつくしてあるのです。


 ちなみに杖の魔力ボーナスを杖スキルでブーストするのと、知力強化で能力値を直接ブーストするのでは、低レベルでは前者が勝り、高レベルでも装備を適切に更新する限りにおいては杖スキルの方が知力強化よりも強力です。

 ……と言っても、β時代のレベルキャップは10ですので、さらなる高レベル環境下ではどうなるか分かりません。

 もっとも比較の結果に関わらず、専業魔法使いならば最終的には両方を習得することになるはずですが。


 まあキャラクターメイキングが始まってからスキル構成を悩むのは愚の骨頂、予め選んでおくものなのですよ、こういうのは。

 もちろんβ時代との変化がないかは、一応、確認するのですけどね。


 ただゲーム情報サイトにはその辺の変更内容はアナウンスされているため、ほとんどその確認をするだけで事足ります。


 そして、さあ待望の外見設定ですよ!


 とりあえずβと同じ顔でいいでしょう。


 個人情報安全保護規約により、我が社のゲームハードでは本人のスキャンされた顔と酷似したアバターは基本的に作成できません。

 なので一から作らなければならないのですが、ランダムボタンでテキトーな顔をポンポン出せるため、そこから気に入ったものを選んだり、それを元にカスタマイズするのが一般的ですね。


 さて体格はどうしましょうか。

 顔が同じならβ時代の友人たちも分かるでしょうから、試しにモデル体型にしてみましょうか。

 確かバラスケは顔を含めて全身変更すると言っていましたし、何もβと全く一緒にする必要はないでしょう。


おっとシステム警告が出てしまいましたよ。


【現実とあまりに異なる体型のアバターを操作すると、生活に一時的に支障をきたす恐れがあります】


 ……そういえばそんなことを会社の研修でも習いましたね。


 確かに慣れない身体は上手く動かせないでしょうし、かと言ってアバターの方に慣れると今度は現実の方で苦労するんでしたか。

 無難に体型はリアル準拠を選択しましょう……。


 さて、形状が決まったら、髪の色、髪型、瞳の色、唇の色、肌の色などのカラーリングの決定です。


 基本的にRGB指定ですが、肌の色だけは黄色・白・黒の三色と何段階かの濃淡を指定する形になっています。

 これもぱぱっと決定します。


「よし出来た!」


 目の前に座っているNPCの存在を忘れて、思わず声に出してしまいました。

 しかし女性は気にせず、


「では……ファナ。ようこそ『幻想と召喚の絆』の世界へ。まずは大陸の南にある都市アドリアンロットから、あなたの冒険は始まります。まずはいずれかのギルドに登録すると良いでしょう」


 そして鉄面皮かと思われた表情が、柔らかな笑みに変わりました。


「どうか精一杯、楽しんでくださいね。あなたの冒険に幸があらんことを――」


 女性の言葉を最後に、視界が暗転しました。

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