その身に眠る特効
こんにちは、赤依です。
特に予告はしていませんが、最新話の更新です。はてさて、プロトタイプ製薬に連れてこられた草介は技薬に対する検査を受けることに。いったい、どのような検査結果が得られるのでしょうか。そんな中、新たな工場が襲撃されるという情報が原山の耳に届きます。必ずしも良い戦績を上げられないプロトタイプ製薬ですが、打開策を見つけるために、検査室へと内線を繋ぎます。
では、後書きにて。
部屋の中は暗かった。左右に開いたドアから入ってくる廊下の光でも、部屋を奥まで照らすことは不可能だった。
「サーティー。来たぞ?」
「はいは~い」
目の前の闇から届くユルい返事と同時に、部屋の照明に火が点いた。
「……はい?」
そこには、医療ドラマなどで見かける手術台と切開用だと思われる刃物が用意されている他、数台のパソコンと全面ガラス張りの人間が何人でも入れるような場所がある。その大きさからガラス張りに目が行くが、眼下の刃物――――何本ものメスに視線は釘づけとなった。
「何、これ?」
「うん? あぁそれ? 大丈夫だよ、メスは使わないから。ちょっと台に横になってくれる?」
パソコンを操作するためにキーボードを叩いているが、両手の人差し指のみで叩いているところを見て草介は心配になった。
「ほら、横になったぞ」
「よ~し、それじゃーねぇ…………」
パソコンでの操作を終えたのか、サーティーが手術台の横まで戻ってきた。次に台の付近のパネルを操作している。
「今から、もう一度薬を飲んでもらうよ。目的は、八木くんの身体が薬に対してどんな風に反応するのか確認するため。薬はこれね」
取り出された薬はジャンキーと対峙した時の物と同じ形、色をしたタブレット。メスの隣にコップに入った水も用意されている。
「これ、さっきも言ってた試薬ってヤツか?」
「うん。あぁ、注意事項なんだけど、飲んだ後は静かに横になったままにしててね。じゃぁ、はい。飲んで」
差し出されたタブレットを、口に含んで犬歯で一回、噛み砕いた。
「水は?」
「……いらねぇ」
気づけば溶けている試薬を飲み下し、草介は手術台に身体を落とした。
「寝ててもいいけど、優しくは起こせないかもよ?」
「覚悟しておく……」
「……もしもし、原山です。先ほどのワクチンの件で」
『あら、検査終わったの?』
「いや、もう少しで結果が出ますので、その時は改めて。……天霧さん、ジャンキーが製造工場を狙って向かってきたという情報が入りました。数名ほどのワクチンを向かわせたいのですが、許可を」
『……いいわ、ワクチンを含めた技薬適応者の采配はそちらに任せるわ。それで、“八木ちゃん”がどうしたの?』
「はい。実は、八木くんにも今回の対応に当たってもらいと考えています。いかがでしょう……」
慌ただしく背後を駆ける同僚や収集課の人間たちを気にもせず、原山は天霧の返答を待った。断られても別のワクチンを駆り出せばいいだけ。しかし、原山には根拠のない自信があった。
『そんなお願い初めてねぇ。……だめよ、検査結果が先だわ』
「襲撃間近なのは、流通用の薬を精製している工場ではありません。技薬工場です……。これ以上の技薬工場の損失は、我々の将来に影響します。……もう一度だけお願いします。八木くんを、工場へ向かわせる許可をください」
『…………ズルくなったわねぇ、原山ちゃん』
「必ず工場の防衛を成功させて、八木くんも帰します」
『……やってみなさい』
「ありがとうございます」
再び原山の耳には慌ただしい音声が届いた。緊急事態にはどんな手でも借りたい、貸したいのが事実。しかし、原山は落ち着いて受話器によって片耳を塞いだ。目的は検査室。未知数の希望に連絡するためだ。
「…………サーティー、検査は中止だ。八木くんを急いで人事課まで頼む」
「タイミングいいわね、ちょうど検査が終わったわ。八木くんも起きてるし、すぐに向かわせるから」
『手際がいいな。検査結果は後で聞く。とにかく急ぎでな』
「結果聞いたら驚くかもよぉ~? それじゃ、人事部で。……八木くん、私と一緒に来てくれる? これから原山さんのところまで行くから」
「原山さん? さっきは当分は会わないだろうって話したばっかりなんだけど……?」
きっと状況がそれを許さなかったのだろうと、真剣な表情のサーティーから推測した。
