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十の洞窟と五つの集落を滅ぼした後、ようやく私たちは巨大な廃城に辿り着きました。
ミニマップにはディルコロナの城という表示。
未知のダンジョンですね。
しまったなあ、こういうしっかりしたダンジョンならメオントゥルムで情報があったかもしれません。
支配地の解放しか頭になかったため、まさかネームドがこのような廃城に篭っているとは思わなかったのです。
シャルルなんちゃらのときみたいに、テキトーに練り歩いていれば遭遇するのだと思っていたのが間違いでしたね。
まあ廃城は廃城、そう広くもなさそうですので、さっくり攻略してやりましょう。
どうせ出て来るのは少し強いゴブリンでしょう?
メンバーに変更はありません。
だって疲労もありませんからね、彼らアンデッドには。
そして今やCPUが疑似神経信号を送受信するだけの私にも、疲労感はあっても実際の疲労は存在しません。
一応、脳の反応をシミュレートするので、行動し続ければ疲労は感じます。
でも「私はブレインエミュレーションされているのでこの疲労は錯覚である」と心のなかで唱え続ければ、しばらくすると疲労が綺麗サッパリ消えてなくなるのです。
疲労のないアンデッドと、疲労のないネクロマンサー。
私たちの行軍は、昼も夜も無く続くのです。
できれば夜の方が有利ですけどね!
さあ、いつもの魔法を掛けてから廃城に侵入しましょう。
「ナイトウォーカー!」
おっと早速、ゴブリン四体のお出迎えですね。
城から打って出てくるということは、見張りがいたのでしょう。
《ハイゴブリン・スピアナイト
Lv35 槍8 盾6 斬撃耐性2 衝撃耐性2 連携5 夜目》
いいですね!
そうそう、こういう連中を待ってたんですよ。
「……ファイヤ、ブラスト」
「……ファイヤ、アロー」
マドカとタツヤの先制魔法がハイゴブリンどもを焼きます。
そして飛び出すムラマサとグラインダー。
いつもの光景ですね。
多少、敵が強くなった程度では変わりません。
続くヨサクが戦線に到着するころには、ハイゴブリン・スピアナイトは二体とも消滅していました。
おお、ここのところ動きのなかったEXPバーがチビリと動いた気がしますよ?
実際にはEXPバーが動かない程度の経験値が入っていたはずですが、目に見えるとモチベーションが違います。
次のレベルアップがあるんだなーと、思えるじゃないですか。
さあさあ、どんどん進みましょう。
どうやらこのダンジョン、適正レベルより少し落ちるみたいですよ。
ならば楽勝とういことです。
ボスまで一直線ですね!
◆
【ハイゴブリン・ロード“統率者”ディルコロナが現れました】
【速やかに討伐してください】
《ハイゴブリン・ロード“統率者”ディルコロナ
Lv60 剣9 盾4 魔法剣3 火魔法7 闇魔法3 疾走3 士気高揚5 統率9 魔神の眷属》
《ハイゴブリン・ソードナイト
Lv35 剣8 盾6 魔法剣 地魔法6 連携5 夜目》
《ハイゴブリン・ソーサラー
Lv35 火魔法6 水魔法6 知力強化6 精神強化3 連携5 夜目》
《ハイゴブリン・シスター
Lv35 地魔法6 光魔法6 知力強化3 精神強化6 連携5 夜目》
《ハイゴブリン・アーチャー
Lv35 弓8 回避6 速射5 遠目 連携5 夜目》
ディルコロナの回りにはナイトが十二体、後ろに控えるソーサラーとシスターが六体ずつ、さらに魔法使いたちの左右にアーチャーが六体ずつ控えています。
どうやら本人が戦うより周囲を戦わせるのが得意らしいですね。
ああ、きっと増援もあるでしょう。
これは楽しい戦場ですよ!
ああ、でも敵の魔法が豊富ですね。
「マドカ、タツヤは両側のアーチャーを排除。グラインダーとロビンは奥の魔法使いを始末してきてください。ヨサク、ムラマサはナイトとロードを。ササキは私たちの護衛ですが、攻撃と防御の判断は任せます! かかれ!」
さあまずは何からすべきでしょうか?
