#10 レモンタルトは初恋の味
「すごく綺麗だし、美味しそう。……でも、どうしてこれなの?」
もしかしたら、レモンは私の好物がタルトだって、知っているのかしら。
ううん、そんなはずない。だって、レオンとは今日初めて会ったばかりだし、身の回りの世話をしてくれている人にだって、好きな食べ物を話したことはない気がする。
……それを知っているのは、両親と、あとはルキフェリウスぐらい。
そう考えるとちくりと胸が痛む。
「どうしました、リズ? あ、もしかして、隣のブドウのタルトの方がよかったですか?」
いけない。気がつくと、レオンはタルトから私へと視線を移していた。
「ち、違うわ。なんで数あるお菓子の中からタルトで、その中でもレモンタルトなのか気になったの!」
「ああ、よかった。そういうことですね」
安心した、とでもいうように破顔して、レオンは私の想像を遥かに飛び越して、とんでもないことをいい放った。
「だって、これ、リズみたいで綺麗じゃないですか」
「??? ……っ!!??」
「スミレの砂糖漬けは瞳、シトロンのクリームは髪、まるでタルト生地のドレスを着たリズそこに座っているみたいで、綺麗です」
レオンの声は嬉々として弾んでいるけど、私はレオンの顔を直視することができなかった。
どうしよう、今私の顔、絶対真っ赤だわ。
なんで、恥ずかしげもなく自然にあんなこと言えるのかしら。それに、私に似ているタルトを綺麗って褒めるなんて、それって、私を綺麗だと思ってくれていると思っても良いの?
胸にレモンのタルトを食べたときのような、甘酸っぱい感覚が染みていく。
何かの本で、初恋はレモンタルトの味がするって読んだけれど、これが“恋”なのかしら。
お菓子は見てるだけでも幸せな気持ちになりますよね!
お菓子のくだり長すぎですが、もう少しお付き合いくださいm(__)m