#11 マロンタルトは初恋の人?
これが恋なのかしら。
でも、もしそうだとしたら、なんだかとっても悔しいわ。
だって、17年間持つことのなかった感情を、今朝会ったばかりのちょっぴり子供っぽい男の子に持ってしまうなんて。
……でもでも、よく考えたら恋するのってもっと相手のことを知ってからじゃないかしら?
うん、きっとそうね。そうよ、こんな会ったばかりの男の子に恋なんかするはずないわ。
「じゃあ、リズ、他に欲しいものはありますか?」
「ええ、特には……」
特にはない。そう答えようとしたとき、鮮やかなフルーツタルトの奥にひっそり並んだマロンのタルトが目に入った。
「待って、レオン。やっぱりアレもほしい」
「アレ? ああ、あのマロンのタルトですか?」
「うん。そうよ、アレ。だって、あのマロンのタルト、レオンみたいだと思ったの」
私だけドキドキさせられるなんて、ずるいもの。
芽生えた悪戯心で、先程のレオンの真似をする。
「渋皮のブラウンが髪、栗の中の黄色いところは瞳、それから、ほっくりしてて、素朴だけど優しいとこもなんとなく栗に似てると思うの」
そういうと、レオンは驚いたように目を見開く。
「優しい、ですか? 俺が?」
「ええ、レオンは優しくて、頼りになるし、気が利くわ」
……鈍いところもあるみたいだけど。という言葉は飲み込んで、レオンの顔をのぞきこむ。
「うわ。初めて言われました……。ありがとうございます」
ぱぁっと輝く笑顔は、大輪の向日葵が咲いたようで、よく知る宝石が輝くような眩い笑みとは違うけれど、日溜まりのような暖かみがある笑顔だった。
悔しいから、ドキドキさせようと思ったのに、やっぱり少し鈍いみたい。
でも、嬉しそうにしてくれてるし、なんだか、もういいかな……。
「じゃあ、買ってきますね」
「あ、待って! 2つずつ買って頂戴。あと、別々に包んでもらって」
「わかりました。では、少々お待ちくださいね」
「うん」
会計を終えて袋を二つ下げたレオンが戻ってくる。
「お待たせしました。お忍びなのに、誰にお土産ですか?」
「え? お土産……? それは、1つは私ので、もう1つはレオンの分よ」
「え!? あ、いいのですか?」
一緒に選んでくれたお礼だし、もとから一緒に食べれたらと思っていたから、私としては当然のつもりだった。
でも、予想以上に喜ばれて、どぎまぎしてしまう。
「べ、別にあれよ、レオンはいつでも買いに来れるだろうけど」
「いえ、お心遣い感謝します。すごく、嬉しいです」
なんだか、大したことはしていないけれど、人に感謝されると暖かい気持ちになる。
さて、お菓子も買ったし、お昼にいい時間だし、次こそ軽食屋に行くのかしら。
今日ここにいる目的を思いだして、レオンとのやり取りで日溜まりのように暖められた心に、再び雲が差して日陰ができる。
そう、私はルキフェリウスに復讐するためにここにいるのに、こんな幸せに甘んじてるなんて、ダメじゃない。
#11はいつもより長めの文でしたが、これでお菓子のお話も一旦お仕舞いです(笑)