#9 スミレの花の砂糖漬け
#8のつづきです。
あれこれと迷いに迷っていると、隣に立っているレオンが笑っていることに気がつく。
「レオン、なんで笑っているの?」
疑問に思ったことを素直に尋ねると、レオンは言われて初めて気がついたというふうに口元を押さえた。
「し、失礼しました。お菓子を選んでいるリズが、あまりにも無邪気で可愛らしくて。こんなにもあどけないところもあるのだな、と」
「な……!」
つまり、お菓子をあれこれ迷う姿が子供のように見えたと言うこと? 確かに、久しぶりに余計なことは何も考えないくらい夢中になっていたけれども。
……レオンから見て私が子供に見えるなんて、ありえないわ。
でも、それよりも可愛らしいと言われたことがちょっと嬉しくなって、ドキドキしてしまった。
「……そんなこと言われたら、選べないじゃない」
照れ隠しに頬っぺたを膨らまして、少しだけ拗ねたふりをする。
「そうですね、こんなに種類があるとなかなか……」
私が照れているのにも、照れ隠ししているのもまったく気づかないレオンはお菓子に視線を戻す。
……レオンって変な感じ。お城にいる人はみんな私のご機嫌を伺いながら行動してるのに。
なんだか、寂しいような、けれど、それを上回って居心地がいい。
「あ! リズ、これを買いましょう!」
「え?」
ぱぁっと明るい笑顔を向けてくるレオンの手には、スミレの花の砂糖漬けが乗った小さなレモンタルトがあった。
「これ?」
確かに、オシャレで可愛いけど、なんとなくレオンが選ぶことに違和感があった。
……だって、正直に言うと、イチゴとミルクの大きなペロペロキャンディや、馬や魚がアイシングで施されたクッキーなんかの方が似合っているんだもの。
私よりレオンの方がよっぽど子供っぽく見えるんだから。