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活動報告にブックマーク1000件突破記念SSを上げました。
ただし『現実と過去の絆』の続編になりますので、興味のない方はスルーして結構です。
たくさんの方々に読んでいただけて幸いです。これからもお楽しみくだされば作者冥利に尽きます。
ワイルドキャットのリポップを待つのも面倒なので、先に進むことにしました。
二階のイビルゴーストに挑むのですが、一旦、マドカをパーティから外してリビング・チャクラムのグラインダーを参加させます。
きゅるきゅると回転する様が可愛いですね。
こういう無機物に霊が宿るというのも趣深いものがあります。
ゴーストが余れば剣や鎧などで作りたいものですね。
おっと二階には他のプレイヤーがいました。
まだ二日目だというのに、私以外にもうレベル10に到達……してはいないようですね。
どうやらプレイヤーの人数でゴリ押ししているみたいです。
右の通路では六人のプレイヤーが多数の召喚獣を入れ替わり立ち代わり囮にして、魔法でイビルゴーストを狩っていました。
左の通路からも戦闘音がするので、恐らく似たようなことをやっているのでしょう。
十人以上を動員しての効率的な狩り、恐らくは攻略に真剣に取り組む集団ができたのでしょうね。
「ん? なんだ貴様は」
右側で戦っていたソウルブリンガーが私に気づいたようですね。
「スケルトン……なぜ黒いんだ? それにその回っている小さいのは何だ……」
いぶかしげに私の召喚獣をジロジロ見て、首を傾げていますね。
まあ仕方のないことでしょう、恐らく私以外にまだ合体召喚獣を作ったプレイヤーはいないでしょうから。
仲間が私の方に気を取られているのに気づいた戦士風の男が、こちらを見てやはり眉をひそめ、次に笑顔を浮かべて言いました。
「日焼けサロンにでも行ってきたんじゃないですか?」
「「ぷっ」」
そう来るか!
思わずソウルブリンガーの男と一緒に吹き出しちゃいました。
なかなかのセンスの持ち主のようです。
生憎、どの召喚獣の主かわからないので職業の特定はできませんが。
そうこうしていると、左側の通路からひとりの戦士が走ってきました。
恐らく二階に他のプレイヤーが来たので、この場の六人の誰かがフレンド通信で知らせたのでしょう。
「他のプレイヤーが来たと聞いてきたが……もしかしてファナさんじゃないですか?」
「はい? ええファナですが……あ、ヘルマンくん?」
なんと顔見知りでした。
ヘルマンくんはβ時代、百鬼夜行に参加したネクロマンサーのひとりです。
最終的にネクロマンサーだっただけで、本命は確かソウルブリンガーだったはずです。
人気ですねえソウルブリンガー。
私もなっちゃいましたし。
「お久しぶりです。掲示板、見ましたよ。現時点でのトッププレイヤーですね、さすがです」
「いえいえ、あまり褒めないでください。照れますから」
どうやらこの攻略集団を率いるリーダーはヘルマンくんだったらしいです。
そういえばほんわかした優しげな人柄でしたから、ゲーム内に閉じ込められているこの状況を憂いて人を集めたのでしょう。
「これがファナさんの召喚獣ですか……凄い迫力ですね」
「まあそうですね。ところで先に進みたいんですけど、いいですか?」
「もちろんです。人が来たら通すように言ってあります。一応、イビルゴーストを減らす手伝いもしていいと言ってあるのですが、……必要ありますか?」
私たちの強さを測りかねているのでしょう。
当然、私は既にここを一度通り抜けているので、そういう意味でも手助けが必要か判断しかねているようです。
「いえ。今日は戦力の確認に来たので、手伝いは不要です。多少被害が出ても、最悪、通り抜けるくらいはできると思いますよ」
「なるほど。ではそのように」
ヘルマンくんが言うや否や、ソウルブリンガーの男が不服そうに言葉を被せてきました。
「はあ? ソロで通り抜けられるのかよ。βとは違って数がかなり増えてるんだぞ」
知ってますよ。
ヘルマンくんが困った様子で、言いました。
「今すぐネクロ検証スレを覗いてこい。その後で言いたいことがあれば聞くから。ファナさんはどうぞ、先へ進んでください」
「はい、ではお言葉に甘えて」
不満顔でメニューを弄り始めたソウルブリンガーの男を無視して、私は召喚獣たちに命令を下します。
「ヨサクとムラマサは近づく幽霊を切り捨てて。グラインダーはヨサクにエンチャントを掛けた後に、私から見える範囲内で自由に攻撃に参加しなさい」
やや大雑把ですが、グラインダーの動きが読めないので仕方ないですね。
まずは自由にさせてみましょう。
「では前進、エンチャント・ファイヤ!」
まずヨサクに付与魔法を飛ばします。
ムラマサの持つポイズンブレイドはソウルブリンガーの魔法の武器ですから、多分エンチャントは不要でしょう。
同様に自身が魔法の武器であるグラインダーにも不要なはずです。
するとグラインダーはギュン! と加速してヨサクとムラマサを追い越していくではありませんか!