数で負けているので、エルダーリッチと同化して、アストラルゲートで数を増やすところからでしょうか。
いえ、それよりまずは既存戦力の強化ですね。魔法でダメージを受けた時のリカバリが必須です。
属性が散っているのでレジスト系じゃ間に合いません、早く魔法使いを倒してもらうことにしましょう。
「アウェイクパワー!」
攻撃は最大の防御とはまさにこのこと!
……とマズイ!
各属性のブラスト系が乱れ飛んできてますよ!?
「リペア・アンデッド!」
ゴリゴリと削れていくHPバー。
ああ、回復が間に合わない!
一旦、パーティからササキを残して全員外します。
ササキが盾を構え、私の壁になり一身に魔法を受け、やはり回復が間に合わずに消滅しました。
私はドラゴンを上から六体、パーティに加入させます。
ドラゴンゾンビ(猛毒の吐息)、ドラゴンゾンビ(猛毒の爪)、ドラゴンゾンビ(毒の吐息)、ドラゴンゾンビ(毒の吐息)、レッサードラゴン(火の吐息)、レッサードラゴン(水の吐息)……、
「ぅてー!!!!」
ゴゴゴゴゴォォォオオオオオオっっっ!!!!!
何も考えずに正面に全弾発射です。
しかし発射されたのは吐息ばかりだったようで、猛毒の爪は射程が届かないのか、ゲートのままで待機しています。
まあ五発も叩き込めれば十分でしょう。
いや最初にこれをやっておくべきでしたね!
「リジェネレイト・アンデッド!」
ササキを蘇生してから、パーティから外します。
ブレスを撃ち尽くしたドラゴン五体もパーティから外し、HPバーの減っていないアンデッドから順にパーティに加入させていきます。
「ドラゴンクロウは敵に近づいて薙ぎ払ってきて!」
命令だけだしておいて、デュラハン・ドラゴンライダーのセルフィ、グリムリーパーのフジキ、ファラオのマルキド、スケルトン・パイクマンのサリッサ、スケルトン・シミターマンのシャムシール、ダンシング・ミスリルフレームのミスリムを加入させます。
……って最後の奴は何もできないじゃないですかー!?
よく見れば、火の吐息と水の吐息がぶつかりあって蒸気となり、猛毒と毒の吐息がわだかまる不衛生な霧が漂っています。
霧が晴れかけてきたところで、相手の殆どが半死半生、というか毒でHPバーが紫になっているので、ほぼ壊滅……いや、たしか光魔法と水魔法の使い手がいたので解毒魔法がありますね。
ここは追撃の手を緩めてはなりませんよ!
「セルフィ、騎竜召喚して上空からブレス、その後に残敵掃討。フジキとマルキドは前進、セルフィのブレスを待ってから残敵掃討。サリッサとシャムシールはフジキとマルキドと一緒に行動せよ。えーとミスリム、君は私の前に浮かんでなさい!!」
実は良い遮蔽物じゃないですかね、ミスリム。
「おっと、ナイトウォーカー!」
メンバーを総入れ替えなんて初めてじゃないですかね。
メニューで表示されている控えメンバーのHPが酷いことになっています。
順番に回復していくしかないですけど、時間を稼がないといけませんよ。
当然ながらボス、ハイゴブリン・ロード“統率者”ディルコロナは健在です。
HPバーを大きく減らし紫色になっていたHPバーもすっかり元の黄色に戻っています。
最優先で解毒されたようですね。
セルフィの乗るドラゴンゾンビからブレスが放たれます。
やはり猛毒。
そしてドラゴンゾンビ(猛毒の爪)が残っていた敵戦力のほとんどを薙ぎ払って消滅させました。
よし、ひとまずボスを残して全滅させましたが……。
増援、無いわけないですよね?
