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「プレイヤーが尻尾スキルを使うにはねえ、第一職業をアニマルテイマーにして同化して初めて使えるものなの。その場合もドラゴンテイルとは併用できないから、普通はそんな上手く尻尾、使えないの」
「はい」
「ズルい」
「思いっきりネクロにメタ張ってた香奈美ちゃんに言われたくないですね」
「…………それもそうか」
「そうですよ。なんですか、あのブレスと魔法のオンパレードは」
「う、だって。魔王とか名乗っておいて負けたくないし」
「アインスを二度とも下しているのに、今更じゃないですか。全部事情知っている私にサービスするくらいのつもりでいいんですよ」
「いや、さすがにそれはどうかと」
「大体、ユニオン戦じゃ経験値もドロップアイテムもないじゃないですか!」
「代わりにユニオンポイントは入ったから」
「もう道路、引いちゃいましたからねー。何に使うんですかこのポイント」
「だからトロールの集落を……」
「牧場経営ですか? アンデッド村の方が性に合っているんですけどねえ……」
「相変わらず趣味が悪い」
「報酬の上乗せを要求します。魔王を倒して、大量とはいえユニオンポイントじゃ割に合いません。こっちはなけなしのSPを使い切らされたんですよ?」
「分かった。特例で私の権限の許す範囲で報酬を上乗せする」
「お、話が分かるじゃないですか。で、何をくれるんですか?」
「尻尾スキルをひとつ、伸ばしてあげよう」
「…………」
「今回の勝因、MVPである尻尾スキルはこれで第六段階に到達した。おめでとうファナ、プレイヤーで尻尾スキルを習得しかつ第六段階まで育てたのは君が初めてだ」
「…………」
「…………だめ?」
「…………いや、ちょっと悪くないかなーとか思っちゃいました。なんだかんだで使えますし、尻尾」
「うん、ならそれで」
「うーん。やっぱり見合わないですけど、あんまり妹を相手にゴネるのもみっともないですしね」
「いいお姉さんだ」
「褒めても何も出ませんよー」
「じゃ次は誰が来るか分からないから」
「あれ、またツヴァイじゃなくてですか?」
「リアルに忙しい」
「あー……働き盛りですもんね」
「ほんと。みんな忙しい合間を縫って、魔王をやっている」
「聞きたくなかったです」
「うん。だから、ちゃんと相手してあげてね? 尻尾で殴打とか今回のは、ちょっと楽しかったけど」
「楽しかったの!?」
「うん。ファナは相変わらず、何をするか分からない。久々の感覚だった」
満足そうな笑みを浮かべて、魔王ツヴァイは去っていきました。
……まったく。
本当に尻尾スキルが第六段階になってますよ。
今後もこれ、使うんですかねえ……。
◆
魔王を倒したにも関わらずSPを使い果たし、個人では使い道のないユニオンポイントを入手した挙句に尻尾スキルが更にひとつ上昇するという収支完全に赤字の戦いを経たストレス発散のため、私は次の街へ向かう道を外れて南下していました。
目指すはトロールの集落。
得られなかった経験値とドロップアイテムの補充といきましょう。
ちょうど今の時刻は夜。
教えてもらった場所へ着く頃には朝になってしまうため一度、野営を挟んでからの到着です。
《トロール・ガード
Lv35 槍8 盾10 斬撃耐性 衝撃耐性5 夜目》
歩哨が三体いますが、ここは正面突破ですね。
トロールは魔法を使う奴がいるため、できればドラゴンブレスで一掃してから突入するのがいいでしょう。
いままではこれを怠って酷い目にあってきましたからね。
現在の布陣はトロールテイマー・レブナント、スペクター・ヴァイカウントのヨサク、スペクター・フェンサーのムラマサ、デュラハン・デュアルライダーのセルフィ、フライング・ドラゴンクロウのグラインダー、スペクター・バンカーのロビン、レイス・スカラーのタツヤといういつもとはちょっと違う布陣です。
まずトロールテイマー・レブナントを単騎で突撃させ、集まってきた敵の内容を見ながら水の吐息、氷の吐息、風の吐息、霊の吐息を順番に撃ちこんで、最後に猛毒の吐息を撃ちながら全員で突入する流れですね。
毒が効かないアンデッドしかいませんから、猛毒の吐息は安全を確保しつつ敵にダメージを与えられる重要な要素です。
他に毒の吐息がふたつあるため、味方を巻き込むのを恐れずに援護射撃も可能ですよ。
後はタツヤのMPが減ったらマドカに交代するくらいでしょうか。
正直、そこまで劣勢になるイメージはないんですけどね。
さて、作戦開始です。
◆
「ぅてー!!!」
ゴオオオオオっ!!!
