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古巣の価値(2)

連番タイトルを使って時間稼ぎをする技術を身に着けた赤依です、こんにちは。


早速、本編をどうぞ!

 歳は覚えていない。まだ小さかったこと、最後に入ったアトラクションがホラー系だったことは覚えている。親父と、母親。二人と一緒に、その日を楽しんでいたんだ。……ただ、それだけだったのに。

 アトラクションも、そろそろ終わる。そんな時、俺たち、客の不安を煽るように鳴り響いていた雷の音が一際大きく鳴ったんだ。短い時間、鼓膜が支配されたように思ってたら、雷の音が鳴るたびに人が倒れ始めたんだよ……。最初はアトラクションの一部だと思ったけど、アトラクションを見る側の俺たちが倒れるのは変だと思った。そうしたら、係りの人が言ったんだ……『お客さまっ? 大丈夫ですか!?』って。そこで気づいたんだよ、『屋敷の幽霊が殺したんじゃない』ってね……。

 俺を守るように立ち塞がってくれた両親の隙間から、俺は殺人犯を見ようとした。どんなに小さくても、危機を感じると反射的に周囲の情報を集めようとするのは動物の本能かな、今ならそう思うよ。ソイツの手には拳銃が握られていて、客に銃口を向けていた。ソイツが錯乱していたのかどうかなんて、今となっては分からない。だってソイツ……あと数人に向けて発砲した時点で自分の頭を撃ち抜いちまった。その数人の中に俺の――――――――


 「OK、ストップだ、八木くん」

 原山の制止により我に返り、視線を自分の膝まで落としていたことを自覚する。人の目を見て話せるほど明るい話ではない。話しても得にはならないであろう話題でも、原山に聞かれた際にすんなりと出てきた自分が不思議だった。サーティーに聞かれても答えただろうか。確信はないが、きっと口を滑らせたかもしれない。

 「すまないね、事務処理で……もし君が、ご両親と一緒に生活していた場合には、それなりの手続きがあるんだが……」

 「気遣ってくれるのは嬉しいけど……その事務処理、無駄だ」

 だって、もう居ないから。二の句が草介から聞こえてきそうだった。原山が職権を乱用してせっかく用意してくれたハンバーグ(チーズ入り)を楽しんだのに、なんとも後味が悪くなってしまった。

 「じゃぁ、サーティーの首を絞めたのは……?」

 「無防備な時に刺激を加えられると、反射的に動いちまうんだ……。あれが初めてじゃない」

 ハンバーグに飛び付いていたサーティーには気を遣わせてしまったかもしれない。こんな空気になるなら、サーティーだけでも席を外してもらえば良かったか……。

 「――――せっかくハンバーグ楽しんでたのに、悪かった、なぁあ!?」

 「ぼぅ(もう)……どうぢで(どうして)おぢえて(おしえて)……っく、ぐれながったのぉ(くれなかったの)……」

 草介の心配を他所に、サーティーは涙を堪えながら草介の足を……踏みつけて、()ねていた。それも、(かかと)をグリグリとするものだから、危うく椅子から転げ落ちそうになった。

 「(いて)ぇよ! ちょっとは手加減をしろ!」

 「だって……だってぇええええええええ!!」

 サーティーは草介と同じく、技薬を含んでジャンキーと戦う。それだけで、何もかも同じと考えていたが、サーティーは誰よりも(おさな)い。たとえ血縁でなくても、本当の人間の死の話題に悲しみという感情が芽生えても不思議ではない。

 「あ~、八木くん? サーティーは今、話せそうにないからボクから言うよ。実はね、君がサーティーの首を絞めてから、『八木くんが怖い』と、サーティーは言っていたんだ」

 「俺が、怖い?」

 無理もないだろう。下手をすれば殺されそうになった相手である。恐怖だって感じるだろう。

 「でもね、これから一緒にジャンキーと戦うのに、ワクチンに怖いだなんて思うのはきっと変だって、サーティーは言った。ボクはね、何か理由があるんじゃないかと考えたんだが……八木くんにとって最大限の失礼をはたらいてしまったようだ」

