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杖は素晴らしい出来栄えでした。
SPを木工につぎ込んだらしく、火魔石の杖+6という現時点で最高の品であろう杖を作成してくれたのです。
むしろ代金の支払いをどうしようか頭を悩ませることになりましたが、現時点で朽ち果てた寺院の素材を入手しているのは私だけであることに気づいて、何の問題もなく精算できました。
「高純度霊素がみっつか……開始初日にそんな数のイビルゴーストをソロで狩るとか意味が分からない」
セインさんが呻いていましたが、バラスケは腹を抱えて笑っていました。
何がおかしいのか分からなかったので素直に聞くと、「実にファナさんらしくて嬉しかったのです」などと言われて、反応に困りましたが。
その後は情報収集を兼ねて露天を練り歩きます。
新しく召喚したスケルトンたちの武具を揃えなければならないですからね。
まあムラマサはスペクターという新種族になってしまいましたが、変わらずホネなのでオールオッケーですよ。
カナコさんのところでは、ヨサクのために片手斧を注文するという約束をすっかり忘れていて怒られました。
でもカナコさん自身もシャドウインゴットに夢中で、私が露天を覗いてしばらくするまで思い出せなかったので、おあいこだと思うのですが。
ヨサクにはカナコさん謹製の鉄の斧+3、鉄のバックラー+3を購入し、プレイヤーメイドの革の鎧+2をムラマサに装備させることにしました。
またスケルトン・アーチャーくんには木の合成弓、矢筒、鉄の矢、革の鎧とNPCショップで揃えましたが、弓は鎧の形状から矢の質まで注意しなければならないので買い物が大変です。
結局、手元にはほとんど現金とドロップアイテムが残りませんでした。
おかしいですね、昨日あれだけ稼いだのに……。
…………ふむ。
というわけで、夜は朽ち果てた寺院を新戦力で蹂躙しに行きましょう!
レベリングとドロップアイテム狙いに丁度いい稼ぎ場となってくれるでしょうからね!
◆
さてやって参りました夜の寺院。
パーティメンバーはヨサク、ムラマサ、マドカ、そしてもちろんこの私ファナの四人でお送りします。
まずは入り口のワイルドキャットどもですね。
ちょっと試したいことがあるので、ヨサクとムラマサを進ませます。
ただし攻撃禁止で。
「にゃう!」
「きしゃー!」
「……」
「……」
ふたりとも無口ですねー、まあそこがいいんですけど。
私が確認したかったのは、スペクターのスキル非魔法攻撃無効です。
ゴーストくんが持っているので性能は分かるのですが、そもそも透けていて実態のないゴーストと違ってスペクターはちゃんと身体があります。
身体と言っても真っ黒いホネですけど。
なので、どのように非魔法攻撃無効が発動するのか確認したかったのですが……。
「がぶ」
「しゃー!」
「……」
「……」
爪で引っ掻いても、むき出しのホネに噛み付いても、傷ひとつ付きません。
ほんとに一ミリもHPバーが揺るぎませんね。
特に発動エフェクトなどなしで、単純に無効化してしまうようです。
「よーし、じゃあヨサクとムラマサはふたりで猫を倒してね。ただし入り口からこっちに来させないように気をつけて!」
スペクターふたり組の目が、クワっと見開いたような気がしました。
目なんて無いのになぜ、と思いましたが、どうやら眼窩の奥の闇が強い力を放ったようです。
その証拠に、なぜだか急に猫たちが恐慌状態に陥り、近くに居た猫はがむしゃらに攻撃を仕掛けてくるわ、少し距離をおいていた猫はあからさまに怯えて更に距離を取るわで、大混乱です。
これが恐らくスペクターの種族スキルである畏怖なのでしょう。
ゴッ!
凄い音を立てて、ヨサクのバックラーが猫を張り飛ばしました。
ヒュン!
そしてムラマサのポイズンブレイドが猫の首を一刀両断にします。
ゴロゴロと猫の首が転がり、ポコン! とワンテンポ遅れて消滅しました。
さてヨサクも負けていませんよ。
ガスッ!
ゴスッ!
カナコさんが作った片手斧はネックの角度と相まって重心のバランスに優れており、ヨサクが手首を振るう度に連続で振り下ろされていきます。
分厚い刃が猫の頭頂部にガッシリ食い込み、ぐぃっと抜かれた斧がまた次の猫の頭をかち割る、それを繰り返します。
一撃ごとにポコン! ポコン! と猫が死んでいくではありませんか。
初回に挑んだときとはその攻撃力は雲泥の差、あまりにも違いすぎて笑いが込み上げてくるほどです。
もちろんムラマサはもっと酷いことに、一刀で薙ぎ払うことで一度に二~三匹の猫を切り捨てていました。
というわけで、あっという間に戦闘終了です。
私もマドカも何もしてません。
支援は完全に必要なさそうでしたね。
恐らく相手に魔法攻撃がなければ、無敵でしょう。
うっわ反則的な強さじゃないですか、こいつら。
合体召喚獣、凄すぎです。