最強のキモオタの俺の未来は凄いことになっている。 《1》
第一話
死んだらどうなると考えますか?
日本では昔から、死んだ人は生まれ変わって来世で幸せに暮らす、とよく言う。
生まれ変わって会いにきてね!とか、今の子はきっとあの人の生まれ変わりだ、助けに来てくれたんだ!とか。
本当に、生まれ変わって来世でまた生きれるのだろうか。
それだったら、俺は生まれ変わったら何になれるのだろう?
二次元にトリップできるだろうか?ゲームの中でも良い。ギャルゲー?育成ゲーム?いや、やっぱハーレムものも良い。もしくは、あえて一般のゲームとか。あ、でも、乙女ゲーでも良いかも!それだ!
俺、多田尾拓也 十五歳 は、今悩んでいる。来世について、真剣に悩んでいる。
六畳の部屋にベットとソファー。机には小柄なノートパソコンと沢山の可愛らしい女の子のフィギュア。そして大量の段ボールとその中の大量の漫画。見てわかるように、僕はオタクだ。多分かなり重度の、そして世で言われるキモオタなんだろう。ゲーマーと二次オタと腐男子を兼ね備えた最強のオタク。そして、不登校。外出は漫画を買ったりゲーセン行ったりするのでライト引きこもり程度だが引きこもりも兼ね備えてる。腐男子といったが、もちろん女の子も好き。巨乳も好きだがショタのちっぱいも譲れない。ビキニが良いけど、ゴスロリの格好でも良い。ああ、顔がニヤける。ちなみに男子キャラも含め俺は嫁が十三人。旦那は二人。
そこで、問題だ。来世僕はどの世界に行こう?漫画か?でも、ジャンルはどうする?ラノベの方が女の子はいっぱいいる。でも、少年漫画のBLも欲しいし。そう、スポ根もの。女子はマネージャーで補うか?いや、格闘系の、冒険物でも良い!今時の冒険漫画って言ったら、海が舞台のアレだし、男子も女子もナイスバディ!これだ。
俺はニヤリと微笑んで、段ボールからその漫画の最新刊を漁った。
「あにさん。ただいまっすぅ」 ドアの向こうから妹 琴羽 の声がした。
入るっすぅと言って琴羽は俺の部屋に入ってきた。
「あれ?琴羽学校は?」 俺は琴羽に聞いた。琴羽は俺の二歳年下で中一。俺と同じ中学に通っている。妹と仲良いか、と聞かれるとそうでもないけど琴羽はオタクの俺を嫌ってないみたいだし、俺が言うのもなんだがコイツもかなりの変人だ。テンション低いのに語尾に、「っすぅ」 と付けるし、俺の事を「あにさん」 と呼ぶし。母の事も同じように「ははさん」と呼ぶ。どういう心理なのかわからないがとにかくこれが琴羽だ。
「あにさん、漫画読みたいっすぅ。」 琴羽はそう言ってソファーに寝っ転がった。
妹もよく漫画を読む。俺の好みのハーレム漫画も普通に読むヤツだ。
「あにさん、漫画描いてよ。早く読みたいっすぅ。」 琴羽はソファーでくつろぎながら俺に言った。漫画と言うのは、俺が描いてるオリジナルの漫画。どこかに投稿しているわけではなくあくまで趣味だが、結構本格的にやっている。琴羽は、それを結構気に入ってくれているようで出来上がるのを待ちわびてくれていた。
「まだ、トーン貼ってないわ。」 俺は琴羽に言った。
琴羽は、何それ、と脚をバタつかせて言った。
「あ、今日一番くじやってたっすぅ」 琴羽は俺に言った。
「え?何やってたの?」
「さぁ?女の子のヤツ。アイドル系みたいだったっすぅ」
アイドル系!それは行かなくては!俺は琴羽に場所を聞いて外に出る準備をした。
そして、財布の残高を確認し、四回はいけると確信してすぐに家を出た。
「いってらっしゃいっすぅ」 琴羽は、ソファーに座ったまま俺を見送った。
いつもの事だった。いつもの事のはずだった。
俺は、自転車に飛び乗って坂を駆け下りた。場所は隣町のコンビニ。俺は胸を膨らませて自転車を漕いだ。
少し走って、俺は体力がないので息を切らしてゆっくり走った。やっと踏切に辿り着き、俺は止まって待っている間休んだ。一気に駆け下りてきたから、しんどくなってきた。俺はハァハァと息を切らした。周りには小学生や中学生、幼稚園児を連れた母親達がいた。はじめは、坂から突っ込んできた俺を迷惑そうに見ていたが、今はもう自分たちの話に夢中。俺はため息をついて顔を上げると、向こう側には買い物を終えたおばさん達や犬を散歩させながらジョギングをしている女性もいた。なんとまあ、現実の女子はこんなにも萌えないのか。僕はまたため息をついた。その時、突然、女性の叫び声が聞こえた。
「サクラ!だめ!こっちおいで!」 ジョギングをしていた女性が、叫んでいた。
連れていた犬が線路に出てしまったようだ。
カンカンと踏切の音が鳴る。遠くからゴトゴトという電車の音も聞こえてきた。
女性の叫び声も、どんどん聞こえづらくなっていく。このままだと、この犬は死ぬ。
その時、なぜかムラムラした。嫁が窮地に陥っている時のようにムラムラしてきた。でも、嫁の場合は二次元と三次元という大きな壁があるけど。今は、三次元。僕は大きな音に怯える犬を見て思った。これは、三次元。そして相手は犬。でも、なんらかの魔法で王女様が犬に変えられてるとか。もしかしたら、助けた恩で知らない世界に連れて行ってくれるとか。
僕は、自転車を投げ捨てた。そして、犬の元に走り出した。
俺が走る理由なんてないけど、なぜか「サクラ」と言う名前に反応した。正直、俺はカタカナの名前の方が好きなのに。キラキラネームが良いのに。そんな風に思いながら、僕は犬を抱きかかえて、走った。間に合え!
しかし、俺は横目から見てしまった。運転手の慌ててブレーキをかける様子を。これは間に合わない。
大きな音が鳴り響いた。急ブレーキがかかるキィッッッッッという音と、グシャという鈍い音。
俺は、グシャという鈍い音を聞くと同時に意識を手放した。