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私は神を信じていない

完全にオリジナルな話は初めてです。よろしくお願いします。

 私は神を信じてはいない。

 それは純然たる事実であり、恐らく不変でもある。

 私が何故神を信じないのか、それは私の歩んできた人生に起因する。

 1998年の八月。所は俗に言う修羅の国。三人姉妹の長男として産まれた。 長男という名を冠すれど、それは名ばかりである。姉妹と言ったことから分かると思うが、私以外の二人はともに女だ。妹が一人、姉が一人、私が一人。このようにして我が家の三姉妹は構成されている。ここまでで言えば分かるだろう。そうである。無いのである。何がって?人権が。

 姉にはこき使われ、妹には良いように搾取されたうえに、両親からは「三人唯一の男。しっかりしなければならない。」という大義名分の元、日々放任という名の軽度のネグレクトを受けていた。

 産まれながらにしてサンドイッチ症候群になる宿命を背負っており、実際にそれに振り回されている私は神に愛されてはいない。いや、神などいない。という思考に行き着くのも、至極当然のことだろう。

 


 所でだ、一つ君たちに問題を出したいと思う。

 問:私は今どこにいるでしょう。ヒント、先ほど冒頭で言ったことと矛盾します。

 答:神社

 正解した人には讃辞を、不正解の人には同調を贈ろう。誰が解るかこんなもん。ヒントがなかったら絶対に誰にも解らないだろう。安楽椅子探偵が安楽死するほどの難題だ。

 今現在、私は神社に来ている。正確に言うと、修羅の国は今宿の上ノ原にある八雲神社に来ている。来ていると言っても、何も自らの信条を捨ててこの場にやって来たわけではない。お調子者の友人に連れられて嫌々渋々ここにやって来たのだ。

 「おうい、どうしたんだぼうっとして。モテないをこじらせたか。」

 こやつがそのお調子者の友人である。今の一言で本人の性格を十分に表してくれた。聞いての通り、彼はお調子者であると同時に毒舌である。しかも私に対してだけ。口を開けば罵詈雑言。息を吸っても罵詈雑言。息を吐いても罵詈雑言。彼は息を吐く際、二酸化炭素の濃度を上げる代わりに罵詈雑言ををその空気に混ぜ込むのだ。

 「すまん、少しばかり考え事をしていた。」

 彼の罵詈雑言は受け流すに限る。そうでなければ、私の上を木が覆って日差しを遮ってくれるとはいえ、この猛暑である、私は鬱になってしまうだろう。

 「しっかりしてくれ。誰のために来たと思っているんだ。」

 彼は顎の下をひたう汗を親指の腹で拭っていった。

 「別に要らないと言っているだろう。」

 「要るに決まっているだろう。お前のモテないはもはや呪いだぞ。」

 何という物言いだろう。

 私は、というより私達は、ここに恋愛成就祈願をしにきた。まあ、彼には恋愛成就の必要がないので、やはり私は、というのが正しいのだろうが。

 彼、と言うのも面倒くさくなってきたので名前を紹介しよう。彼の名前は赤坂明人。私の一番の友人である。容姿端麗、文武両道とふざけたような男で、誑かすこと風の如し、手を出すこと林の如し、弄ぶこと火の如し、モテること山の如しと、とても邪な桃色風林火山を修めし者だ。私は何を言っているんだ。気でも狂ったのか。

 まあ要するに、彼———赤坂明人———は完璧イケメンだということが君たちに伝えたい。

 そんなイケメン、赤坂が、恋路に悩む私を見かね、その美貌とそれに向けられる羨望で独自に形成した情報網を用いて———何を言っているか分からないと思うが、安心してくれ私にも分からない———発見したのがこの場所、八雲神社である。どうやら地元の人間しか知らないような、穴場の神社であるらしい。偶にしか人が来ない分、稀に訪れた参拝客へのご利益は眼を見張るものがあると言う。

 「自覚はある。」

 「自覚があるなら改善しろ。」

 「改善の仕方が分からん。」

 「俺も知らん。」

 「おい。」

 「だから神に頼む。」

 彼のその無責任な物言いに私は少しばかり顔をしかめつつも、なんとなく納得してしまう。自分にどうしようも無いことは、それを解決できる他人に頼るのが正攻法である。まあ、そのどうしようもないことが私のモテないであり、解決できるのが神だということが至極不満なのだが。

 しかしここで一つ問題が生じる。それは、赤坂が聞いたそのご利益云々は往々にし嘘であるということだ。ここには恋愛成就のご利益なんてないし、もちろんここでご参拝しても私の恋は実らない。もしここで恋愛成就のお祈りをしようものなら、あいや無礼と神による怒りの鉄槌が下されることになるだろう。

 なぜ知っているのか疑問に持つだろうが、それは簡単なこと、ここは私の地元なのだ。なので当然、この場所も知っていた。何なら彼に情報を提供した娘も私の知り合いだ。

 赤坂は文武両道であるが少しばかり抜けている。その抜け加減たるやドーナツの追随も許さない程である。しかしながらこやつの抜け具合はまさにドーナツのように完成されたものであり、それ故に女子供から人気を博し、男老人からはその甘ったるさから敬遠されている。

しかし穴の数なら私も負けてはいない。数において言えばドーナツなど三馬身、四馬身と差をつけ、何ならかのスポンジ公でさえも、その穴の代名詞の座を譲るまいと躍起になる。もちろんその質は言うまでもない。私のことはスポンジと呼んでくれ。

嘘だやめてくれ。

 以前、こいつのこの抜け具合をこれでもかと言うほどバカにしたことがある。

「やーい!抜け抜け野郎!まさにドーナツドーナツ!」

 我ながら素晴らしい罵声だ。

しかし

「なんだドーナツか。今から食べに行くか?」

こいつには通用しなかった。

どうしてか?

答えは簡単、こいつが抜けているからである。

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