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というわけでやって参りましたヤツハカ牧場。
よくよく考えてみれば、トロールの集落周辺の敵はレベル32となかなかの高さがあり、なおかつアンデッドではありません。
修行としては効率いいとはいえませんが、たまには内政に数日かけてもいいでしょう。
次のレベリング候補地にアテはありませんが、そこはなんとかなる目算があったりします。
さてまずはレベルアップしたので、住人召喚からやりましょうか。
2レベル分なので二体、何かが召喚されます。
まあこれまで碌なものが召喚されたためしがないので、あまり期待できないのですが……。
【スケルトンを召喚しました】
【ゾンビを召喚しました】
……可愛いアンデッドが増えたと思えば、許せなくもない結果ですね。
もうすこし驚きのある結果が欲しいところですが……こればかりは仕方ありません。
ヤツハカ牧場に伯爵となったヨサクを配備して、いざトロールテイマー狩り開始です。
今回は強くなったムラマサ、マドカ、フジキ、ミスリムの強さを確かめるため、ヨサク抜きで十分だと判断しました。
いやみんな目に見えて強くなりましたよ。
中でもミスリムの動きはササキに輪をかけて鈍重ですが、魔法にも物理にもびくともしない硬さで、メイスを叩き込んでいきます。
戦車かなんかですかね、こいつは。
恭順していないトロールテイマーを狩ってはクリエイト・アンデッドでパーティに加入させて、牧場に配備するという作業を延々と繰り返していると、日が落ちた頃、遂に魔王ツヴァイが呆れた顔で降臨しました。
よ、待ってました魔王さま!
忙しいから次は来れないかもしれない、とは言いつつもちゃんと来てくれるとこ、お姉さんは好きだなあ。
はいそうです。
次のレベリングする場所が分からないなら、ヒントを出してくれる魔王から聞き出せばいいんですよ!
教えて香奈美ちゃん♪
「……お姉さん、それ楽しい?」
「実はユニオンポイントがじわじわ増えていくのが、ちょっと快感になりつつあります」
「そう」
「はい」
微妙な空気がふたりの間を支配します。
「あ、戦うならちょっと待って下さいね。トロールテイマーを配備してからヨサクを戻しますんで」
「いいけど……そのヨサクとやらの合体数は偏りすぎ」
「あはは。最初に引いた子なのでつい」
「そういうところがあるね、お姉さんは」
ぐっと背伸びしてから、ツヴァイは表情を変えて言いました。
「善なる神に召喚されし者よ、我が名は魔王ツヴァイ! メオントゥルム南部山岳地帯に山人族の掘った炭鉱があるぞ。汝が次に向かうべきはそこだ。このようなところで遊んでいては、我らが神を討伐することなど永劫に叶わぬと知れ!」
「おー」
ぱちぱちと拍手を送ると、ツヴァイはがっくりと肩を落としました。
「もう……たまには他のプレイヤーにしているみたいに口上を述べたけど、やっぱりネタバレしているとイマイチ締まらない」
「そうなんですよねえ。……メオントゥルムの南部? あれ、アドリアンロット北部山嶺地帯とは別にあるんですか?」
「ある。ハイゴブリンロードの城から東に真っ直ぐ、ここトロールの集落との間、ちょうどメオントゥルムの真南に位置する狭い山岳地帯が、それ」
「なるほどー。ちょうど次はどこへ行けばいいのか分からないから、魔王……できれば香奈美ちゃんが来るのを待っていたんですよ」
「そろそろ名前呼び止めて」
「ああ、ごめんなさい。魔王ツヴァイ。ええと今回もユニオン戦ですか? あれ経験値が入らなくてがっかりなんですよね~」
「ユニオンポイントが増えるのが楽しくなってきたんでしょ? 丁度良かったと思えばいい」
「なんか戦って得るポイントと、内政で得るポイントは違う気がするんですよ」
「それはきっと気の所為だから。あと勝つ前提で話が進んでいるけど、今回も勝てると思ってる?」
「未だ負けなしですからねえ」
「……ほんとそれがおかしい。他のプレイヤーには魔王側は負け無しなのに」
「難問を解くのは得意なんですよ」
「この医学部出め」
「ふふふん。どんなにメタ張っても穴はあるものですよ」
「高学歴の余裕か。よし、ギッタギタにしてやる」
「いまどき言いませんよ、ギッタギタとか……って」
《デビルサモナー“魔王”ツヴァイ
Lv37 鎚10 尻尾10 飛行10 火魔法7 即死耐性5 悪魔同化》
「こっちのパクリ戦法する気ですか!? 私より年上になったのに大人気ないにも程がありますよ!?」
「くくく、前回の恨みを晴らさせてもらおう」
くぅ、これは面倒くさいことになりましたよ。
でもこちらの弱点だった火魔法が第七段階まで下がっています。
まあ魔法は使わずに接近戦に持ち込もうという腹なのでしょうけど。
ならばこちらも相応の対策を練らなければなりませんね。
こちらの布陣は、スペクター・カウントのヨサク、スペクター・フェンサーのムラマサ、レイス・ソーサレスのマドカ、デュラハン・デュアルライダーのセルフィ、グリムリーパーのフジキ、フライング・ドラゴンクロウのグラインダー、ファラオのマルキド、カースドアーマーのミスリムです。
ヨサク、ムラマサ、マドカ、セルフィ辺りは鉄板の面子ですね。
六体合体になって実力が底上げされたフジキ、やんちゃなグラインダー、変化球のマルキド、次世代エースのミスリムらは、今回の戦いにおいて明確な役割を持っています。
