#18 お伽噺を紡ぐくちびる
レオンが本当に空気です。リズの考え多め。
一週間後、約束通りに落ち合った私とジョンソンさんは小さなカフェで二人、お茶をしていた。もちろん、レオンも付き人として来ていたけれど、私たちに目が届く別の席で待機している。
初めてレオンに会ったあの日以来、城内で彼の姿を見かけることが多くなった。本当は、前から見かけていたのかもしれないけれど、全然意識していなかった。目が合うと、会釈したりたまに話したり、それだけだったけれどレオンと会うときには、退屈で大嫌いなお城に居るということが忘れられた。
「……スミスさん、スミスさん!」
「っえ!? あ、ごめんなさい!」
「いえ、何か考え事ですか?」
ふにゃっとジョンソンさんが微笑む。レオンがあまり近づかない方がいいって言っていたのが嘘のように悪い人には見えない。むしろ、大人の男性なのに子供らしい無邪気さがあるっていうか……。顔はレオンの方が子供みたいなのに、考えていることはだいぶ大人びている印象を受ける。
今朝のレオンの顔が頭に浮かぶ。お城で会ったときは、あの日の帰り際を忘れたようにいつも活き活きとして輝くような笑顔だった。でも、ジョンソンさんに会うことを伝えるとやっぱり浮かれない顔になって何かを考えているように口を噤んでしまうのだ。
だから、初めてあった日に買ったマロンタルトもスミレの塩漬けののったレモンタルトも、そんなはずはないのに、何だかほろ苦く感じてしまったし、二人で馬車に乗ってても全然楽しくなかったわ。
「ううん、ジョンソンさんといるとどうしてこんなに楽しいのかしらって考えていたの」
「それは……。嬉しい考え事ですね」
考え事の内容は出まかせだけど、ジョンソンさんの話は面白い。実業家の仕事のこと、普段の生活のこと、仕事で旅行に行っていろいろな国を見て回ったこと。
なんだか夢の話を聞いているようにふわふわとして不思議な気持ちになる。まるで、彼の口から紡がれるお伽噺を聞いているかのような気分になるの。