【速報】目が覚めたら知らない化け物に囲まれてて詰んだんだが
2006年頃に書いたショートショートです。
当時はかなり病んでたのでこんな感じのが結構あります。失礼。
私が覚醒したのは、薄暗い六畳ほどの閉鎖空間でした。金属で出来た冷酷な機器に囲まれたそこは、なんとも忌々しく、同時に終電の過ぎ去った寂涼とした駅のホームのごとき物悲しさを孕んでおりました。眩暈に似た霞目が視界を支配して、頭がひどく混乱しました。
目覚めと時を同じくして、私は六体もの人形を成した何者かに取り囲まれていることに気付きました。手に用途の解らぬ鉄の道具を握る者、頻りに不快な音節を叫ぶ者、そして横たわってピクリとも動かない者。
その者たちは一様に、若草色の艶の無い皮膚を纏っておりました。白く巨大な口は何かを喋っているようでしたが、我々人類のような口腔が存在せず、口角と思しき部分がまるで尺取り虫のごとくひくひくと歪に波打っては、人語とは到底思えぬ音を交わし合っているのです。
恐怖に戦き、私は恥ずかしながら股間を濡らしたことを悟りましたが、勇気を振り絞って叫びました。
「ここはどこだ!? お前たちは何だ!? 私を解放しろ!!」
だが、言葉を解さぬ狂人たちに届くはずもなく、只虚しく狭い部屋へ反響するのみでございました。
そこでふと我に返り、己の肉体の異様さに気付いたのです。
私は全裸のまま冷ややかな金属トレーの上に転がされており、恐ろしいことに、我が肚からは太い濡れた緒が伸びておりました。
——私は、たった今産み落とされた赤子なのだ。
その事実に思い至った瞬間、底知れぬ絶望が私を呑み込みました。
人語を解していなかったのは、私の方だったのです。慌ただしい分娩室の狂騒をよそに、
『また、人間に産まれついたのか……』
言葉にならぬ惨めな産声を漏らし、抱え上げられた拍子に視線を巡らせると、そこには血の海の中で悍ましく引き攣った顔を静止させ、息絶えた鬼の姿がありました。
幾許か経ち、段々と、思考と視界がさやかになり、私は先ほどにもまして大きな声で哭いたのです。
先ほど目にした「横たわる鬼」とは、私を産み落とした母だったとそこでようやっと気づいてしまったのです。
ああ、何というおぞましい悪行を犯してしまったのか。
私は自らが産まれ出でたこと、そして犯した罪への後悔に胸を掻きむしられながら、自ら呼吸を止めました。母の冷たくなった亡骸を見つめたまま、私は再び、永い暗闇の中へと堕ちていきました。




