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幻想と召喚の絆  作者: イ尹口欠
アンデッド村開拓記編
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 メオントゥルムは攻略組とそれについてきたプレイヤーがいたため、結構な賑わいでした。

 と言ってもまだ百人かそこら増えただけですけどね。


 それでも新しい職業が四つも増えて、ユニオンなどの新要素も追加されたとあっては、テンションも上がろうというものです。


 さて私は現在、総合ギルドの中でカナコさんのユニオン加入申請を受諾したり、ヘルマンくんから事情聴取を受けたりと忙しい時間を過ごし、ようやく解放されたところですね。


 よくよく考えてみれば私はメオントゥルムでほとんど情報収集らしきことをせずに、支配地漁りに出かけたので、ヘルマンくんたちの方がよほど次のダンジョンや街に詳しい有様でした。


 とはいえ現行のユニオンコンテンツを軒並みソロで掻っ攫ったため、その分はプレイヤー全体の利益のために奉仕してくれとは言われましたが。


 それに関してはポイント支払って道路を敷くだけですので、あっという間なんですけどね。


 ただもう少しだけユニオンポイントを稼がないと、ヤツハカ山からヤツハカ城、ヤツハカ城からヤツハカ村、それとヤツハカ村から森人族の里への三本の道路敷設に足りません。


「そもそもユニオンポイントってどうやって稼ぐんですかね」


「そこはヘルプに書いてあった」


 カナコさん曰く、支配地の発展、それから他ユニオンとの模擬戦で稼げるようですね。


 あ、なんか読んだ記憶はありますよ。

 覚えてないだけで。


「他にユニオンを結成したところはありますか?」


「いくつかあるらしい」


 総合ギルドにはユニオンランキングという表があって、そこで堂々の一位を飾っているのが我がユニオン『グレイブキーパー』です。

 まあ支配地をみっつも増やせば当然でしょうか。


 次に攻略組の『エクソダス』。

 どうやら魔神を倒してとっととログアウトしたい人たちのようです。


 真相を知っている私からすれば積極的自殺志願者ということになるので、非常に複雑ではありますが、原口さん的にはクリアしてもらいたいらしいので、アリなんでしょうねえ。

 攻略組のモチベーションも高そうですし、時間を掛ければなんとかなりそうです。


 さて道路公共事業についてですが、攻略組『エクソダス』も協力してくれることになりました。

 何と言ってもアドリアンロットとメオントゥルムの往復が大変すぎて、一旦移動すると戻るのが非常に億劫になるからです。


 彼らは尾根を伝ってやって来たので、難易度こそ低いものの遠回りで時間がかかるらしく、かと言って難易度が若干上昇する山中を歩くのはまた面倒ということでして。

 あとは模擬戦を試したいというのも理由の一つにあります。


 今の私がどのくらい強いのか、恐らく興味があるのでしょう。

 本来はユニオン総出で戦うネームドをソロで撃破してしまっていますからね。


     ◆


 総合ギルドの中層にはユニオン同士の模擬戦用の円形闘技場が設置されており、死に戻り場所が自動的に闘技場の脇になるという仕様になっています。


 当然、観戦もできるのですが、掲示板に情報が流されていたようで、結構な人数が見学にやってきていました。

 『グレイブキーパー』VS『エクソダス』、言い換えれば某ネクロ氏VS攻略組ですからね。

 自分で言うのも何ですが、掲示板での話題の的にされることが多々ある両者の戦いなのですから、必然的に注目度も高まります。


「というわけで、ハンデ無しになるとこうなるのですが……」


「仕方ないですね。これが現状の実力差ということでしょう」


 ヘルマンくんが苦笑します。


 ユニオン同士の模擬戦では、実力差があまりにも多いとハンディキャップマッチとして扱われます。

 ステータスなどにハンデがつくのではなく、最終的に得られるユニオンポイントが両者ともに四分の一になってしまうのです。

 できるだけ近い実力の者同士での戦いを推奨しているのでしょうね。


 なので同程度の実力だとシステムに判定されるよう予め調整して、ハンディキャップマッチとならないようにするのですが……。


 こちらの陣営は私、スペクター・ヴァイカウントのヨサク、スペクター・フェンサーのムラマサ、スペクター・ガーディアンのササキ、フライング・ドラゴンクロウのグラインダー、レイス・ソーサレスのマドカ、スペクター・バンカーのロビン、レイス・スカラーのタツヤ。

