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幻想と召喚の絆  作者: イ尹口欠
合体召喚獣編
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活動報告にブックマーク750件突破記念SSを上げました。

また次々々章の予約投稿も完了し、これについても活動報告に上げてあります。

これからも拙作をお楽しみくだされば幸いです。

 さあいよいよ合体召喚獣を作成していきますよ! と思ったところで、原口さんからメールが届きました。


 どうやらまた直接会って話がしたいらしく、領主館で待っていると書いてあります。

 まだ合体召喚獣のヘルプも読んでませんし、作成にも色々悩んで時間がかかりそうですから、先に原口さんに会いに行きましょう。


 ……はあ、またお預けですね。


     ◆


「申し訳ない、船橋さん!」


「どうでもいいですが、私はファナです。船橋杏奈は死んだんでしょう? 私はゲームから出られないし出るつもりもないので、本名を名乗るのも呼ばれるのも複雑な気分になります」


「なんと、それは気づかなかったよ。重ね重ね申し訳ない」


「謝罪はいいのです。それより、グランドクエストについて情報がなさすぎて困っているんです。プレイヤーは疑心暗鬼になりつつあるし、私の憶測通りなら取り返しのつかない情報の取り逃しがあったことになります」


「それについてはこちらの責任だ。まったく、十五年前のことを忘れていたよ」


「十五年前? 現実でのサービス開始日ですか……あ、まさか」


「そう。低レベル朽ち果てた寺院攻略、当時の君も挑んだ訳だ」


 考えてみれば当然の話でした。だって私は私ですもんね。


 十五年前の私とは、精神的にまだ一日分の差しかありません。

 スタートダッシュして寺院を低レベル攻略しようとするのは、βの頃から決めていたことですからね。

 ブレるはずがないのです。


「とはいえ、十五年前の方じゃ、こうはならなかったんだが」


「え、なにか変わったんですか? アップデートの影響かなにかで」


「いや。君の低レベル攻略、初回は失敗したんだよ。まあそれでも君は翌日、寺院を攻略したんだが、その前に南の洞窟がクリアされたんだ」


 なるほど、大方スタートダッシュで経験値を稼ぎきれなかったのでしょうね。

 今回のようなトラブルがなければ、草原は大混雑していたはずですから。


 そして十五年前は、順番通りにイベントのトリガーが引かれた、と。


「いやあ、十五年前は焦ったよ。なぜかサービス開始日の夜に朽ち果てた寺院をジリジリ進むプレイヤーが現れて、それが船橋さん……いやファナだったんだからね」


「ていうかβのときにも散々、低レベルで進行してましたよ私。そういうイレギュラーは検出するようにしているものじゃないんですか」


「もちろんしてたさ。でも直接の知り合いのデータは閲覧しないように、気をつけていたんだよ。特に君は女性だしね。まあそれが完全に仇となったわけだが」


「なるほどー。確かに知り合いのデータは見づらいですよね」


 これが普通のMMOなら良かったのですが、VRMMOの場合は監視データにかなりプライベートなデータが入ってきます。

 呼吸の回数、心拍数、体温上昇、触覚励起、視線移動、などなど。


 現実で行うには観測に特別な機器が必要なことばかりですが、VRゲームにログインしている状態ならば、ほぼ丸裸になってしまうのです。

 たとえプレイヤーを特定しない盲検にしたところで、そのプレイヤーが男性か女性か、年齢や体格に応じて行動がどう変わるかは前提条件のようなものですから、全くの情報なしでは監視の意味がありません。

 もちろんアバターとはいえ、特に女性のデータは女性しか覗けないような社内ルールが普通にあったりします。


 そんな中で、開発元を直接訪れる私がβ版にファナという名前で登録して遊んでいることは、プロデューサーの原口さんをはじめ、何人もの面識がある担当者は知っているわけで。

 しかも私はゲームハード側の人間で、重要な取引先の窓口です。

 ゲーム内容の監査という仕事柄、開発者から恨まれることも多く、恐らくそれを危惧して「ファナ」を完全な監視除外設定にしていたのだと思います。


 その結果、現実でも一日遅れとはいえ低レベルでの朽ち果てた寺院攻略が成し遂げられてしまったわけですね。


「君のロッティングコープス攻略法はね、開発側が密かに仕込んだ裏技みたいなもんさ。誰かがいずれ見つけて一般化されていく。そういう流れを期待していたんだが……βのときにすでに気づかれていて、初日に突破されかけたのは笑い事じゃ済まなかったよ」


「それはなんというか、すみませんね」


「いや。そのことがあって、君のゲーム内の動向は注視することになったんだよ。もちろん、担当の女性スタッフに任せてのことだが。君はその後も、――いやこれは君にとっては未来の話か。危うく喋るところだったよ」


「ちょっとは口を滑らせてくださいよ。途中までは期待していたんですよ」


「とめてくれよ!」


 思わずふたりで笑い合います。


「さてそれでファナ。今回の件は、運営から全プレイヤーに一斉通知を行う予定だ。公式ホームページのワールドガイドのコピペを添えるだけだが……特別な対応はそのくらいで十分だろう」


「しかしそれですと、私がイベントをすっ飛ばしたことで他のプレイヤーに恨まれるのですよ」


「そんなのプレイヤー間の問題じゃないか。運営は関わらないよ」


 あ、そりゃそうですね。


 現在、特殊な状況におかれているので勘違いしていました。

 ゲームの運営がこのようなプレイヤー間の問題にしゃしゃり出るわけがないのです。

 むしろ下手に公式がつつくと問題は悪化するものなんですよね。


 こんな基本的なことすら気づかないとは、自分の危険ということで冷静さを失っていたようです。


「なるほど、十分です。戦力も整いましたし、しばらく街から離れてほとぼりをさまそうと思います」


「ああ、そうするといい。……ただそうすると、他のプレイヤーたちとこれ以上のレベルの開きが出来そうだなあ」


「別にズルしているわけじゃないでしょう。原口さんとこうして会っていても、ヒントのひとつも出してもらえないですし? ……なんなら、私は直接的に攻略に関わらないようにして、ラスボス討伐は他のプレイヤーたちに任せてもいいですよ」


「ううむ、そこまで君の行動を制限したくもないんだ。確かに君は突出しているが、そういうプレイヤーがゲームを牽引していくのもまた事実だからね」


「じゃあ好きにしますね」


「ああ、『幻想と召喚の絆』、大いに楽しんでくれ」


 しかし『幻想』と『召喚』は分かりますが、今のところ『絆』の要素がないんですよねー。

 今後の新システム解放などで実感できるようになるのでしょうか?


 それとも他のプレイヤーとの交流を指しているとしたら、私にはあまり縁のないものになりそうですね。


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