#6 可哀想なお姫様
「途中まで、馬車で行って……それから、歩く」
「分かりました。じゃあ、お忍びですから二頭立ての小さめの馬車にしましょう」
レオンの手配だろう、今聞いたのに、馬車の用意はすでに整っていて、裏門をくぐったところに待機していた。
騎士として便りになるかは置いといて、用意はいいのね。
「ところで、どこに行かれるのです?」
レオンに腕を引かれて馬車に乗り込むと、唐突にそう聞かれる。
そうよね、普段お城から出ようとしない私が出かけること事態不自然なのに、お忍びってなると余程不自然よね。
「……えっと」
まさか、浮気相手を探しに行きますとは、流石に家臣相手でも言えるわけがなく、返事に詰まってしまう。
「……どうしました、リズ?」
「……え…えっとぉ……」
「何か言えない事でも……?」
図星を指されて心臓が跳ねる。ううん、ここで黙ったら、もっと不自然だわ。
「べ、別に言えないわけじゃないの。えーと、お、お友だちが、欲しくって……?」
とっさについた、苦し紛れの嘘。でも、半分は本当。ただの友達かは別として、だけど。流石に苦しすぎたかしら。
今バレたら、もう終わりね。私のせいで王家の信用が地に落ちるわ。
ごめんなさい、お父様、お母様。リズは悪い娘です。……いや、よく考えたらそうでも無いわね。だって、悪いのはルキフェリウスだし、王家の信頼もそれで落ちるなら、もうとっくに地球の裏側か、地獄の奥底に落ちているはずだもの。
それでも、息を詰めてレオンの言葉を待っていると、溜め息と共に予想だにしないことを言われる。
「……リズ、ご苦労なさっているんですね」
「……は?」
「お友達が少ないとは聞いていましたが……。自ら城下に行かれるほど寂しかったとは」
「え? ……え!?」
悲哀を湛えた琥珀色の潤んだ瞳で、感極まったように同情の念を向けられて、おもわずぽかんとする。
なんとか、レオンは誤魔化せたみたい……だけど。
けど、私、友達がいないお姫様って認識されてたの!? そ、そんなに可哀想な子なのかしら、私。
いつも城から一歩も出ないし、サロンにも社交会にも出る必要性に迫られていないから、出席していない。
そりゃ、ただでさえこんな引きこもりだし、加えて公爵令嬢で時期国王の婚約者って身分も邪魔してるから、決して多くはない。
けど、一人や二人……。
い、いや、一人ぐらい……。
なんか、悲しくなってきたわ。