 いつもの最強の布陣ですね。


 対する攻略組『エクソダス』はというと、ヘルマンくんと他プレイヤーふたりに召喚獣が合計十二体。


 これがシステムの判断する互角の戦力ということらしいです。

 実際、私は第四職業まで取得しているレベル32、ヘルマンくんたちはレベル16~18くらいだそうですから、倍近い開きがあります。

 召喚獣の数と合体数を勘案すれば、だいたい三倍の戦力差があるとしても間違いはないでしょう。


 ただ、この布陣と相手を見るに、私の負けは濃厚です。

 なぜならスペクターとレイスは魔法に弱く、開幕から集中攻撃されればあっという間にこちらの召喚獣は壊滅状態となることでしょう。


 パーティを入れ替えることも考えましたが、これ以上、ハンディキャップマッチにならないように調整するのも面倒なので、ここはひとつ私が頑張ることでなんとかしようと思います。


「ファナ、勝てるの?」


「大丈夫ですよ、多分」


「でも向こう、魔法を……」


「それも織り込み済みです」


「ならいい」


 カナコさんは私が無策ではないと安心したようです。

 とはいえ、策と呼ぶにはお粗末過ぎて、博打としか言いようがないのですが。


「ファナさん、準備はいいですか」


「はい。それでは始めましょうか」


 相手は……ソウルブリンガーが二人とアニマルテイマーがひとりのようですね。

 見た目的には数が少ないのが救いでしょうか。


 ヘルマンくんは杖、軽鎧、兜、武装した精霊が一体。

 トマスというソウルブリンガーは、斧、軽鎧、小手、具足で一人。

 ルリというアニマルテイマーは幻獣らしき奇妙な動物を四体、使役しています。


 相手の数は三人と四体。

 こちらの数が一人と七体であることを考えると、数の上で勝っています。


 ただしプレイヤーが三人と精霊、そして幻獣は魔法を使うわけですから、敵は全員がこちらに有効打を与える術を持っているわけです。


【これよりユニオン戦『グレイブキーパー』VS『エクソダス』を開始します】

【バトル、スタート!!】


「全員、散開!!」


 システムメッセージのアナウンスと同時に、私は全員をバラバラの方向へ走らせます。


 それは向こうも読んでいた手でしょう、混乱もなく魔法を放ち始めます。


「ファイヤブラスト!」

「セイクリッドレイ!」

「トルネード!」


 うお、トマスさんは光魔法ですか。

 しかもルリさんは風魔法のかなり高位の魔法を使えるようです。


 プレイヤーの優位は、任意のスキルを成長させられることですからね。

 ひとつの魔法に特化するのは有効な手ですね。

 私も闇魔法に特化していますから、良くわかります。


「エルダーリッチ同化、シャドウリープ」


 影から影へ、魔法に当たらないように相手プレイヤーに接近していきます。


「ドラゴンスケイル、ドラゴンテイル、ドラゴンウィング!」


 まずは魔法特化のルリさんからでしょうか。


 いきなり至近距離に現れた私に驚いているところすみませんが、尻尾で薙ぎ払います。


 シュゴっ!


 そして、


「リジェネレイト・アンデッド!」


 既に何体か倒されてしまっていますね。


 今回の作戦は、ウチの精鋭たちを魔法の的、つまり囮にして、私が尻尾や魔法で敵を倒していくという作戦です。

 幻獣を使役するルリさんから、まずは倒させてもらいましょう!


