#13 白の貴人
今回はレオンが空気です……
レストランは美味しそうな香りで満ち溢れていた。
席に着いて洒落たシルクハットを脱ぐと、男性は改めて先程の非礼を詫びた。
「改めて先程は失礼しました。私、フィリップ・ジョンソンと申します」
「私はレ、いいえ、リズ……リジー・スミス、彼はレオン。さっきのことは全然気にしてないわ。そんなに謝らないで頂戴」
思わず本名を言ってしまうところだった。テーブルの下でレオンに手をつつかれなければ、危ないところだったわ。……それにしても、スミスなんてありがちすぎる名前で逆に怪しまれないかしら?
思考を廻らせていると、ようやく顔を上げた男性と目が合う。
空を写したような、コバルトブルーの切れ長の瞳。正面からの深みがあって男性らしい眼差しにドキリとして、反射的に視線を伏せると、引き結ばれた厚めの口元が視界にはいる。
――“唇の厚い男性はキスが上手いんですって”戯れに男性の話をしていたときの、侍女の言葉が思い出されて益々視線が泳いでしまう。
逆光だったり、歩いていたときも長身だったりでよく顔が見えなかったけれど、改めて見ると、とても整った顔立ちの男性だ。
どうにもルキフェリウス以外の男性になれていない私には、レオンにしてもジョンソンさんにしても緊張してしまう。
……こんなことで相手なんて見つけられるのかしら。
邪念を振り払うように、頭を振ると、私は男性に尋ねた。
「ジョンソンさん、ご職業は何を?」
「ああ、いわゆる実業家のようなことをしています」
実業家、そう聞いて納得する。普通の富豪にしてはスキがなく、動きが優雅なのだ。
きっと成功するために努力をつんでいる人なんだわ。
感心していて、ふと思う。思う、というよりは直感だった。
……この人を、浮気の相手にしたらいいんじゃないかしら。