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すっかり夜の帳も落ちて、草原は松明やランタン、光の魔法による灯りを持つプレイヤーたちの戦場と化していました。
やはり戦いづらいのか、明らかに昼間より人が少ないです。
もしかしたらレベルが上がって別の狩場に移ったのかもしれません。
そうだとしたら、負けてられませんね!
ヨサクを召喚して、プレイヤーの灯りの間を縫うように進みます。
アンデッドは全て夜の闇の中でも支障なく行動できます。私も召喚獣の足を引っ張らないように、初期スキルに暗視を選びましたからね。
夜間だろうと昼間と同じように戦えます。
時折、灯りも持たずに夜闇を進む私達に気づいたプレイヤーがギョッとした顔をしますが、気にせず、草原の奥に進みます。
そんな中、私達を見て驚いたプレイヤーのひとりから恐れの混じったような呟きが漏れ聞こえてきました。
「百鬼夜行……」
ほう、懐かしいですね。
βテスト終了間際に、そのときネクロマンサーだった全員を集めて夜の狩りを敢行したことがあります。
全員とはいえ職業別に見れば圧倒的少数でしたから、たいした規模ではありませんでした。
ええ、実はその狩りを提案したのは私なのです。
まあ特別なことは何も無かったのですが、その光景をたまたま目撃した人がいて、大袈裟に百鬼夜行などと呼ばれるに至ったわけです。
灯りもつけずに大量のアンデッドが魔物を蹂躙する様は、さぞかし刺激が強かったことでしょう。
おっと昔語りが過ぎましたね。
そろそろ目的地ですよー。
◆
街の北西にある草原の奥も奥、不自然に敵と遭遇しなくなるようになる辺りから見えてくるのは、朽ち果てた寺院です。
βテストではレベルキャップが10しかなく、代わりに自由にギルドを移籍することができました。
私もレベルをリセットするために一時的に移籍するのみでネクロマンサーばかりやってましたが、検証熱心な方々は様々な職業でこのダンジョンに挑み、どの職業が最も効率がいいかタイムアタックをしていたそうです。
私は参加こそしませんでしたが、結果だけは知っています。
結論から言えば、ネクロマンサーは最下位でした。
単純に火力不足なんですよね、他の職業に比べて。
だからかネクロマンサーは『幻想と召喚の絆』における最弱職業とあだ名されているのです。
ではなぜ私がここに来たかと言うと、ある勝算があるからなのです。
私はタイムアタックこそしなかったものの、低レベルかつネクロマンサー縛りでこのダンジョンの攻略に挑戦していたのです。
最弱職とはいえ、実はプレイヤー自身のデータ的な強さはどの職業も変わりありません。
初期に選択する能力値とスキル、レベルアップで割り振ることができるスキルポイント、あとは装備くらいの差なのです。
弱いのは召喚獣であるアンデッドの面々……いえ、正確には弱いというわけではなく、火力という一面でのみ評価したときに総合的に劣る、というだけなのです。
スケルトンは装備の購入が必須。
ゴーストは少なくともレベル10では攻撃できない。
ゾンビは他職の召喚獣に比較して劣る。
ですが彼らの強みは、殲滅火力にはありません。
その圧倒的な耐久力、つまり継戦能力にあるのです。
さて長々と講釈を述べても仕方ありません。
論より証拠、今からお見せしましょう。
低レベル朽ち果てた寺院攻略ネクロマンサー縛り、開始です!