#17 夢見る瞳、真実を見る瞳
一週間後に逢う約束を取り付けるとジョンソンさんは満足げな顔で去っていった。
「リズ」
段々とその背中が小さくなって人混みに消えて見えなくなると、レオンに声をかけられた。
「なぁに?」
「またお会いになるのですか?」
「えっ……」
レオンの顔に不安の色を見つけて、なぜだか胸が曇る。
「そうよ。一週間後に」
「そうですか。お話が……合われるのですね」
「ああ……。えーと、まあそうね。」
話が合う、本当にそうなのかしら。確かにジョンソンさんと話が途切れることはなかった。
けれど、あれはジョンソンさんが話し上手なだけで、話が合っていたのかは分からない。
「それは、よかった」
「え……?」
「だって、お友達を探しに来ていたのですから。話が合う方が見つかってよかったです」
「……っ」
にこりとレオンに微笑みかけられて胸がチクリと痛む。刺繍をしていて指を刺したときのように、じんわりと鈍い痛みが広がる。
レオンは、純粋な目で私を見つめている。
話していると、言葉が詰まってしまう。目を合わせられなくなってしまう。
だって、私が薄汚れた心の人間だと分かってしまうようだから。レオンの太陽のように暖かい微笑みは、私には熱すぎて胸をチリチリと焼け焦がす。
「そう、いい友達になれそうなの。また、逢うわ」
友達として、とではない。浮気相手にするために逢うのだ。
レオンに言いながら、何故か目頭が熱くなる。
なんでこんな気持ちになるのかしら。悪いことをしようとしているから?
レオンが私の思惑を見透かしているのではないかと、心のどこかに不安が影を造って消えてくれない。
何か話したい。沈黙が怖い。
それなのに、言い訳ばかりしてしまいそうになって口をつぐんでしまう。
「勝手な意見なのですが……」
「何?」
余計な事を言わないように気をつけて話す。
レオンに悟られないように、細心の注意を払う。
「ジョンソン様には、あまり頻繁にお会いにならないほうがいいかと」
「……っ!? な、んで?」
胸に棘が刺さったように錯覚する。
どうして、逢わないほうがいいのだろうか。これが、私が復讐するために打った最初の駒だということがもう気づかれてしまったのだろうか。
「なんだか、あまり良い印象は受けませんでした」
ジョンソンさんの顔が、瞼の裏によみがえる。
饒舌に語る口、キラキラと輝く瞳、ちょっぴり強引な手、……『運命』と口にした時の薔薇色に染まった、はにかんだ顔。
彼のどこが良い印象ではなかったのだろう。むしろ、好青年という言葉を具現化したような人だったのではないだろうか。
やはり、気づかれてしまったのだろう、私の計画を、少しでも彼にときめいたことを。
レオンを見るとドクドクと心臓が脈打って、罪悪感で破れてしまいそうになる。
――――あまり良い印象じゃないのは、良い人じゃないのは私の方だわ。あんなにも良い人を復讐の道具にしようとして、その上純粋な瞳を向けてくる騎士をどこか煩わしく思って、悪いことだって分かっているのに、まだ計画から手を引こうとしないんだもの。
城に帰る馬車の中、私たちは一つも口を利かなかった。
それぞれ、眉間にしわを寄せて難しいことを考えながら。
レオンの考えていることが、リズの考えていることとは違うことも、リズが物事の本質に気がつくことも、また自分がこの国の人間にどれほど知られているかということも、彼女はまだ気がつくことはできなかった。