「まさか、また戦うのか? 生きてられる自信なんかないぜ?」
「『嫌だ』って言わなくなっただけマシよ。ほら、検査結果を含めて、原山さんの所で教えてあげるわ」
固い手術台の上から降りると、少しだけ節々に痛みを覚えたが、動けないほどではなかった。
人事部は火の車と化していた。
動ける人間はできる限りはやく行動するために小走りになり、受話器を耳にする人間の声は怒声にもにている。
「いやぁ悪いね、突然呼びつけて。緊急で頼みたいことが出来ちゃってさ」
そんな中で、原山だけは自分のペースを乱していなかった。
「当分は会わないんじゃなかったのか?」
「そうも言ってられなくてね。率直に言おう。八木くんにジャンキーの撃退を頼みたい」
「……嫌、ぁだっ!?」
無言でサーティーが草介の足を踏みつけた。
「何も一人で、とは言ってないよ。……おめでとうサーティー。君の相棒だ。夢だったんだろう?」
「え、ほんとに! 私も行っていいの?」
突然目を輝かせたサーティーに一矢報いようと足を目がけて踏みつけたが、虚しく躱された。
「あぁ。と、言うわけだ。ヘリポートに向かってくれ」
「了解! 乗るの初めてだー! ほら、急いで八木くん!! 結果はヘリでね」
「もう、どうにでもなっちまえ……」
「早く来るの! ……っと、原山さん。これ、八木くんの検査結果。戻ってくるまでに読んどいてね」
一枚の紙を原山に渡すと、遊園地を前にはしゃぐ子どもの様に草介の手を取った。
「…………へぇ、初めてだね。こんな検査結果見たことな……行っちゃったか」
原山の目には、サーティーに引っ張られながらもなんとか走っている草介が見えた。
「天霧さんとの約束、果たせそうだな……」
-=-=- 技薬適応検査 検査結果 -=-=-
・被験者 八木草介
・実施検査
1. ドラッグ・パターン解析
2. 試薬発現状態の監視
・使用試薬 グリーン x1(タブレット状)
・結果詳細
1. ドラッグ・パターン解析
解析例なし
2. 試薬発現状態の監視
摂取して数秒後には、血中の成分濃度が
十倍となった。また、副交感神経への影響
が顕著。摂取量によっては、強い眠気を
感じる恐れあり。
・実施者 天霧 葉奈
・備考 被験者への公表を禁ずる
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
その音は耳に優しくなかった。
「うおーーー! うるせぇーーー!!」
「なにーーー? 聞こえなーーーい!」
耳が遠くなった老人の会話のように、手を使って集音性を高めるが、余計に騒音が飛び込んでくる。
「人が乗ってからー! プロペラ回せねぇーのかよー!」
「えー? なにー?」
「チビすけーーー、ぇえ!?」
こんな騒音の中でも、グリグリという音が聞こえてきそうだった。実は草介とサーティー以外にも、サーティーのような赤いフードを纏った人ともう一人、というような組み合わせが輸送用のヘリへ乗り込もうとしていた。それも草介たちを含めて十組ほどであるから、ヘリの中は二十人程度の大所帯となった。
「てめぇ、聞こえてんじゃねぇーか!」
「チビって言うな!」
周囲が注目していることに気付いて、備わっている椅子へと腰を落ち着けた。ヘルメットを被る操縦士が全員の乗り込みを確認すると、外の景色が流れた。
「どうなってんだ、この会社……」
「未来を守ってるのよ、かっこいいでしょ?」
「はぁ…………」
渾身の溜息だった。全てを諦めて他の乗り込んだペアを惰性で眺めていた。すると、何組かのローブを纏った人物がタブレット状の物を相方に渡していた。渡された方はそれを口に含み、飲み込んだ。
「なぁ、サーティー。何やってんだ、あれ?」
「なにって、技薬を飲んでるんでしょう。……はい、飲んで」
「うん……。って、そうじゃねぇ。なんで持ってる?」
「八木くんに飲んでもらうために」
さも当然といった表情に、草介は拳を震わせたが下ろした。
「もう到着する。だから早く飲んで。い・ま・の・ん・で」
また、草介の手が技薬へと伸びた。拒否するべき技薬は、意志に関係なく口へ運ばれる。
「はい、よく飲めました」
「……え?」
舌に残る僅かな違和感に、高架下の記憶が思い出された。
「また何かしただろう! いい加減にしろっ!」
