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幻想と召喚の絆  作者: イ尹口欠
朽ち果てた寺院編
16/151

15

 二階に上がると、左右に伸びる回廊に出ます。


 寺院は上から見るとおおよそロの字の形をした建物です。

 南の一辺をさらに南側にせり出した部分が礼拝堂に当たり、執務室と二階への階段が中庭に食い込む形で存在しています。


 ここ二階の回廊は、ロの字の形をした寺院を一周するためのものです。


「さてファナ、どちらへ進むのだ?」


 ウルシラさんは試すような口調で、私に問いかけます。


「右に行きましょう。その方が少しだけ次の階段に近いです」


「…………来たことがあるのか?」


 ウルシラさんが目を丸くしました。

 してやったりですね。


「その質問になんと答えるべきかは、分かりかねます。しかし付与魔法を習得したのは見ていた通りですよ」


「それだ。まるでここにアレが出てくるのが分かっている、と言わんばかりだが……おっとさっそく来たぞ」


 壁の中から、薄っすらと透けた人の影が這い出てきました。

 敵のイビルゴーストです。


 こいつらはネクロマンサーの使役するゴーストと違い、ちゃんと攻撃力があります。

 触れている部分からHPを吸い取っていくというもので、武器による攻撃が効かないことを良い事に積極的に掴みかかってくるのです。


 手出しはしない、そう言うかのごとくウルシラさんが一歩、下がりました。


「ヨサク、先頭は任せます。進みながら近寄る連中を攻撃しなさい。マドカはヨサクが討ち漏らして私達の方に抜けてきた奴に火の矢を放ちなさい。では進軍開始!」


 早速、新たに習得した付与魔法の出番ですよ!


「エンチャント・ファイヤ!」


 付与魔法の第一段階は、術者のもつ魔法の属性を武器に付与することができるエンチャント系です。


 アンデッド、特にゴースト系には光か火のエンチャントが最も有効です。

 一番相性が悪い闇属性ですら、きちんとダメージを与えられます。

 β時代の検証結果なので、今の仕様がどうなっているかは分かりませんが。


 しかしエンチャントのかかっていないただの武器でダメージを与えられないことは、私が引いたゴーストのステータス欄にある非魔法攻撃無効の能力から明らかですけどね。


「……」


 抱擁を迫るように両手を突き出したイビルゴーストに、ヨサクは火炎を纏った斧を振るいました。


 ボシュっ!


 まるで霞を切り裂いたかのように手応えのなさそうな斬撃の結果は、見た目にも明らかなものでした。


 一撃。


 そう、付与魔法は習得にSPを3点も消費するだけあって、かなり効果の高い魔法体系なのです。


 そもそも魔法には滅法弱いゴースト系。

 鎧袖一触となるのは当然でしょう。


「いい調子ですよ、ヨサク。当てれば倒せるので、その調子で頼みますよ!」


 イビルゴーストの動きは割りとゆっくりですから、ヨサクも余裕を持って対応できます。


 ヨサクは一体、また一体とイビルゴーストを両断していきます。


 さすがに余裕ですねー、……一体のうちは。


 ぞわり。


 壁の中から、天井から、床から。

 三体のイビルゴーストが向かってきます。


 奴らの構えは相変わらずの、死の抱擁。


 それを迎え撃つは炎の……ああっ、効果時間切れです!


 ヨサクの斧が一体目を両断しますが、イビルゴーストは何の痛痒も感じなかったようで、あまつさえ嘲笑しながらヨサクに抱きつきにかかります。


「エンチャント・ファイヤ!」


 一体が魔法の切れ間にすり抜け、私とマドカの方に抜けてきます。


 ヨサクはすがりつくイビルゴーストを改めて火炎を纏った斧で振り払うと、その勢いのまま三体目も斬り払いました。


「……ファイヤ、アロー」


 ボヒュっ!


 絞り出すようなマドカの声。

 杖は抜けてきた一体に向けられており、炎の矢は過たずに死霊を貫きました。


 無事に三体を凌ぎましたが、ヨサクのHPの減りが大きいです。

 わずか数秒、しかし低レベルゆえ半分ものHPが奪い取られたのです。

 もし二体にすがりつかれたら、ヨサクのHPはあっさりゼロとなるでしょう。


「リペア・アンデッド!」


 いまはこの魔法の燃費の良さに感謝したくなります。

 さあ、ここからはどんどんキツくなっていきますよー。

 出し惜しみは無しです!


 ざわり。


 左右の壁から二体、床からは三体、当然天井からも一体、都合六体。


「ヨサク、右側を優先して斬って! マドカは左の奴らに火の矢、三本まで許可!」


 さあ、処理が遅れたら即座に私もファイヤアローを撃たねばなりません。


 本来ならここはヨサクを退かせながら、魔法と斧で仕留めるべき数です。

 少なくともβ時代に立てた低レベル攻略チャートには、そうするべきだと書いた覚えがあります。


 しかし今回、こちらには頼れる魔法使いが、私以外にもう一人居ますからね。


 ――行けますよね、マドカ?


「……ファイヤ、アロー」


 ヒュッ!


 ボシュ!


 火の矢がイビルゴーストを撃ち抜きました。


 ヨサクの斧が火炎をたなびかせながら、一体、また一体と切り裂いていきます。


 回廊からは続々とイビルゴーストが湧き続けます。


 救いなのは、通り過ぎた所からは決して湧かない、というここでの敵の特性でしょうか。

 背後への警戒は不要です。

 だからとにかく前へ、死霊の群れを掻き分けて、先へ!


 マドカのMPが尽きてからは一層厳しさを増します。

 でも階段のある扉まであと少し、そこに入ればイビルゴーストは追ってきません。

 さあ私もガンガン魔法を撃ちますよー!


「エンチャント・ファイヤ! ヨサク、右から二体、その後に上。ファイヤアロー!」


 この局面まで来ると、戦力不足の召喚獣を囮に使うのですが……いまさらゴーストくんに交代なんて考えられませんね。


 もうひとり魔法使いがいるというのは、本当にありがたいことですね。

 マドカは今回のMVPです、ここまで来たら一緒にゴールしたいじゃないですか。


 そうして私のMPが底を尽くと同時に、何とか階段のある扉を開いて飛び込みました。


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