#3 少女の変身
まずは……やり方が分からないなら、真似から始めてみようかしら。ルキフェリウスと同じように、普通の貴族や平民の格好に身を包んで城下を歩いてみよう。
すぐにメイドに言いつけて支度を整える。
急なことだったから、ただの街娘には見えないけれど、まさか王室の者とは誰も思わないだろう。
満足げに姿見の前でふわりとドレスの裾を揺らす私をメイドは心配そうに見ている。
「今から出かけるわ」
「リズ様、護衛は付けていただきます」
「えーっ、お忍びだから、困るわ。その護衛も騎士に見えないのにして頂戴」
「かしこまりました。なるべく仰せのままに」
「ええ、よろしくね」
メイドが出ていったのを確認して、もう一度姿見に視線を移す。そういえば、この髪色と瞳の色は少々人目を引くかもしれない。
プラチナブロンドの髪も、アメジスト色の瞳も、珍しい。それを両方持っている人間は本当に一握りで私逹王族くらいだ。 ……確かに、これじゃあ目立つわね。目的を達成する前に見つかってはマズイし、その現場を押さえられて、王室の評判が落ちるのも困りものだ。
クローゼットから夕闇色のストールを出して、頭と首もとを覆うよう巻きつける。サラリとした絹の感触が心地いい。
「これでよし、と」
踵を返し、部屋を後にすると、その足で裏門へと向かう。
まだ始まってもいない未来に淡い期待を抱く足取りは、雲の上を歩く天使よりも軽く、その後ろ姿は、まるで悪戯を思いついた少女のようだった。