「ウィンドスラスト!」


「シャドウセイバー!」


 互いに魔法を撃ち合います。


 さすが魔法特化、痛いですねえ。


「リペア・アンデッド」


 今の私はエルダー・リッチですので、リペア・アンデッドで回復できます。


 一旦、ルリさんから離れて倒された味方を復活させましょう。

 ドラゴンウィングは制御が難しい魔法ですが、直線的に全速力で飛ぶだけならばそうたいして習熟していなくても可能です。


「リジェネレイト・アンデッド!」


 さしものヨサクも魔法の集中攻撃にはどうにもならなかったようですね。

 でも安心してください。

 何度でも蘇らせますから。


 しかし相手方の魔法はやはり厄介ですね。

 早めに潰しましょう。


「シャドウリープ、スティールマインド」


「うお!?」


 今度は光魔法を操るトマスさんのMPを狙います。

 回復魔法と対アンデッド魔法を操るトマスさんは天敵のような存在ですからね。


 しかし近接戦闘に特化しているトマスさんは、すぐさま斧を振るいます。

 獣のような意匠の斧は、おそらくアニマルテイマーとの合体召喚獣でしょう。


 尻尾ごときで太刀打ちできるわけないので、逃げます。


「シャドウリープ、スティールマインド」


 今度はヘルマンくんです。

 杖で殴打するスタイルだというのは事前情報で知れていますが、杖の魔力修正の高さがあってか、近接スタイルにも関わらず魔法の威力も馬鹿になりません。

 ただし魔法スキルの数は少ないはずですので、MPもそう多くはないでしょう。


 スティールマインドの餌食ですね。


 やはりこちらも杖で応戦してきたので、飛んで逃げます。


 次の目標はルリさんにしましょうか。

 しかし向こうも準備万端、どこから出てきても魔法を撃ってくるはず。


 なので一旦、間を外しましょう。


「リジェネレイト・アンデッド!」


「く、ウィンドブラスト!」


「スティールライフ!」


 闇魔法の第九段階、スティールライフはスティールマインドのHP版です。

 つまり敵にダメージを与えつつ自分を回復させるというえげつない魔法です。


 まあ効果量というかダメージは低めなんですが、今の私はエルダー・リッチと同化してかなり強化されているので、それなりのHP回復手段となります。


 HPを常に即死圏外に維持し、減り過ぎたらリペア・アンデッドで回復。

 MPはスティールマインド。

 ルリさんには近接からの尻尾攻撃とスティールマインド。

 倒された味方の蘇生。


 これを飛行とシャドウリープを挟んで繰り返しながら、敵陣営を混乱状態に叩き込むのが今回の作戦です。


 そもそも魔法に弱いという弱点を除けば、地力で遥かにこちらが勝っているわけですから、地道に復活をさせれば相手は徐々に疲弊していきます。

 MPが切れてもソウルブリンガーの二人は戦えますが、技量でヨサクやムラマサに勝てるとは思えません。


 故に復活したウチの精鋭を倒すのが敵の最優先目標になるのですが、これを私がひたすら妨害し続けるというものですね。


 相手の穴をしいて上げるならルリさんでしょう。

 彼女自身は高い魔法スキルを持っていますが、接近戦が苦手のようです。

 なので尻尾で一撃加えてから魔法戦をすることで、一手だけ有利を奪えます。


 さらにルリさんは幻獣四体を使役しているため、ルリさんのHPがゼロになったら幻獣四体は戦線離脱。

 美味しい目標ですね。


 そこは向こうも理解しているのか、三人はまとまるようにして死角を補い合いながら、魔法を放ち始めます。


 おやおや、そんなに固まっていたら範囲魔法のいい餌食ですよ?


 私はマドカを蘇生して、ファイヤブラストを撃たせます。


 もちろん相手は、減ったHPを回復させるために回復魔法を使い始めますが、その分だけこちらに飛んでくる魔法が減るわけですから、この状況もMP圧迫作戦に一役買うわけです。


 さあ、こちらも相手が回復している間に味方を蘇生させていきましょう。

 さしもの私もシャドウリープの連発でMPが厳しいですが、燃費のいいネクロマンサー専用魔法とエルダーリッチの精神強化、スティールマインドのお陰でギリギリなんとか保っています。


 早くスティールマインドしに行きたいですが、少し我慢して盤面を有利にしておきましょう。


「リジェネレイト・アンデッド」


「くそ、キリがねえぞ! ジリ貧だ!」


 おっと業を煮やしたトマスさんが復活したムラマサに向けて走り出しました。

 どうやらMPを温存してソウルブリンガーの武器で攻撃するようですね。


 しかしそれが下策だということは、私がなによりよく分かっています。


「ペリッシュ」


 衰弱魔法をトマスさんに仕掛けます。

 上手くかかったようですね?


 いくら接近戦に高いスキルポイントを割り振っているとしても、魔法をかじっている以上、総合力でムラマサを越えることはできません。

 衰弱が入った以上は、


 シュっ!!


 袈裟斬りにされたトマスさんは、ポコン! と魔物が倒される時と同じようなマヌケなエフェクトとともに場外に移動しました。

 はいひとり脱落。


 最初はルリさんからと思って戦ってきましたが、どうやらトマスさんの短気のおかげで少し楽になりましたよ?


 ひとり脱落したら、後は数の有利もあって、負ける要素はほとんどありません。

 さあ私は嫌がらせに徹しながら、ルリさんを優先的に狙いましょう!


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