トロールテイマー・レブナントをパーティから外し、順番にドラゴンブレスを叩き込んでやりました。
面白いようにポコポコ吹き飛んでいくトロールたちを尻目に、こちらは着々とバフを重ねていきます。
「アウェイク・パワー、アウェイク・パワー。インストラクト・スキル」
MPポーションも適度に飲みながら、おっとレッサードラゴンたちを撃ち終わりましたね。
敵陣の様子はどれ。
【ダークトロール・ロード“狂戦士”ゴルヴァンが現れました】
【速やかに討伐してください】
《ダークトロール・ロード“狂戦士”ゴルヴァン
Lv80 斧15 回避10 闇魔法剣5 狂化15 威圧10 統率15》
うん、なんかヤバそうな奴が視界にいますね。
これツヴァイに騙されましたかー?
いやでもまあ、取り巻きはほとんど消し飛んでいるので、残るは奴だけと言っても過言でない状況です。
そしてこちらにはまだまだ手札が満載。
これは行けますね、間違いない。
「よし、状況は想定内。作戦は事前の通り決行。かかれ!」
ドラゴンゾンビ(猛毒の吐息)を準備しながら、全員で突撃を仕掛けます。
まず真っ先に飛び出したのは相変わらずのグラインダー。
しかしすぐにプレイグメアに乗ったセルフィが追いつきます。
初速では誰にも負けないグラインダーも、最高速度では馬には勝てないようです。
疫病を撒き散らしながら不吉の黒馬にまたがるデュラハンは、ソウル・スピアを片手にチャージを敢行しました。
しかしそれを迎撃するはレベル80の化け物、ダークトロール・ロードです。
斧を振りかぶり、――反撃などされたらセルフィが戦闘不能になるので、猛毒の吐息を発動します。
ゴオオオオオオっ!!!
吐息に後押しされるようにしてセルフィの突撃は為されました。
敵のHPバーがゴリっと減って、反動で把持できなかった槍が跳ね跳んでいきました。
続くグラインダーが顔面を狙いますが、それを首をひねるだけでロードは回避してみせます。
足元にはムラマサが追いついていました。
地を這う一閃が、ロードの脛を削ります。
ロードの胴体へはロビンのアーバレストのボルトと、タツヤのファイヤアローが突き刺さります。
しかしタツヤは火力不足が目立ちますね、変えた方が良さそうです。
そこへ満を持してヨサクが追いつきました。
真正面からのハルバードの突き。
ロードの分厚い戦斧に阻まれましたが、ひっかくように斧の部分で腕を傷つけて身を引きます。
私も見てばかりではいけませんね。
「エルダーリッチ同化! ペリッシュ!」
衰弱の魔法は、果たして効果は見えず。
どうやら高いレベル差によって、抵抗されてしまったようです。
半端な支援魔法ではもはや、戦局に介入することすら難しいのでしょうか。
仕方ないのでタツヤをパーティから外し、マドカを加入。
毒以外の吐息は撃ち尽くしたものの、まだ爪と尻尾が残っていますよ!
召喚士は召喚士としての勤めを果たしましょう。
レッサードラゴン(火の爪)をロードに放ちます。
「マドカ、シャドウセイバーで攻撃し続けて!」
「……シャドウ、セイバー」
漆黒の影剣がロードの足元を襲いますが、表皮を滑るように浅い傷しか作れません。
いや堅いですねえほんと。
レッサードラゴンの火の爪はさすがに上体を崩すほどの威力を見せましたが、それでも決定打には程遠く、まだまだ打ち込めと言わんばかりにロードは吠えたけります。
高い技量を持つはずのロードがステータスに物を言わせてやたらめったら斧を振るうので、ヨサクたちは迂闊に近づけない模様。
どうにか動きを止めたいものですが、ここでファラオのマルキドでは真っ二つどころかミンチにされるのがオチでしょう。
レッサードラゴンの残弾が切れるまでは、膠着状態が続くようですね。
これで撃ち尽くした後に、まだ元気だったらどうしようって感じですが……その場合は切り捨てられるのを覚悟して、回復魔法を連打しながらヨサクたちに頑張ってもらうというアンデッド戦法を敢行するしかないでしょう。
死も痛みも恐れも抱かず、傷は癒やし戦闘不能も癒やし、延々と敵に傷を与え続ける最後の手段です。
きっとMPポーション的な意味で大赤字でしょうね。
まったくツヴァイ戦からずっと赤字続きで嫌になりますよ!