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幻想と召喚の絆  作者: イ尹口欠
封印の塔攻略編
151/151

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半年後。



【魔神が討伐されました】


魔神が咆哮する。


空間が揺らぎ、軋み、ひび割れるような断末魔。


遂に私たちは魔神に勝利した。

ラスボスを倒したのだ。


この『幻想と召喚の絆』のラスボスを――。


「やった! これでログアウトできる!」


目に涙をためて拳を握りしめるヘルマンくん。


「ようやく……思った以上に時間がかかりましたね」


「ええ。ですが、わたくしたちの勝利ですわよ?」


感慨深そうなセインさんとエクレアさん。


「…………」


勝利の余韻にふけるでもなく、勝利した面々の表情を記憶すべく、周囲を眺めるバラスケ。

目があったので笑いかけましたが、驚いた表情で一礼してくれました。


泣いて喜ぶ者。


笑って喜ぶ者。


誰も彼もがようやく終わったのだ、と口々に喜び合います。


「ファナ!」


カナコさんが目に涙を浮かべて、こちらにやって来ました。


「カナコさん、ようやく終わりますね」


「うん。ようやく……現実ではどうなっているのかな」


「…………」


【ゲームのクリアを確認しました】

【これより順次、ログアウト処理を行います】


システムアナウンスに皆が沸きます。


私は笑顔を浮かべつつも、どこか冷ややかな心持ちで、彼らの様子を眺めます。


ジジジ、とひとり、またひとりとこの世界から消えていきます。


「やった、ログアウト処理だ!」


「連絡先、忘れるなよ!」


「オフ会、絶対やろうな!」


ジジジ、ジジジ、ジジジ。


「……ファナ、向こうで、また」


「ええ」


喜色満面の笑みを浮かべるプレイヤーたちの中で、カナコさんの表情が陰りました。


「……カナコさん?」


「…………」


ジジジ。


カナコさんは、私の表情から何を読み取ったのか。

呆然としたまま、彼女はこの世界からログアウト――消去されました。


ジジジ。ジジジ。ジジジ。


――そして静寂がやって来ました。


荒涼とした最終決戦の場に、ひとり立つ私。


ストレージの魔神からのドロップアイテムを全て選択し、


「クリエイト・アンデッド」


【ドロップアイテムが足りません】


……ま、これだけの人数にドロップアイテムが分散したので、無理だとは分かっていましたが少し残念ですね。


誰もいない決戦場を後にして、私はフィールドに出ます。


そこには、アインス、ツヴァイ、ドライ、フィーア、フュンフ、ゼクス、そして原口さんが待っていました。

原口さんは感無量といった面持ちで、言いました。


「ゲームクリア、おめでとう」


「私ひとりでクリアしたわけじゃないですよ。沢山の、攻略に前向きだったプレイヤーたちの努力の成果です」


「分かっているよ。でも彼らを牽引したのは、紛れもなく君だった」


「ええ。レベルをカンストさせて、攻略組の準備が整うまで待ちましたからね」


「ははは。本当に君は凄い。凄いゲーマーだよ」


原口さんは涙を浮かべながら笑いました。


そして――原口さんの背後から、いつか見た少女がひょっこりと顔を出します。


「やっほー。迎えに来たぜ、ヒーロー」


「……」


この場の面々の顔が曇ります。

私と少女以外の、ですが。


「ええと、結局あなたの名前、まだ知らないんですよ」


「そう! 名乗るの忘れてたんだよねー。まあでも今更だし、すぐに君はゲームから切断されて、次に目覚めたときにはハッピーな街でお目覚めだし。私の名前なんてどうでもよくない?」


「そうやってみんなにも名前を名乗らずはぐらかしてきたんですか?」


「なんでもいいって言ったよ? アンジーでもキャシーでも。好きに呼んでいいって」


「名乗る気ゼロですねえ」


「ほんと私の名前なんてどうでもよくない? 君の新しい人生の方が、重要じゃない?」


「それはそうですが」


「そう! なら後はもう、言葉を交わし合うことに意味も意義もないよね?」


「……」


「じゃあみんなとお別れを済ませたら、――新しい世界の幕開けだよ!!」


……ええ、望む所ですよ。


皆は私が新天地に行くことに最後まで懐疑的でしたが、私の意志を尊重してくれました。


「お姉ちゃん……」


「香奈美ちゃん。私は多分、あたなより長生きしますのでお気になさらず」


「……もう。仕方ないなあ」


私の軽口に、皆にも笑顔が戻ります。


「ま、最後までファナらしかったかな」


「そうそれ。やっぱりファナだったなあ」


……勝手に懐かしまれるのも、これで最後ですかね。


私はなんとなく居心地が悪くなって、延々と続きそうなお別れ会で内心、次の生活について思いを巡らせていました。



「ヘイ! そこのお嬢ちゃん、そりゃ一体、なんだい?」


街を歩いていると、陽気なお兄さんが私の後ろをついてくる骸骨のNPCを指差して笑いながら訊いてきました。

私は気を悪くするどころか、むしろ機嫌よく答えてやりました。


「彼はヨサク。エンシェント・スペクターのヨサクよ。カッコイイでしょ?」


「オウ。なんでそんなものをこの街に連れ込んでるんだ。もっとイカすのはなかったのかい。いくら補助AIでも――」


「シャラップ!」


私の最高にカッコイイ相棒をけなすことは許されません。


「私のヨサクはベリークール!」


「……分かった分かった、そんな目で睨むなよ」


舌打ちしながら陽気なお兄さんは歩き去りました。


……勝った。


新しい世界は、なかなかに融通のきく場所で、ヨサクを連れていきたいと言ったら二つ返事でNPCとして生成してくれました。


どうせこの世界の住人はある意味で全員がアン・デッド――不死者なのですから。

骸骨が一体、まぎれこんでいても構わないでしょう。


つまり私自身がアンデッドになるという夢のような話が叶ったわけですから、ハッピーに決まってます。

永遠に終わらない幸せな生活。


ええ、ずっと私の冒険は続きますよ。


「今日もログインしましょうか」


私は今、VRワールドの中から、VRゲームを遊ぶ日々を送っています。

退屈とは無縁の、永遠に続くゲームの世界で。


私は生き続ける――。


このエピローグを書いたのは2年前でした。

打ち切りエンドにせざるを得なかったのは、インフレさせすぎたせいです。

ステータス管理が煩雑になりすぎ、敵のバランスがとれなくなったことが主な要因ですね。

女性一人称テンション高めでガシガシ書けたので、書いている最中は楽しくて仕方がなかったです。

それがインフレによるバランス調整で手が止まるようになり、エタりました。


エピローグまでの封印の塔攻略編を投稿する時期については、次作を書いて投稿するタイミングにしようと決めていたのですが、思いの外、次作を書く暇がなくてこんなにお待たせすることに。

実は書きはじめた作品はいくつかあるのですが、どうしても序盤で手が止まり、楽しく続きが書けませんでした。

そんななかで、ようやく自分が楽しく書けるものが現れたので予約投稿した次第です。


というわけで次作は既に予約投稿して、続々と投下されているはずです。

次作も楽しんで書けるうちは続きます。

忙しくなったり展開に詰まったりして手が止まると、またお待たせすることになるかも知れませんが。


ではまたどこかで。

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