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幻想と召喚の絆  作者: イ尹口欠
おまけ
23/151

ブックマーク100件突破記念SS

活動報告から転載しました。

やはりβ時代の話で、ネクロマンサー以外の職業について触れています。

 我が名はファナ、偉大なるネクロマンサー。


 ええ、偉大ですよ。

 何と言ってもネクロマンサーは環境、最弱。

 そのネクロマンサーを楽しんで続けられるメンタル、つまり私ほどネクロマンサー愛に溢れているプレイヤーは存在しないでしょう。


 βテストも半ばを過ぎ、今日もネクロマンサーギルドは閑散としていました。

 レベルキャップに到達したプレイヤーが次々と別のギルドに移籍してしまって、ネクロマンサーになりに来る人より離れる人が多いという状況のせいですね。


 そのネクロマンサーになりに来る人達も、「本当に弱いのか?」という興味からくるもののようで、弱いのを確かめたらさっさとレベルを上げて別のギルドへ移籍する肚のようです。


 ……なんたる屈辱。


 これはネクロマンサー愛に溢れに溢れて周囲を汚しまくっている、この私がなんとかしなければならないでしょう。


 あ、ちなみにβ期間のレベルキャップはたった10しかないので、慣れたプレイヤーが頑張れば三日ほどでキャップに届く低さです。

 いろいろな職業を体験、テストしてもらうのが目的のようですね。


「ファナ様、如何されましたか。ご表情が優れない様子ですが」


「いえ、ネクロマンサーを馬鹿にする連中のことを思って、少し苛立っていただけですよ、バラスケ」


 バラスケは私の忠実な部下のひとりです。

 いえ、正確には仲間の一人というべきなのですが、何故か私に心酔しているロールプレイに嵌ったらしく、「腹心として扱って欲しい! 是非とも忠誠心にあふれる腹心として、ファナさんに使って欲しい!」などと言い出した変人です。


 バラスケがそれでこのゲームを本当に楽しめているのか、たまに不安になります。

 まあ本人がいいと言っているなら、それでいいのでしょうが。


「バラスケ、何か面白いことをしようと思うのですが、何が面白いと思いますかね」


「ああ、ファナ様がまた馬鹿なことを……おっと。このバラスケ、ファナ様の深いお考えがちょっと本気で分からなくて困惑しております。是非とも我が主の胸の内をもう少し分かりやすい言葉でご解説願いたいのですが」


 こいつ、たまにロールプレイ徹底しないときがありますよね。

 別にいいですけど。


「いえ……ただネクロを馬鹿にしている連中に一泡吹かせて高笑いしたいなーと。でも何をしたら面白くなるか、特に案があるわけじゃないんですよねー」


「そうですか……」


 バラスケも特にいい考えは持っていないようです。


 このふたりではいつまで経ってもいい案は出てこないでしょう。


 業腹ですが、ここはこういう悪巧みが得意そうな性格の悪い人に相談してみるとしましょう。

 三人寄れば文殊の知恵と言いますしね!

 主に三人目頼りなのが若干不安ではありますが、なんとかなるでしょう!


