#15 甘美な毒薬
相変わらずレオンが空気ですが、どうぞお付き合いください。
天辺で輝いていた太陽が、少し西へ傾いた頃、私たちはレストランを出た。
そのまま、街を流れる川沿いをゆっくりと歩きながら会話する。
川は波打つたび、水面がキラキラ光の雫を放ち、水飛沫と戯れる鴨の親子を照らしている。
こんな穏やかな光景を眺めながら散歩をするなんて、初めてだ。なんだか、こういうのって恋人同士が逢い引きをしているみたいで、ちょっぴりドキドキする。
「スミスさん、今日は本当に申し訳なかった。」
「やだ、もうそのことはいいって言ったじゃありませんの」
「……はい。けれど、ぶつかって良かった。」
「え……?」
ジョンソンさんは、はにかんだように笑うと、一呼吸おいていい放った。
「あなたに、逢うことができたから。」
「!」
「あなたと一緒に、食事をすることも、こうして散歩をすることもできた。だから……」
ジョンソンさんに、正面から微笑みかけられる。知的な深い眼差しが、風になびく鳶色の髪が、ジョンソンさんの全てが、私に向かって何かを伝えようとしている。
ドクドクと、心臓が音を立てる。こんなに速く血液を送り出したら、壊れてしまうんじゃないかというほどに速く、激しく脈打つ。
嗚呼、これが恋なのかしら。ううん、違う、きっとこれは――――――。
「きっと、これは運命です」
図星を指されて、息が止まりそうになる。ジョンソンさんも、同じことを思っていたなんて。
その言葉は、魔法の薬のように甘美で、けれど毒のように危うくて、あっという間に身体中を駆け巡り、蝕んでいく。
私は、ルキフェリウスを見返すために城下に来たの――。
そう、その言葉は、決意が泡のように脆く消え去ってしまう毒。
垂らされた毒が、身体を蝕み始めていたことは、私は気がつかなかった。
リズは箱入り姫なので、簡単なことで運命だと思ってしまう設定です(笑)