「ちょっと! 薬飲んだんだから暴れないでよ!」
たしかに、薬を飲んだ人たちはみな、静かに椅子へ座っている。
「どうやって飲ませた?」
「私の、ドラッグ・パターン」
「初めてお前と会ったとき、同じこと言ってたな」
「私はね、他人に対して行動を強制することができるの。それが私のドラッグ・パターン。強制時間が短いほど、それに強制内容が簡単なほど、顕著に効果が表れる」
景色が上に流れ始めた。いよいよ着陸らしい。
「そのドラッグ・パターンってのは、俺にもあるのか?」
興味本位だった。ジャンキーを凍らせるために技薬を含んだサーティー。共闘した際に同じく技薬を含まされ見事にジャンキーと対峙した草介。そして、サーティーは今、技薬を飲まずに行動を強制した。自分にもあるのかもしれない。そんな興味だった。
「あるよ。八木くんのはね……」
「……え? 悪い、もう一度頼む」
着陸に気付かないほどの操縦の上手さだった。突然、半数以上のペアが立ち上がると、一瞬で打ち合わせを行ったようだが、プロペラが風を切る音でかき消されて聞こえない。サーティーに背中を押されて慌てて立ち上がるも、何をしていいのか分からない草介は振り返ってサーティーを睨む。
「(扉が開いたら、ダッシュ!)」
乗り込み口を指さした後に両腕を曲げて前後に振った。
「(いくよっ!)」
扉が開いた。打ち合わせをしていた数組は勢いよく飛び出して、それぞれが思う行動に移っていく。結局、背中を押される形でヘリから降りると、そこは白を基調とした大きな建物が建っていた。何も説明されないまま原山にむかわされたが、サーティーの説明が疑問を埋めた。
「ここが我が社の技薬精製工場。ここがこれからジャンキーに襲撃される。八木くん……というか、ヘリに乗り込んでいた人たちには、ここを死守してもらうよ」
「……死守?」
足が止まった。先行していた人たちが小さく見え始めたころ、建物の方から高架下で聞き覚えのある、ジャンキーの声が響いてきた。
『クスリだぁーーー!!』
『こいつら、飲んでるぞ……。喰うぞ……』
『数日ぶりだぁ……。満腹になるまで暴れてやるぅ……』
後ずさりを始めた草介を優しく押したのは、サーティーだった。
「大丈夫、君は強い。八木くんのドラッグ・パターンは、飲んだ薬の効果を何倍にもして引き出す。身に覚えがあるでしょ?」
「何倍にも……」
『床に置いてある紙が少しだけ飛べば、それでも十分な威力として認められるものなので、ジャンキーを吹き飛ばすほどの威力なんて出力されないんです、本来は(・・・)!』
草介は、たとえそれが微弱な出力しかできない技薬であっても、ジャンキーを吹き飛ばすくらいの威力を出力することができる。もし、飲んだ技薬が試薬でなかった場合、どうなってしまうのだろうか。
「サーティー……。さっき、俺は何を飲んだ、試薬……じゃ、ないよな?」
いつしか、足は地面を固く掴んでいた。響いてくる声の主に、向かっていくために。
「……よく聞いて。八木くんが飲んだのは衝撃波の刃を出力する。使い方は試薬と同じ、君の強い意志を伴う行動に対して射出される」
「衝撃波の、刃……」
ゆっくりと、右腕を宙に上げていく。手は自然と手刀を打つかのように指先まで伸びる。
「気をつけろよ、サーティー」
迷いなく地面に振り下ろされる右腕。直後、草介の右側の地面は巨大な錨が突き刺さったかのように扇形に抉れていた。草介以外にも初めて連れてこられたペアが、目を皿のようにして驚いている。
「ドラッグ・パターンで倍増させなくても、一応は実戦レベルなんだけどなぁ……。八木くん、準備は?」
「……いいぜ、いつでも」
「まずは先行したペアたちに追い付こう。ジャンキーの数も分からないから、無暗な突進はダメだ」
駆けだした両足には、震えは感じなかった。
お読みいただきありがとうございます。
ドラッグ・パターンとは特殊能力。サーティーの場合は他人への行動の強制。草介は技薬の出力強化、です。しかし、ドラッグ・パターンが備わってしまう原因までは明かされませんでした。(既に理由が分かった方もいるかもしれません)
次回はお待ちかね、草介とサーティーのペアによる戦闘が描かれます。頑張って書きます。今は夏休み! なんとか“戦闘描写っぽい”ものが書けるまで練ります。
では、次話にて。