     ◆


「それで私のところへ来たと」


「そうなんですよ、カナコさんなら何かいい案が浮かばないかなーと思いまして」


「いま、忙しいのだけど」


「そこを何とか」


 カナコさんは生産ギルドのレンタル作業スペースで、ゴーレムの素体を作っているところでした。


 ゴーレムというのはゴーレムマイスターの召喚獣で、正確には思念機構というゴーレムのAIを召喚する職業です。

 この世界では思念機構はロストテクノロジーで、ゴーレムマイスターが召喚するしか手に入れる方法がないとかなんとか、そんな感じです。


 そしてカナコさんは、レベルキャップになっても延々とゴーレムの検証をしている鍛冶師です。

 私がネクロマンサー愛に溢れているとしたら、カナコさんはゴーレム愛に満ち溢れているというべきでしょう。

 いやしかし正確には、カナコさんの興味は鍛冶スキルにあり、その限界を試す意味でゴーレムマイスターの職に留まっているフシがあります。


 その証拠に、鍛冶スキルをほぼゴーレムの身体、つまりアイアンボディに費やしているのですが、頼めばちゃんと剣なども打ってくれるんです。

 これがまた出来が良いのですよー。


 是非ともゴーレム作りは適当に切り上げて、せめて正式サービスでは刀剣鍛冶師に専念して欲しいところですね。


「カナコさん。忙しいと言っても、いつも通りの作業じゃないですか。いつでもできるのでは?」


「……ちッ」


「うわぁ舌打ちされちゃいましたよ、そんなに重要な作業中でしたか? 私には差が分からないのですが……」


 カナコさんは渋々作業を止め、こちらに向き直ります。

 ただしそれは私に悪知恵を授けるためではなく、現在の作業がいかなるものかを説明するためでした。


「インファイター用のボディを作っている」


「インファイターというと、近接専用AIですよね。今までのものでは――うわなにこれキモい」


「キモい? 失礼な」


 そこには人間の男性のヌードを象ったアイアンボディが鎮座していました。

 漠然と今回のゴーレムは随分と細身だなーとしか思っていなかったのですが、まさかこんなインパクトあるものを作っていたとは。

 たしかにいつもの作業じゃありません、ちょっとカナコさんや、頭がおかしくなったのではないのですか。


「遂に狂ったんですかね、カナコさんや」


「あ、全部買うよ」


「買う? ……ああ喧嘩を売りに来ているわけじゃないですよ。ただカナコさんがちょっとおかしな趣味に走っているのを見て、引いていただけですよ」


 カナコさんがゆっくりと背後のゴーレムボディを見てから、またゆっくり私に視線を戻します。


「……確かに。言い訳のし辛い状況ではある」


「まあこっちの話の前に、いかなる理由でそのような卑猥なものをアカBAN覚悟で作成していたのか、聞いておいたほうが良さそうですね」


 アカBANとはアカウント禁止、つまりゲームから追放されるという意味です。

 この処置をされたアカウントは、凍結されて基本的に二度と使用することができません。

 軽微な違反によるアカBANの場合は、反省と二度と同じ過ちを繰り返さないことを運営に誓うことで、凍結解除されることもあります。


「見ての通り、局部はない。アカBANはない」


「でも見る人が見れば、警告は避けられませんよ。このゲーム、全年齢なんですから」


「ネクロの死体ガチャを見れば、絶対正式サービス時にR15くらいにレート上がると思う」


「えー。みんな可愛いじゃないですかー」


 後にカナコさんの言葉通り、正式版はR15に指定されました。

 理由もカナコさんの言うとおり、ちょっとゾンビやスケルトンがリアルすぎたようですね。


「変態の美観は置いておく。このゴーレムボディは、インファイターを目指している」


「カナコさん、それじゃ言葉足らずで意味がわかりませんよ」


「ファナ様、つまりこういうことではないでしょうか」


 それまで黙って私の斜め後ろに控えていたバラスケが、突然発言しました。

 来るか、三人目。

 遂に文殊の知恵が発動するのか?!


「ボクシングのインファイターを模している、とカナコ様は仰っているのだと思います」


「ほう。インファイターっていうのはボクシング用語だったんですか?」


 ゴーレムの思念機構にはいくつか種類があり、どうもインファイターやアウトファイターというのはボクシング他、格闘技の用語らしいのです。


 だからカナコさんはボクサータイプのゴーレムを作ったらどうなるか、試していたということなのでしょう。

 ようやく理解できました。


「なるほど、カナコさんのやりたいことが分かりましたよ」


「これがなかなかの難物。まあどうせ何日か掛かるから、ファナの話を先にするのも悪くない」


 カナコさんは優しいですねえ。


 ……でも、そんなカナコさんに、私は厳しいことを言わなければなりません。


「カナコさん。それ、僧帽筋と三角筋がうまくないですよ。あと縫口筋と長内転筋も、一緒くたになってませんか?」


「……………………」


 カナコさんの目が驚きに見開かれます。


 実はカナコさんの作っているゴーレム素体、筋肉の付き方がデタラメで非常に気持ち悪いんですよね。


 カナコさんはおもむろに私の手を取り、やや上気した顔で言いました。


「手伝って」


「えー。どうしよっかなー」


「悪巧みは手伝うから」


「悪巧みとは人聞きの悪い。まあ分かりました、私で良ければ筋肉、ついでに骨格からレクチャーしましょう」


 後にアイアンボクサーと名付けられたキモい動きをするゴーレムが誕生し、カナコさんは『幻想と召喚の絆』内での鍛冶師としての地位を確固たるものにしました。


 そして一方、私はと言えば、百鬼夜行の立役者としてそれなりの知名度を獲得するに至ります。

 結局、ネクロマンサーを舐めていた連中の度肝を抜けたかどうかは、分かりませんでしたが、楽しいイベントにはなったとだけ言っておきましょう。

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