 「いや、そんなこと(・・・・・)、俺は口が滑って話しただけぇえ!?」

 「そんなことって言うな! お母さんが……お父さんが、殺されたんだから……。うぅぅ……」

 すでにハンバーグがもう一枚焼けそうなまでに足を踏まれた草介は、サーティーの一喝(いっかつ)に目を見開いた。

 「八木くんを怖がって、ごめんなさい……。お母さんとお父さんを殺されたことが原因だなんて、知らなくて……。もう、変なこと考えないから、許して……」

 今度、視線を落としたのはサーティーの方だった。赤いローブには、頬を伝った涙によって点々と染みができている。草介は、そんな幼い少女の頭に手を乗せた。

 「謝るのはこっちだ。お前は悪くない。どうしてサーティーが泣くんだよ?」

 「私も……同じだから」

 「ん?」

 「私も、お母さんとお父さん、居ないから……」

 原山を見ると、黙って首を縦に振るだけだった。原山が嘘を()くとは思えない。どうやら本当らしい。

 「……サーティー、忘れろとは言わない。どんなことを感じて、どんなに辛かったかも俺には分からない。でもな、その思いを、悪い方向にだけは使うな」

 黙って頷くサーティーを見て、草介は安心した。これで、負の感情が身を滅ぼすことだけは防げただろうか。

 「さて、ハンバーグは美味しかったかな? サーティーも、あんまり天霧さんにチクらないでくれよ? 今回は共犯だ。と、言うわけで、食事会は以上!」

 三人で席を立ったところに、スーツ姿の男女が一人ずつ原山のところまで来た。格好だけを見れば、どちらも人事部にいるようなひとのように見えるが、原山が首を捻っていることから、面識がないらしい。部署なんてものは山ほどあるのだから、と草介は納得した。

 「失礼します。人事部の原山さんで、お間違いないですか?」

 男の方が尋ねた。

 「本日付で危険物取扱部に所属となりました。もう少し早く訪ねたかったのですが、道に迷いまして……」

 「危険物……危険物……。あぁ! はいはい。杉山さんと白井くん……かな?」

 「はい。まさか覚えていただいているとは。初めまして、白井儀広(しらいよしひろ)です」

 「杉山美夏(すぎやまみか)と申します」

 深々と頭を下げて名乗る二人を前に、明るい態度で接する原山は、きっと誰に対してもこうなのだろう。スーツの二人組も、変に緊張している感じは見られない。

 「いや~、迷路みたいで悪いね、うちの会社。理由は察してくれると助かるけどね」

 「はい、一応は把握しているつもりです。…………そちらの方たちは?」

 杉山と名乗った女性の視線がこちらを向いた。

 「……八木、草介です。一応は、ワクチンという扱いになって、ます。……どうも」

 ペコリ、と軽く下げた頭につられて、サーティーも同じく会釈をした。スーツを着ているということは原山(いわ)くデスクワーク。技薬適性はないのかもしれない。

 「ところで、原山さん。私たちはどちらに向かえばよろしいのでしょうか?」

 今度は白井と名乗った男性が聞いた。人事部同様、危険物取扱部にも拠点となる部屋があるのだろう。

 「はいはい、いま教えるよ。え~っとね……、ここをこう進んで、次に左に曲がった先の……」

 そうして、迷路攻略の準備を始めたのだった。


 ◇


 「(もぐ)らせたか?」

 「はい、たしかに」

 大きく息を吐いて椅子に身体を預ける。

 「もう少しの辛抱にございます。必ずや、【原初の麻薬(オリジン)】を、デミク様の手に」

 「事は大きくするな。【原初の麻薬】さえ手に入ればいい……」

 デミクは、自身の生命を繋ぎとめている液体の残量を気にしている。【原初の麻薬】は、全てを叶えてくれる……。そう、残り少ない液体を満たし、永遠の時間さえも約束してくれるだろう。


 「邪魔する者は切り捨てろ。所詮、奴らは生命は有限だ」


 また少し、液体の水位が下がった。

お読みいただき、ありがとうございます。たぶん、前回の更新から期間はそれほど空いてないと……思いたいです。


なんだか、【原初の麻薬】という新しい単語が出てきました。この薬、物語にはどのようにして絡んでくるのでしょうか。本当に『薬』なのか。私も知りたいっ! 誰か教えてくださいっ!


それでは、次話にて。

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