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幻想と召喚の絆  作者: イ尹口欠
朽ち果てた寺院編
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 毒カビだらけの厨房を抜け、寺院の中庭に出ました。

 ここには無尽蔵とも言えるほどアンデッドを生み出し続ける、魔法陣が設置されています。


「……ファナ。君は正直、よく戦った。私はここまで辿り着くことはないと思っていた。だからもう十分だ、君の力量は理解した」


 ウルシラさんが真剣な眼差しで私を見下ろします。


「だから戦うな、ファナ。ここは無理だ」


 一直線に寄り道せずに来たため、半分どころか三分の二以上が未探索となっていますが、中庭はいわゆるボスフロアです。

 つまり危険度はこれまでの道中とは比較にならない、ということなのですが。


「別にウルシラさんの許しを得なければ、戦ってはならないということはないでしょう」


「ファナ!?」


「そもそも修行だ、と私は言いました。そして攻略の算段もある、と。まだ信じられませんかウルシラさん、私の事は」


「……っ」


 ここまで結果は出してきたつもりなんですけどね?


 まあ何と言われようとも、私はここのボスを倒して、朽ち果てた寺院の低レベル攻略を完遂するのですよ。


 私はマドカから杖を受け取り、中庭に踏み出しました。

 何の躊躇もしなかった私に、ウルシラさんから怒気にも似た悔しそうな呻きが漏れました。

 そんなに私が説得できなかったのが悔しかったのでしょうか。


「おっと、忘れてましたよ」


 メニューを開き、レベルアップボーナスを割り振ります。

 闇魔法にSP2点を注ぎ込みます。


 これで闇魔法は三段階目になりました。


 この選択にウルシラさんが息を呑みます。


「何を考えている、ファナ! 闇魔法はアンデッドに効果が薄いぞ!?」


「一般的にはそうですね。でもここではそうでもないんですよ」


「……何?」


 私が近づいていくごとに、魔法陣の明滅が激しくなっていきます。

 黒とも紫とも言えない、ただただ暗い色に輝く魔法陣。


 私の足がその魔法陣に踏み込もうとした寸前で、目の前の闇が爆発しました。


【ロッティングコープスが異常召喚されました】

【速やかにこれを討伐してください】


 システムアナウンスが告げた魔物の名は、βテストのときと同じものでした。


 ――ならば、予定通り。


 ロッティングコープス……直訳するならば「腐りかけの死体」といったところでしょうか。

 その点でいえばゾンビは「腐った死体」ということになります。


 コンシューマーRPGでも稀に見るゾンビ系のモンスターですが、割りとコアなゲームの方が登場は多い印象があります。

 また強さもそのゲーム次第で、ゾンビより強かったりゾンビより弱かったりと、評価が安定しません。

 『幻想と召喚の絆』の場合は……もちろんボスとして登場していることから明らかですよね?


 その性能はいわばいいとこ取り。

 つまりゾンビの毒を持ち、ゾンビほどにトロくなく、なにより生前の技量をある程度、保っているのです。


 つまりロッティングコープスとは、


「来るぞ、ファナ!!」


 戦士なのであります。


 ヨサクが斧とバックラーを手に前に出ます。

 マドカはフードに手をやり、私の指示を待つようです。


 ロッティングコープスは腰からブロードソードを抜きました。

 ロッティングコープスには何種類かあり、召喚の度に得物が変化します。

 どうやら今回は最もスタンダードな剣のようですね。


 グゥっと身体を沈めた直後、ロッティングコープスが矢のような疾走でこちらに向かって来ます。


 その勢いとともに放たれる剣技を想像するに、ヨサクが両断される未来しか見えません。


 ロッティングコープスが腰だめに引いていた剣が美しい円弧を描く前に、私は魔法を放ちました。


「コラプション!」


 黒いモヤがロッティングコープスを包みます。

 すると途端に剣筋は乱れ、動きに精彩を欠き、ゾンビらしくなります。


 コラプションは闇魔法の第三段階で習得できる腐敗の魔法です。


 食事やポーションを毒に変える魔法で、明らかに対人に向けた嫌がらせ魔法です。

 使い所が難しいのですが、β時代は味噌や酒の発酵促進に使えるのではないかと検証されていたことがありました。


 今回はもうお分かりですね?


 腐りかけの死体だから強いというのなら、完全に腐ったゾンビにしてしまえばいいのです。


「ヨサクはそのまま前進、敵を倒して! マドカは敵が攻撃するタイミングに合わせて火の矢を放って!」


 こうなったらもう、ロッティングコープスはネクロマンサー最弱召喚獣と似たり寄ったりの強さしかありません。

 もちろんレベルはボスクラス、ステータスも十分に高いのでまだまだ油断は禁物ですよ!


「エンチャント・ファイヤ!」


 ヨサクの鉄の斧が炎を纏い、ロッティングコープスのこめかみに叩き込まれます。


 ガジュゥ!


 肉の砕けて焼ける音がして、遅れて臭いが鼻をつきます。

 はっきり不快ですね。


「サンドアーマー!」


 敵は剣のみならず爪も攻撃手段にしてきます。

 木のバックラーでは鉄のブロードソードを迂闊に受けられませんし、繰り出される爪は防ぎづらいものがあります。


 そこで動きが鈍るのは仕方ないものとして割り切って、砂の鎧を身に纏わせます。

 そもそもレベル差のせいで、ヨサクが被弾するとHPがゴリっと削れるのです。

 いちいち回復していたらさすがにMPがもちません。


「……ファイヤ、アロー」


 ロッティングコープスが剣を振り上げた直後、マドカの火の矢が放たれます。

 ナイス牽制!


 惜しむらくはもはやロッティングコープスにまともな思考能力がなく、ファイヤアアローに構わず攻撃をやめないことですが。

 それでも直撃した火矢は体勢を崩すのに役立ってくれています。

 少しでも剣筋が緩むなら、やる価値はありましょう。


 さあ、勝利への道筋は作りました。

 あとは各々が完璧に役割に徹するだけです。


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