ドラゴンゾンビ(猛毒の爪)をパーティから外して、ヨサクをパーティに加入させます。
うわあ、ボロボロですよ。
最前線で魔法を浴びましたからねえ……。
「リペア・アンデッド、アウェイク・パワー、アウェイク・パワー、……」
HPを回復させて、防具にもアウェイクパワーをかけていきます。
魔法への耐性を持つ防具もあるので、これでなんとか魔法をしのいでもらいたいところ。
前線ではロードをセルフィたちが押しとどめています。
セルフィがドラゴンの爪と槍で攻撃を加え、それを躱すか盾で受け流すかするロードに、マルキドが包帯を伸ばして絡め取り、フジキがシャドウバインドで更に固めて、サリッサとシャムシールが決死の攻撃を加えています。
うわあ、意外とやりますねえコイツら。
MPポーションをあおりながら、二軍メンバーの戦いぶりを眺めます。
あ、でもやっぱり拘束はあっさり解かれてしまい、魔法剣での反撃を受けています。
ちょっと二軍のスキルを確認しましょうか……あ、フジキの闇魔法が第六段階までありましたっけね。
「フジキ、少し後退してスティールマインドでMPを吸い尽くせ!」
さて、ヨサクの強化も佳境に入りましたよ?
「インストラクト・スキル! よし、ヨサク。行ってロードを倒してきなさい!」
ザっとマントを翻し、歩み始めるヨサク。
頼もしい背中です。
接近しなければ攻撃できないシャムシールがちょっと危ないですね。
HPが半分を切ったところで、パーティから外します。
次に呼ぶのは……ササキでしょう。
私の護衛は必要なさそうなので、前線でヨサクを守れる防御力の高い戦力が必要です。
ムラマサの投入はその後ですね。
「リペア・アンデッド、アウェイク・パワー、アウェイク・パワー、インストラクト・スキル、インストラクト・スキル……よし。ササキ、前線でヨサクを支援しつつロードを倒してきなさい」
ガチャリと重そうな鎧を鳴らしながら、ササキは戦場に向かいます。
地上に降りてしまったセルフィは危うげ無く戦っています。
フジキは延々とMPを吸収し続け、こちらも安全。
問題は拘束しては破られて反撃を受けたりしているマルキドと、遠くからチマチマとパイクでつつくサリッサですかね。
実戦経験の少ないサリッサをこの場で酷使するのは無しでしょう。
パーティから外して、ムラマサを加入させます。
ぬおお、MPがヤバイです。
さっきからソウルブリンガーの専用魔法を連打しているせいですね。
MPポーションを飲んで、
「アウェイク・パワー、アウェイク・パワー、インストラクト・スキル……よし」
支援を掛けます。
「ムラマサ、前線で……おっとそれより増援に対応してください。杖を持っている奴は最優先で!」
背後からナイト三体、ソーサラー、ヒーラー、アーチャーが一体ずつの計六体が現れました。
なんと挟撃です。
さしものムラマサも六体相手は分が悪いでしょう。
ロードの方を見ると、ヨサクとササキの活躍で戦線をかなり有利に進められているように見えます。
一応、拘束で時間を稼いでいるマルキドはそのままにしたくもあるのですが、HPが減っているので、パーティから外し、レッサードラゴン(氷の吐息)を加入させます。
「ムラマサ、ドラゴンブレスを撃ちますので、注意! ってー!!」
ビュゴオオオオオ!!
吹雪のような氷の吐息が新手の六体を襲います。
少し距離がある分、効果が最大限とはいきませんが、十分にHPを減らしてくれました。
「よし、ムラマサしばらくは頼みますよ!」
ブレスを撃ち終わったドラゴンをパーティから外して、ロビンを加入させます。
「リペア・アンデッド、アウェイク・パワー、アウェイクパワー、インストラクト・スキル……、ロビンは前後、不利そうな方にアーバレストを撃つようにしてください。今は増援の杖持ち……はもうムラマサが斬りましたか」
早いですねー。
ナイトもアーチャーも眼中になし。
一応、ナイトは魔法剣もあるというのに。
おっとMPが厳しいのでMPポーション、と。
うう、お腹がタプタプになりそうですよ!?
さあてかなり戦局は有利になりましたが、何もしていないミスリムをそのままにしておくのは良くないですね。
ロードからの視線を遮ってくれているとは言え、こちらに魔法を撃つ余裕などあろうはずもないのです。
むしろ撃ってくれれば、弱点であるスペクター組が助かるくらいですからね。
というわけでミスリムを外して次はマドカですよ。
フジキと一緒にスティールマインドでMPを削りきってもらいましょう。
そうすれば魔法も魔法剣もなくなって、勝利は目前です!