#12 知らない香り
「そろそろ、お昼にしましょうか」
「ええ、そうね」
レオンの開けてくれた扉をくぐり、外に出たときだった。
「きゃっ……!?」
「リズ!!」
横から来た何か白くて背の高いものにぶつかられた。思いの外、その白いものは強い力で、よろめくとレオンが肩を支えてくれた……のとほぼ同時にレオンと反対側から腰を抱かれた。
「失礼、レディ。お怪我はありませんか?」
「え、はい。えっと……大丈夫、少しよろめいただけよ」
顔をあげると、そこには白いスーツに身を包んだ富裕市民ふうの男性が申し訳なさそうな顔をして立っていた。
目の前の白いスーツからは、仄かな体温と石鹸、そこに微かに知らない香りが混じっていて、不思議と心の奥が掻き立てられるような、妙な気持ちになった。
どうも私にぶつかったのは、この男性らしい。きっと、急いでいたのね。……それはそうと、この人、早く手を離してくれないかしら。
腰の手を少し不快に思っていると、肩を支えてくれている手に力がこもる。
「いえ、こちらにも不注意がありました。申し訳ありません」
「いや、僕は大丈夫だ」
「そうですか。では、いきましょうリズ」
何となく義務的に感じるやり取りをして、レオンは私の手をとりそのまま歩き出そうとする。が、白いスーツの男性の腕は私の腰に回ったままだった。
「いやいや、待ってください。ここで会ったのも何かのご縁です。先程のお詫びも兼ねてランチを奢らせてください。ランチはまだですよね?」
ちらりとレオンを見る。これは、私じゃなくて、レオンが決めることだ。……危ないと思ったら、断ってくれるだろう。
「どうします? リズ」
「え、ええ、どちらでも」
軽食屋で出会いを見つけるつもりだったけれど、この人の厚意を無下にするのも気が引けるし……。
それに、またの機会に出直すことだってできる。レオンといるのは楽しいし、また二人で外出するのもいいかもしれない。
「そうですか! では、行きましょう! 御付きの方もよろしいですよね」
いや、別に、行くとも言っていないんだけど。
「構いませんが……」
レオンと手を繋いだまま、男性にリードされるという妙な体勢のまま移動する。
こうして白いスーツの男性に誘われるまま、私達は手近なレストランへと入った。