ちょっと、危ないですよ!?
しかし、ぶわりと現れたイビルゴーストを難なく切り裂き、そのまま次に現れるイビルゴーストに向かってきゅるきゅる垂直回転しながら突っ込んでいきます。
うわ、なにそれ酷い。
身体のないリビング・チャクラムならではの空中機動。
身体がないからこそ、構えも必要なく右と左で投げ分ける必要もなく、足の置き位置などもなく、ただ最速最短で回転しながらぶつかるだけ。
それだけで魔法の刃物の身体が、魔法に弱いイビルゴーストを容易く引き裂いていきます。
むしろ倒すのが早すぎて、グラインダーと私たちの間にイビルゴーストが湧き始める始末。
しかしグラインダーはそれも慌てず、悠々と弧を描いて戻ってきては、イビルゴーストを始末していきます。
あ、これこのままだとヨサクとムラマサいりませんね。
「よしグラインダー、戻って私の護衛。今度はヨサクとムラマサで頑張ってね」
通路を進んだため既に出現数は六体を超えています。
しかし今回はヨサク以外にムラマサもいますからね。
どのくらいの支援が必要になるでしょうか。
もしやまた必要ないなんてことはないと思うのですが……。
「エンチャント・ファイヤ!」
なにはともあれ、エンチャントの掛け直しは必須ですね。
……しかし結論から言いますと、私にそれ以外の仕事はありませんでした。
ヨサクは前回と違って、多少まとわりつかれてもHPの減りがかなり鈍く、順番に斧で叩き切っていきます。
そしてムラマサに至っては自らに寄せ付けることもなく、刀の届く範囲内のイビルゴーストをことごとく切り伏せていきました。
いくらイビルゴーストがのろまでも、よくぞそこまで綺麗に長刀を振れるものです。
無事に階段前の扉に辿り着きました。
なんとなく背後に視線を感じるので、強い心でこれを無視して扉の先に進みます。
「ふう。おつかれさまー」
ヨサクとムラマサは重く頷きます。
ほんといきなり雰囲気増しましたよね、君たち。
きゅるきゅると滞空していたグラインダーにも慰労の気持ちが伝わったのか、くるくると旋回をしてみせました。
ヨサクのHPの減り方が気になったのでステータスを確認すると、どうやらソウル・ブレストプレートには元々、斬撃耐性と闇耐性がついていたようです。
イビルゴーストの触れるだけでHPを吸収する能力は、斬撃ではないでしょうから、闇属性だったのかもしれませんね。
それならばヨサクのHPがちょびっとしか減っていないのも納得です。
つまり属性が違っていたらちゃんと回復が必要になるということですから、油断禁物ですね。
次は毒カビで満ちた厨房です。
マドカにはMP温存のため、引き続きグラインダーに任せましょう。
きっと高速でコアを破壊しまくってくれることでしょう。