全校集会
始業式が済み、通常の授業が始まる。
各クラスは、ホームルームの時間を使い、席替え、班分け、クラス委員などの役員を決めたり、その他係などを決めたり、やる事が多い。
中学校からは、小学校と違い、授業以外にクラブ活動が増える。
今日は、午後から全校集会があり、そこでクラブ活動の説明と勧誘をする。
体育館に全校生徒が集まり、舞台の所で軟式野球部、軟式テニス部、バレーボール部、音楽部と、説明が進んでいく。軟式野球部は男子生徒のみの募集で、バレーボール部は女子生徒のみの募集だった。
全校生徒が少ない学校は、クラブ活動の種類も少なく、特に運動部以外のクラブ活動が、『音楽部』という吹奏楽をするクラブ活動しか無い。ただ、楽器を演奏するのは、結構体力がいるので、他の運動部と変わらないと音楽部の部長は説明していた。
基本、全校生徒は、クラブ活動をしなくてはいけない。ただし、高校受験する3年生と、事情がありクラブ活動出来ない生徒は、授業終了後帰宅か塾か、それぞれだ。
一条は、一通りクラブ活動の説明が済んだあと、舞台の方に向かう。舞台の中央まで行き、全校生徒の前でマイクを使い、喋り出す。
「皆さん、こんにちは。理科担当の一条です。なぜ、私がここで話をするのか疑問だと思いますが・・・」
一条の話を聞いている生徒たちが、少しザワつきはじめた。
「実は、新しいクラブ活動の担当顧問になりました。ただ、入部出来る条件が難しく、その条件を満たしている生徒は、全校生徒中に3人だけでした」
一条の話を聞いている生徒たちが、さらにザワザワしている。
「これから、その3人の名前を呼びますので、呼ばれた3人は、放課後、理科準備室に来るようにお願いします。入部するか、しないかは、クラブ活動の説明を終えたあと、ゆっくり決めてもらいます。それでは、発表します」
一条の話を聞いている生徒たちは、話を聞こうとザワつくのを止めた。
「2年A組の楠目美智子さん、1年A組の堀田晴子さん、1年B組の依岡妙さん、以上の3名は、放課後、理科準備室に来て下さい。」
一条の話を聞き終えた生徒たちは、また一斉にザワザワしている。3ヶ所、生徒たちから注目を集めている場所は、先ほど名前を呼ばれた生徒だ。その生徒に声をかけたり、その生徒を見て確認してから、隣の生徒と話をしたり、ザワザワが増している。
一条は、話を終えると、体育教師兼軟式野球部顧問の中平先生にマイクを渡し、舞台を降りて先生たちがいる並びに立った。
「皆さん静かに!」
中平先生は、強い口調で言い、生徒たちを静かにさせる。顔が厳つい、身体が筋肉質で大きい中平先生は、学校で必ず1人は居るであろう厳しい先生だ。
「この後は、各自クラスのホームルームの後、1年生は希望するクラブ活動の見学をして、良く考えてから、入部届けを出すように。2年生3年生は、強引に勧誘しないように。では、解散」
ぞろぞろと、体育館から生徒たちが出ていく。生徒たちは各教室に戻り、ホームルームが始まる。
そして放課後・・・。
一条は、理科準備室の前の廊下で不安げに立っている生徒3人を見回して、準備室の鍵を開け、理科室のドアを開けて3人を招き入れる。理科準備室は狭いので、圧迫感があり、緊張もさらに増えるだろうと思ったからだ。
3人を教壇の前の机に座らせて、一条は教壇の机を挟んで立っている。いつの間にか一条が飼っている猫の『ノイ』が机の上で座っている。
「ようこそ『魔法研究部』へ!」
「に゛!」
生徒3人は目を点にして、固まったままでいる。続けざまに一条が言う。
「この部活動は、魔法のような科学を解明する部活動となってます。ようするに科学部ということですね」
生徒3人は、少し安心した顔になった。あまりに変な部活動の名前だったので怖かったのだ。ただ、なんで今ここにいる3人しか、この部活動に入れないのかが、気になっていた。
「先生、何で私たちしか入部出来ないんですか?科学部だったら、もっとふさわしい人とか、入部したい人もいるのでは?」
一条が担当しているクラスの依岡さんが質問して来た。彼女は学年では成績も良いし、頭の回転も良い、クラスの副委員長だ。
「良い質問ですね。科学部というのは、表向きの名前に過ぎません。このクラブ活動の目的は、魔法を習ってもらう事、そして将来的に、皆さんが魔法使いになってもらう事なのです」
「「「えーーーーっ!!!」」」
