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幻想と召喚の絆  作者: イ尹口欠
アンデッド村開拓記編
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 ボロボロになったトロール・レブナントをパーティから外して、トロールテイマー・レブナントを作成します。

 この調教スキル、アンデッドになっても使えるのでしょうか?


 住人に配備したくなりますが、わざわざ戻るのも面倒なのでこのまま先に進みます。

 目指すは新しい街ルフレミラント、そしてその周辺にあるダンジョンです。


 なんとなくこの辺のトロールを狩っていても良い気がしてきましたが、適正レベル35のダンジョンがあるならどのみちそちらに行く必要があります。


 現在の私のレベルが32なので、トロール相手にちょうどいい勝負ができてしまっているのですが、レベル35手前くらいからはダンジョンに行かなければEXPの伸びが悪いことになるでしょう。

 噂では適正レベル35のダンジョンはアンデッドが出て来るらしいので、ターンアンデッドやコマンドアンデッドが活躍すると思うのです。


 楽して経験値が稼げるなら、そちらの方が美味しいはずですものね。


 退屈な船旅より刺激的なのはいいのですが、ともかくこのトロールゾーンを早めに抜けたいものです。


     ◆


 トロールテイマー・レブナントはなかなか役に立ってくれました。


 鞭でリザード・テイルビュートを威嚇したり、サンドブラストの的になったりと、対トロール戦でいい動きをするのです。


 壊れる度にリジェネレイト・アンデッドで復活させる必要があるんですけど、こちらの面々を個別に回復するよりもずっと効率がいいですね。


 日が落ちて夜になりました。

 さあ、私たちの時間ですよ!


「ナイトウォーカー!」


 野営などせずに進軍です。


 本日の行程は日が明けるまで進む、です。

 野営をするのは朝になってから、三時間ほど私が睡眠をとるだけですね。


 いやあ疲れない身体って楽しいですねえ。

 ゲームし続けられるって幸せです。


《トロール

 Lv32 鎚8 地魔法5 筋力強化6 生命強化6 火耐性2 水耐性2 夜目》


 夜になると夜目を持った魔物に変化してレベルが少し上がるのがEXP的に美味しいですね。

 おっとクリエイト・アンデッドの対象も夜目を持った奴に切り替えないとですね。


 さて新しい街ルフレミラントへの道すがら、どのくらい稼げるでしょうか。


     ◆


 ……などと思って進軍していましたが、遂に邪魔が入りました。


 蝙蝠のような翼をもつ女性。

 腰まで届くような長い黒髪。

 間違いありません、掲示板で見た魔王ツヴァイです。


《デビルサモナー“魔王”ツヴァイ

 Lv32 鎚5 火魔法15 地魔法5 飛行 知力強化2 精神強化2 即死耐性2 悪魔同化》


 うっわなんですか火魔法15って。

 こっちがアンデッド軍団で魔法に弱いのを狙い撃ちするような構成ですねえ。

 さすが魔王、エゲツないメタり方してきます。


「こんばんは、ファナ。本当に久しぶり」


「こんばんは、カナコさん。私としては、年齢を追い抜かれたり私の知らない未来を知っていたりと、色々と複雑な心境なのですが」


「そうだね。年齢、追い越しちゃったね――お姉さん」


「それでもまだ姉と呼んでくれますか」


「まあね。正直、十五年も前に死んじゃったし、付き合いもそう長くなかったし……」


「そうなんでしょうねー」


 ファナこと船橋杏奈と、カナコこと道長香奈美は腹違いの姉妹です。


     ◆


 私が十歳のとき、父は母を捨てて、別の女性と結婚しました。

 父の実家は資産家で、多額の慰謝料と私の養育費は全て負担するという条件でこの離婚を母は飲みました。


 私としてはただただ悲しい出来事でしたが、嫌いになりきれない父とは半年に一回、会うということで納得しました。

 私にとっては母を捨てた父親ですが、それ以外の点では非難すべきところのない出来た人間だったのです。

 父との会話から学べることは多く、半年に一回、近況報告をすることを約束して、それは守られ続けられました。


 だから香奈美ちゃんと出会ったのは必然だったでしょう。

 私が二十四歳で大学を卒業した頃だったでしょうか、香奈美ちゃんは十四歳、微妙な年頃です。

 何かしら用事があると言って家を出た父親が、まさか若い女とお茶している光景は彼女にとって唾棄すべき状況であり、許容できるものではなかったようです。

 近況報告を交わしてお茶していた私と父の間に、「どういうことなのお父さん」と突撃してきた少女を見て、ああこの子が腹違いの妹か、と私は冷静に見つめていました。


 難しい年頃の娘に狼狽しつつも状況を説明しなければならなかった父は、しどろもどろになりながらもなんとか私が腹違いの姉であることを香奈美ちゃんに伝えきりました。

 頑張りましたねーお父さん。


 呆然とする香奈美ちゃんに席を勧めて、ケーキセットを頼み、改めて私は自己紹介をしながら、あなたの腹違いの姉です、なんて名乗ってあげましたよ。

 母を捨てた父に瑕疵はあれども、別の女性との間に出来た半分だけ血の繋がった歳の離れた妹は、私の中ではやっぱり妹だったようです。


 まあこちらは元々、存在を知っていましたからね。


 丁度よかったのでアドレスを交換して、ちょくちょくやりとりをするようになりました。

 香奈美ちゃんが私の存在を拒絶して受け入れなくても、現実は現実として受け入れても、どちらでも良かったのですが。

 ただ一応、私の方が年長者ですから、色々と生きていく上でのアドバイスくらいはしてあげられるかなと、私は突然できた妹との交流に浮かれていました。


 その後、『幻想と召喚の絆』にハマった私の前に、カナコという無口な少女が現れたのです。

 でもゲーム内ではリアルについて触れないのがマナーですよね。


 私たちはお互いの正体を察しながら、仲のいいフレンドとして適度な距離感を保って接してきました。


 ……ただそれだけの話です。


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