最強のキモオタの俺の未来は凄いことになっている。《2》
俺は夢を見た。規則的に鳴り響く ポンポン という音。砂利が擦れ合う足音。誰かが啜り泣く声。俺は目を開けると、ある空間に寝かされていた。俺の身長ピッタリくらいの大きさの空間。俺の真上には四角い大きめの穴がありそこから光が差し込まれた。俺は手を伸ばし、その四角い穴に触れると、手に光が集まり手は光に引き寄せられ俺は吸い込まれていった。
吸い込まれた先には、沢山の人が座っていた。よく見ると、見た事がある人。みんな黒い服で下ばかり向いていた。嫌な予感がした。恐る恐る横を見ると、一番いて欲しくないお坊さんお経を唱えていた。俺の予感は当たってしまった。後ろを見ると、沢山の花が飾ってあり俺の中学校の入学式の写真が飾られていた。もう三年前の写真だが、俺は中学に入ってから写真を撮っていないからこれしかなかったのだろう。ああ、もっとちゃんと学校にいていればよかった。家族と写真を撮ればよかった。写真に対して後悔しながらも、まずは死に対して後悔した。なんであの時、見ず知らずの犬を助けたんだろう。そんな事したから。ああ、これでは新刊読めない。最終回もわからないし、嫁にももう二度と会えない。俺は、頭を抱えた。その時、ふと目の前にいる男を見つけた。男は下を向いた黒い集団よりも少し遠くのところで立って俺を見ていた。男は普通のチェック柄のシャツにGパン姿と、この場に似合わない格好だった。そして、びしょ濡れであった。男は俺と目があった途端、ニッコリと笑った。嬉しそうに顔をグシャッとさせる笑顔だった。そして、ズカズカと俺に近づいてきた。男の存在は俺以外誰も気づかない。男も俺以外見えていないようだった。俺は逃げようと思ったが動けず、男との距離はどんどん近づいていった。男は突然止まって俺を見て言った。
「やっと、会えた。」 男はまたニッコリと笑った。
俺は、怯えながら男を見た。怖かった。不気味だった。こいつは何なんだ。そう思った時、突然男の胸の部分が黒い影で覆われた。そして渦を巻いてどんどん大きくなっていった。ブラックホールのように全てを吸い込もうとしていた。
「やっと、俺に会えた。俺を見つけた。」 男は俺を見て言った。
俺?俺を見つけたって。混乱した。男の言っている事がわからなかった。
混乱している間に、男はどんどん近づいてきて俺の胸に触れた。
すると、俺の鼓動はドクドクと鳴り響き、大きくなっていった。そして、何かが沸騰したかのように黒いものが溢れてきた。男はニッコリと笑ってその溢れ出た黒いものを掴んで飲み込んだ。その絵は何故かとても美しく見えた。どんどん飲み込んでいき、俺の中から黒いものがなくなった途端、突然男の胸の黒い影が巨大化した。巨大な渦のせいで男の姿は見えなくなり俺の目の前には黒い影しか見えなくなった。その黒い影はどんどん大きくなり俺を吸い込んだ。そこは真っ暗で何も見えなくなった。怖かったが不安はなかった。俺はそっと目を閉じた。
目を開けると、俺はベットに寝ていた。見たことのない布団。見たことのない机。見たことのない間取り。見たことのない場所だった。
そう言えば、俺って生きてていいの? 俺はふと思った。あの時俺は死んだはず。なんで目が覚めるんだ?
その時、あることが脳裏によぎった。
もしかして、これは来世なのか? 生まれ変わりなのか?
しかし、来世に昔の記憶があるのだろうか。そして、夢の中に出てきたあの男は一体。それよりも、あれは夢なのか?
疑問を処理しようと仮定すればするほど疑問が生まれる。どれか一つでも、明確な答えを見つけなければ。俺はそう思い、とりあえず自分のいる世界を確認しようとカーテンを開けて窓の外を見た。一体どんな世界なのだろうか。もしも、二次元やゲームの世界にトリップしてるなら、なんとうい幸運か。少し期待しながら外を見たが、パッと見て二次元やゲームの世界とは判断できなかった。聳え立つビル。気持ちよさそうに走る車。遠くにある緑の多い公園。至って普通の風景。少しビルが高い程度。
「学園モノか?」 そう呟きながら、俺はカーテンを閉めて自分の姿を確認した。イケメンになっているのか。かけ算で右にくる感じなのか左にくる感じなのか。
洗面所を見つけるために歩き回った。少し背が高くなっていて、痩せた気がする。手も骨ばった男の手をしていた。どうやらここはマンションのようだ。キョロキョロと見渡して無事に洗面所らしき部屋を見つけて入ると、目の前には大きな鏡があり俺の姿が映し出された。
俺は驚愕した。予想と違っていたというか、考えつかない姿になっていた。
「これって、俺?」
鏡には、驚いて顔の引きつっている少し大人の顔になった俺がいた。
嘘だろ。俺は信じられなかった。生まれ変わりというのは未来トリップとは違うはず。タイムリープしたのか?
俺は、洗面台に手をつき鏡に見入った。鏡の映し出すことは間違いない。
その時、ピーンポーンとチャイムが鳴った。
人が来た。俺は、急いで玄関に向かった。一体これはどうなっているのか。誰かに聞きたい。
もう、俺は二次元やゲームの世界という理想の来世は諦めていた。
もしかしたら、来世って二次元よりも、ゲームよりも、凄いかもしれない。そう思った。