一条とノイは、あまりの声に、指を立て唇に当てて、静かにしてもらうように仕草をする。生徒たちは、あわてて両手を口に持って行き塞ぐと、お互いを見合わせた。3人が同じ事をしているのが可笑しくもあり、可愛かったのだが、笑っている生徒はいない。
静かになったのを確認すると、一条が話し出す。
「今ココで話した事は他言無用、だれにも話さないでもらえると有難いです。私は、『世界魔法局連盟日本支部』の職員で、魔法使いの人口減少を止めるべく、この中学校に派遣されたのです。ようするに、あなた達をスカウトするために来たのです」
一条は、生徒3人を見ると、まだ口を抑えていた。
「あなた達の、これからの人生も左右するような事なので、魔法使いに無理矢理させる事はしません。このクラブ活動を通じて、見習いとして魔法使いの技術を習得して、卒業する前の進路選択までに決めてもらいます。そこで、普通なら高校受験するか、専門学校にするか、就職するか、他にも選択肢はあるかもしれませんが、それに加えて、魔法科高校に進学するか、先輩魔法使いの弟子になるかの選択肢が増えます」
一条は、生徒3人を見ると、全員キョトン顔をしていたので、今言った事を理解出来ているのか不安になった。
「ま、まぁ、早い話、このクラブ活動は魔法を使えるように勉強する部活動という事ですね。まずは、お手本を」
一条は、胸から指し棒を出し、振り上げると、魔法を発動する。先から虹色の光が吹き出し、星のように部屋全体に広がると、光が動物や植物、妖精やユニコーンなどの架空のもの、色々な形に変わり、動き出す。
「うわぁ」
「きれい・・」
「かわいい!」
生徒3人の感想はそれぞれだが、気に入ってもらえたようだ。
「この光は、魔法の素から作った魔力で出来ています。全校生徒の中で、あなた達しか見えません。魔力が見られる事は、魔法使いの素質がある事なのです」
一条は、指し棒を振り、虹色の光を様々に変化させ、生徒3人をしばらく楽しませたら、指し棒を仕舞い、魔法を止め、注目させる。
「皆さんの親御さんと、このクラブ活動等について話しをしたいので、家庭訪問をします。親御さんの了承と、あなた達の意思で入部を決めてください」
「あのっ!自分の判断だけじゃ入れないんですか?」
堀田さんは、真剣な顔をして一条を見つめている。鬼気迫る感じだ。
「大事なことなので、親御さんと話がしたいですね。それに家庭の事情とか、ある程度知りたいですし。ああ、プライベートな事じゃなくて、魔法使い的な事ですが」
「・・・わかりました」
堀田さんは、少しうなだれている。入部の意志は強いみたいだが、何か思う事があるのだろう。
「では、家庭訪問のスケジュールを決めたいので、親御さんに訪問して良い日を聞いておいて下さい。楠目さんは音楽部でしたね。担当の先生には遅れる事を言ってあるので、戻ってクラブ活動を続けて下さい。1年生の2人は、帰宅して良いですよ。では、解散しましょう」
一条は指し棒を取り出し、出入口の方に向けると、自動ドアのように開いた。生徒の3人は、少しびっくりしたものの席を立ち、教室を出て行く。
楠目さんは、クラブ活動があることをすっかり忘れてしまっていたので、あわてて走って行った。依岡さんは、スキップをしそうな感じの歩行でスタスタと歩いて行った。
堀田さんの足取りは、少し重たいように見える。出ていくのが最後だったからだ。廊下に出た堀田さんを一条が呼び止めた。
「あなたに渡すものがあったのを忘れてました。はい、お守りです。出来たら、いつも持っててもらいたいですのですが」
「なぜ私に?」
「ああ、それはノイ先生が・・」
「に゛」
「と、とりあえず、怪しい物じゃないので、持っててもらえると助かります」
怪訝そうな顔をしてカード状のお守りを受け取る堀田さん、裏表じっくり見ているが、スカートのポケットに入れていた。
「では、堀田さんまた明日」
「先生、さようなら・」
少々はてなマークがちらついて見える堀田さんの帰っていく背中を見て、一安心する一条。
「第一関門突破って感じですか?ノイ先生」
「に゛」
「すいません。喋りそうになっちゃいまして。以後気を付けます」
「に゛」
「だから、もうごめんなさい」
「に゛」
「わかりましたって!」
「に゛!」
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一条は、ノイ先生に文句を言われながら、理科室の戸締りをするのであった。