猫の居るはなし
いつも、ページを送る音だけが聞こえていた。
僕は丸椅子の上に寝そべりながら、眼を閉じてそっと、息をしていた。彼女はたまに手を止めて、息を詰めて、本の内容に没頭する。彼女の気配がすっと消えて、ため息とともにまた現れて、それはまるで別の世界へ消えてしまった彼女が、また戻ってきてくれたような。彼女はその後、決まって僕の頭をなでてくれる。僕のいるこの世界を確かめるように。僕はたまらなくうれしくなって、そっとその手に押し返す。僕はここにいるよと、伝わるように。彼女は、僕が言葉をわからないことを知っていた。だから、代わりに歌うように語り掛けてくれた。何を言っているのかはわからなかったけれど、僕はその響きだけでなんだか、やさしくなれる気がした。
今になって、ようやく思うことができる。言葉を知った僕だから。僕はそれがとてもうれしい。