閑話その一 「原山の一日」
※※ 必読 ※※
・本編とは無関係
・本編を三話更新ごとに閑話を更新するスタイルを考え中
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追記(2014年8月15日):200PVを超えました。Thank you for comming!
プロトタイプ製薬勤務、人事部所属。役職は……それなりの地位。“おっさん”と呼ばれるには早いかな。ボクの仕事は収集課とワクチンへの出動要請や、技薬適応者のデータ管理などだ。
「あ、悪い。コーヒー淹れてくれるかい?」
技薬に一切の反応を示さないこの身体では、ジャンキーを前に無力となる。だから、毎日両手をキーボードに構えて目の前を流れる膨大なデータを処理している。正直、既に両肩は石のように固く、重くなっていた。
「……ん、ありがと。あぁ、新たなワクチンを収集課が見つけてきたって話が届いてるんだけど、検査は済んでるの?」
椅子に座って画面を眺めて、目と肩を痛めていれば安全に日々を過ごすことができる……。この考えを改めることになったのは、ボクが初めてワクチンと収集課に出動を要請し、その日の工場襲撃が終わってからだった。
「検査済んでるの? いいね、ボクも検査結果を読みたいんだけど」
その言葉で瞬時にボクのパソコンへメールが届いた。……ほう、今回のワクチンはなかなかのパターンをお持ちのようで……。
「見つけてきたのは収集課の誰? ……検査実施者と同じ、ね」
この名前は……。良かったな、相棒が見つかって。これからはこのペアにも出動要請を出すことになるのかな。取りあえず、連絡でもするか。
「…………もしもし、人事の原山です。ナインは居ますか? ……はい、お願いします。…………原山だ。おめでとう、これで君も襲撃の際には出向いてもらうことになる。ワクチンとは仲良くな。普段から世間話くらいはしておくんだぞ? ……あぁ、それだけだ。それじゃ」
初めて出動要請を出したペアは、ジャンキーに敗れた。襲撃の際の防衛結果は後でいくらでも聞けるが、ペアがその時にどうなったかは、『生存』もしくは『不明』と単純だ。後者はかなり柔らかく表現されているが、つまりは……そういうことだ。ただ、幸か不幸か、その時のペアは『一名生存』だった。ボクは今でも覚えている、地の色とは異なる色を纏った取集課の涙を教訓にしている。その後、その時の収集課から出動した赤ローブは二度と、防衛に参加することはできなくなった。
「悪い、コーヒー淹れ……」
「あんまり飲みすぎると、トイレが原山さんのデスクになりますよ?」
そう言って、ボクのデスクに新しいコーヒーを置いた。ボクは、彼女が赤いローブを纏って工場防衛に参加したことを知っている。当たり前だ、その時の出動要請を出したのは……。
「原山さん」
「ん、どうした?」
「充血、ひどいですよ?」
鏡を見ない限り気づかない、そんなことも教えてくれる彼女は、大切な仕事仲間となった。
「……なぜ、私を?」
「特に深い理由はないよ。まぁ、なんだ…………ずっと覚えておくためにね」
次回は本編の更新です。