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私は神を信じていない(2)

 私は筑前前原という田舎立ちたる、田舎立ちすぎてもはや半ば寂れている所にある高校の二年生である。そこは私の地元今宿から二駅の場所に位置しており、周囲の殆どを田畑で囲まれ、気休めとばかりに幾つかの服屋やショッピングセンターが点在している。

 田舎であるがために地域内の繋がりは強い。それは高校の入学式でも例外ではなかった。そのため新入生であれど、地元民の間には三国志もかくやというほどの絆の糸が結ばれていた。クラス発表の際には、やれ誰と一緒で嬉しいだ、やれ思い人と一緒で緊張するだの一喜一憂をしていた。

 私はというと、その繋がりの強さに委縮してしまいクラスで肩身の狭い思いをしていた。右を向けば女どもが黄色い声で甲高くかつ姦しく喚き散らし、左を向けば男たちが騒がしく桃色の談笑を繰り広げている。かといって前を向くと意識の高そうな生徒が案の定意識の高い話をしている。

 私の輝かしい高校生活計画も水泡に帰すのかと半ば諦めていたころ、突如として眼前に蜘蛛の糸が垂らされた。クラス一のイケメンに声をかけられたのだ。

もちろん、地獄に仏とはまさにことと、私はそれにしがみついた。藁にもすがる思いだった。

 もうお気付きだろう。そう、この仏のような人間が赤坂である。

 「どうしたんだ、退屈そうだな。俺と少し話をしないか。」

 「失せろ。」

 クラスからの疎外感に辟易し少しばかりやさぐれてしまっていた私は、少々しがみつき方を間違えてしまった。

 言ってすぐ自分の過ちとそれの取り返しのつかなさに気づいた私は、どのようにして前言を撤回し、なおかつこのイケメンとお近づきになろうかと考えた。しかしながら思いつく言葉は名誉を返上し汚名を挽回するようなものばかりであった。

 「あははは」 

 赤坂は先ほど聞いた地声から一オクターブほど高い声でかぷかぷと笑った。まるで虫籠の中の昆虫を眺めて笑うクソガキのようであり、その整った顔も相まってか幾ばくか不気味であった。

 「お前は面白い。愉快で阿呆だ。」

 私は面白いので、否定しない。

「阿保じゃない、無垢なのだ。」

 「何が無垢だ。この無口野郎。」

 上手いと思ったのは秘密である。

 「この赤子のような目が見えないのか。それによく言うだろう、雄弁は銀沈黙は金と。この雄弁銀やろう。」

 そう言って、ずいっと顔を寄せた。

 「どこが赤子だ。手を捻ってやろうか。それにお前は知らないのか、銀は金属の中で一番電気抵抗が少ないんだぜ。このコミュニケーション抵抗人間が。」

鐘を突いたような衝撃だった。

 コミュニケーション抵抗人間。その言葉が頭の中で何度も繰り返された。そのネーミングの的確さに何も言えなくなり、思わず口からぐうと異様な音が出た。

 「ふむふむ、阿保はこうやって鳴くのかあ。勉強になったなあ。ぐうの音で鳴いている。」

 赤坂はそう言って私に追い打ちをかけた後、己の席に返っていった。

 私は放心してしばし明後日の方向を眺めた後、我に返って赤坂を睨んだ。

 そしてせめてもの反撃として「ぐう」と小さく鳴いた。

 


 この会話をしてからというもの赤坂はほぼ毎日私の机までやってきて前述のような暴言を吐き散らした。

 

 あまりにも回数が多く、内容も濃かったため、私たちは思わず友達となってしまった。

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