#2 仕返し
多分だけど、併合予定のその王国に浮気相手ができたんじゃないかしら。
彼……ルキフェリウスのことを思うと結婚前なのに頭が痛い。確かに、愛人のいなかった王なんていないに等しいだろう。でも、結婚前から……しかも、婚約者がすぐ傍にいるのに、こんなに節操がなくて大丈夫なのだろうか。
まぁ、しょうがないか。一抹の不安はあるが、こうなったのにも原因はある。私とルキフェリウスは従兄妹なのだ。しかも、年が10も離れていて、幼い頃から一緒に育ったから、婚約者って感じではないのだろう。それは私にも言えたことで、ましてや恋愛の相手としてなんて見れるはずがない。 本当は怒ったり、悲しんだりするところだろうけど、事情が事情だ。 私だって、ルキフェリウスのこと、好きじゃないし。でも、私という婚約者がありながら浮気なんて、許せないわ。相手がどんなに綺麗な娘かは知らないけど、女として負けたみたいで嫌な気分。
(ルキフェリウスが浮気するなら、私も浮気してやるわ……!)
鏡に写った自分を見る。緩くウェーブのかかった腰まで届くプラチナブロンドの長い髪、透き通るように白い肌。くっきりとした瞳はルキフェリウスよりも濃いアメジスト。さくらんぼ色の濡れた唇も、メリハリのある身体も、女性として十分に魅力的なはず。 相手さえ見つけたら、その気にさせるのなんて難しくないんじゃないかしら。……でも、誰を相手にしよう。ルキフェリウスが私の婚約者となってから約10年。
年頃になる前に次期国王であるルキフェリウスと婚約してしまったから、今まで言い寄られたことなど無いし、これからも無いだろう。それに、彼と結婚するからと知らず知らずの内に自分にかけていた枷のせいで気づけば初恋すらしていない。
こんなんじゃ、浮気どころか男性とまともに付き合えないんじゃないかしら。 早くも弱気になりかけている自分に喝を入れる。これから、彼を見返すために道徳を侵すんだから、こんな弱気じゃダメじゃない。ぺちりと頬を叩くと、乾いた音がした。その音とともに、決意が生まれ、代わりに心の中に燻っていた何かが嫌な焦げあとを残して消え去った。