「さあ、こちらの布陣は決定しましたよ」
「分かった。リソースが均等になるように……ってファラオが入る? 一体なにを……」
首を傾げながらツヴァイも布陣を整えました。
《レッサーデーモンA
Lv37 爪15 尻尾15 飛行9 地魔法11 水魔法11 火魔法11 風魔法11 全魔法耐性15》
《レッサーデーモンB
Lv37 爪10 尻尾10 飛行7 地魔法7 水魔法7 火魔法7 風魔法7 全魔法耐性9》
《レッサーデーモンC
Lv37 爪8 尻尾8 飛行6 地魔法7 水魔法7 火魔法6 風魔法6 全魔法耐性8》
《ケルベロス
Lv37 牙7 爪7 尻尾5 火の吐息5 毒の吐息5 敏捷強化4 火耐性5 毒耐性5 闇耐性5》
《バジリスク
Lv37 牙6 爪6 地魔法10 石化の魔眼10 斬撃耐性5 衝撃耐性5 地耐性6》
《ドレイク
Lv37 牙7 爪7 飛行7 火の吐息7 生命強化7 火耐性5》
《インプA
Lv37 闇魔法8 飛行5 敏捷強化5 生命強化3 知力強化6 精神強化5》
《インプB
Lv37 闇魔法7 飛行4 敏捷強化4 知力強化5 精神強化4》
うわーレッサーデーモンが三体とか卑怯ですね。
しかしインプが二体入るという状況は、向こうからすると想定外だったのではないでしょうか。
ミスリムは合体数詐欺とも言えるほど、強いですからね。
なにせ三体合体のくせに少なくとも六体合体のササキと同等の強さを誇りますからお得です。
ここで確実にリソース差を稼いでおいてくれるおかげで、全体的に余裕が生まれますよ。
しかしポイントは如何にして三体のレッサーデーモンを凌ぐかですね。
「準備はいい?」
「いつでもどうぞー」
軽く応じて見せてますが、内心ではドキドキしてます。
【これよりユニオン戦『グレイブキーパー』VS『魔王軍』を開始します】
【バトル、スタート!!】
「悪魔同化!」
「エルダーリッチ同化!」
初手は互いに同化スキルの使用から。
そして次のツヴァイの指示は完結かつ明瞭なものでした。
「全軍、進撃!」
対する私の方はといえば、
「チルレイン!」
まずは支援魔法からです。
戦場全域に冷たい雨を降らせ、器用と敏捷にペナルティ修正を与えます。
もちろんアンデッドである私たちには無害、そして全属性耐性をもつレッサーデーモンたちも恐らくは影響を受けないでしょう。
しかしツヴァイを始めとする悪魔軍団にはいくらかのステータスダウンを与えることが出来たはずです。
さあ、こつこつ積み上げますよ!
「マドカはレッサーデーモン以外にシャドウセイバーを中心に攻撃、ただし自己判断で別の攻撃魔法を使用することを許可する。マルキドは私の護衛、他は全軍、進撃!」
数の上では不利ですが、質では負けてませんよ!
「ナイトウォーカー、ドラゴンスケイル、ドラゴンテイル、ドラゴンウィング!」
ネクロマンサーとドラゴンメイジの専用魔法を予め使っておきます。
夜にわざわざやってくるのは、恐らく香奈美ちゃんのリアルの都合ですが、こちらにとっては好都合。
全軍の強化、そして私自身も今はアンデッドなので強化が入ります。
ドラゴンメイジの各種専用魔法は、向かってくるツヴァイの迎撃用です。
正直、ドラゴンウィングを扱いきれていないのが不安要素ですね。
向こうは飛行スキルが高いですが、こちらは満足に飛ぶことすら覚束ないほど、随意飛行は難しいのです。
まっすぐに全速力で飛ぶのは簡単でも、戦闘中に複雑な機動をすることは不可能でしょう。
さて戦場にはまずプレイグメアを駆るセルフィ、そしてグラインダーが突っ込みました。
迎え撃つ敵はレッサーデーモン三体とドレイク。
正直、分が悪すぎですね、支援するとしましょう。
「マドカ、まずはドレイクにペリッシュを。……アウェイク・パワー!」
マドカにペリッシュを撃たせて、ドレイクを衰弱させます。
マドカは既に第十段階までの闇魔法が自在に扱えるので、かなり重宝する戦力となっていますよ。
私の方は、グラインダーにアウェイクパワーを飛ばすのが最優先です。
「セルフィ、騎竜召喚! ブレスで薙ぎ払って、しばらく保たせて!」
プレイグメアがドラゴンゾンビに変じて、一気に上昇します。
そして吐かれる、猛毒の吐息。
全属性に耐性のあるレッサーデーモンたちでも、猛毒の吐息は有効です。
敵の前線をひるませ、グラインダーはドレイクに攻撃しにいきました。
さすがグラインダー、素早い動きで翼を切り裂いて飛びます。
セルフィは勢いそのまま、レッサーデーモン三体を相手取ることになりましたが、すぐに駆けつける我らがエース、ヨサクとムラマサです。
というか、レッサーデーモンAはヨサクが相手でもどうにもならないほど強いため、まずはレッサーデーモンBとCいずれかを倒さなければなりません。
しかしレッサーデーモンAに対して、わずかながら拮抗できる戦力が我が陣営にはいます。
それがドラゴンゾンビに騎乗した状態のセルフィです。
数値は確認できないものの、ドラゴンゾンビのステータスはかなりのもののはずで、セルフィがおまけになるほどの強さを誇ります。
短時間……具体的には八十秒間だけは、レッサーデーモンAを食い止めることが出来るのです。
さあ、その間にレッサーデーモンBとCを料理しましょう!
……なんてうまくいくはずもなく、私の目の前には高速で迫りくる魔王ツヴァイの姿がありました。