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リアルで美少女受肉した親友がVtuberを始めるようです  作者: 畑渚


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16/16

雨が降るみたいね

 駅からまっすぐの大通りを歩いた突き当たり。そんな好立地に俺の実家はある。


 おぉと何かしら感心している光を横目に、玄関で呼び鈴を鳴らす。


「ただいま」


「あら仁、早かったのね」


 玄関を開けてくれた母さんは、俺の後ろを覗き込むかのように背伸びした。


「それで、この子が例の女の子ね」


「こ、こんにちは」


「まーっ!可愛い子ねぇ」


「ど、どうも。仁くんの彼女をやらせてもらってます。ひかりです」


「さぁさぁ、入って。何もないところだけど」


 母さんはぱぁと顔を輝かせながら、そそくさと家に招きいれる。

 先導する母さんには聞こえないよう、光が耳元で囁いてくる。


「なぁ、仁。怪しまれてないかな」


「あの様子だと大丈夫だろ」


 光の名前は前に帰省した時に出したことがある。話の整合性の為に俺たちは、彼氏彼女の関係であることにした。変に友達だと言って根掘り葉掘り聞かれるより、開き直って最初から偽るほうが楽だという判断だった。


 まあこうして偽っているうちは光のメンタルがゴリゴリ削られていくので、早く2人きりになって解放されたいところである。


「仁が迷惑かけてない?」


「大丈夫です、えーっと」


「あら、お義母さんでいいわよ。やだもぅ」


「じゃ、じゃあ、お義母さん」


 まぁ~と嬉しそうな声をあげる母さん。


「仁も油断ならないわねぇ。少し見ないうちにこんな可愛い子捕まえるだなんて」


「母さん。もういいだろ」


 客間に通された俺たちは立ち話もそこそこに、母さんを追い出す。


「はいはい。じゃあお茶淹れてくるから待っていてね」


 和室で居心地悪そうに俺の隣に腰掛ける光。


「……座り方どうにかしたほうがいいかも」


「あ、ごめん」


 あぐらをかいて座ろうとしたのでそっと伝える。

 二人の時だと別に気にしちゃいなかったが、こうしてみると女の子を偽るのも大変だ。


「ちょうどお隣さんからお菓子を頂いたのよ」


 盆に茶と菓子を乗せて母さんが戻ってくる。ギリギリ会話は聞かれていないようだ。


「あら?」


 ようやく母さんも座ったところで、スマホと外とを見比べて母さんが呟く。


「雨が降るみたいね」


「洗濯物?」


「今日はもう畳んだわ」


「じゃあ何?」


「お父さん、出張で今日電車なのよね。傘を持っていってあげないと」


 母さんはあらあらとわざとらしく首を傾けて困った様子を見せたあと、俺の瞳をじっと見つめてにっこりと微笑んだ。


「仁、ちょっと駅まで、傘を持って迎えに行ってきてくれない?」


 どうしてだとか、じゃあ母さんが行けばとか、そんなことを言えないような言葉の重みを圧として感じ取る。


 ああこれ、俺には拒否権ないやつだ。


「わかったよ。ちょっと行ってくる」


 立ち上がろうとした俺は、光が服の裾を掴んでるのに気がつく。


「すまんがちょっと母さんの相手をしてやってくれ」


 手を振り払って立ち上がり、部屋をあとにする。


 去り際に光が捨てられた猫のような顔をしているのが目にはいる。


 だ、大丈夫だよきっと。うちの母さんも息子の彼女を取って食うような人じゃないはずだから。



<=>



「いつもより聞き分けが良くて助かるわ」


 仁のお母さんは、にっこりと目を細めたまま、こちらを撫で回すように見る。


「それで、ひかりちゃんだったかしら」


「は、はい!」


「まぁまぁ、そんなに緊張しないで。取って食べようってわけじゃないんだから」


 嘘だ。まるで獲物を前にしたヘビのように、視線からプレッシャーを感じる。


「それで」


 ずずっとお茶を啜って一息おいて、仁のお母さんは王手をかける棋士のように重々しい一手を打った。


「うちの息子とどういう関係なのかしら?」


 背中につぅと、冷たいものが走る。


「いえ、ですからその、お付き合いさせてもらってて」


「ああいいのいいの。そういう見え透いた嘘は」


「う、嘘?」


「あの子、昔から嘘つくときは右手で何かをトントンと叩くクセがあるのよねぇ」


 鹿威しがカツーンと高らかに音を奏でる。

 し、知らなかった。仁にそんなクセがあったなんて……。


「それで、貴方は何者かしら?」


 情けないとは分かっている。それでも俺は小心のなかで叫ぶしかなかった。


 助けてくれ、仁!



<=>



「なんか引っかかるなぁ」


 駅の入口で父さんを待っている間。暇になって空を見上げる。


「ん、んん?」


 確かに分厚い雲が空を覆っていた。


 しかし、田舎育ちとしての直感が告げる。

 あれは確かに雲だが、雨雲じゃない。雨が降る前特有の空気感もない。


 よく見れば周りをチラホラと歩いてる人たちの中に傘を持つ人はいない。


「んなバカな」


 スマホで天気予報を開く。1日曇り。降水確率は――10%程度。


「騙された!」


 これは母さんの罠だ。俺と光を分断して、そして光に圧をかけるための!


「何に騙されたんだ」


 後ろから聞き慣れた渋い声がする。


「父さん」


「仁、傘なんか持ってどうしたんだ」


「あ、いや、これは」


 父さんはしばらくあごに手を当てた後、事情を把握したように頷いた。


「母さんか」


「ご明察」


 男二人、首を振りながら、今だお茶目な母さんの姿を思い浮かべる。


 テヘッ


 幻視した母さんが、ベロを出しながらそう言った気がした。



<=>



「ただいま〜」


「あらあら、おかえりなさい」


「母さん、騙したな」


「仁もまだまだねぇ」


 くそ……、この人には敵わないな。


「ひかりは?」


「ひかり……こうちゃんなら仁の部屋に通しておいたわよ」


「っ!?」


 光のやつ相当絞られたなこれは。


「様子見てくる!」


 靴を脱ぎ捨てて部屋へと急ぐ。

 自分の部屋の扉を明け放つとそこには――




――真っ白に燃え尽きて椅子に座り込んでる光がいた。


「光!大丈夫だったか?」


「んぁ、仁……」


 ガバっと抱きついてくる光。自分と同じはずのシャンプーの匂いが、少し甘く感じた。


「こ、怖かった……」


「ごめんごめん」


 光を引き剥がして、とりあえず、と口を開く。


「何をゲロったんだ、どこまで」


「もう何もかも、全部だよ」


「全部って、彼女が嘘で、友達ってことも?」


「ああ」


「性転換や同居のことも?」


「ああ、全部」


「……口軽すぎないか?」


「だって怖かったんだよほんと!」


 まあ心細いか。こんな孤立無援なところで母さんと相対したら。


「仁がどうして頭がキレるのか、その一端を垣間見たよ」


「普段は優しい母さんなんだけどな」


 母さんは嘘偽りが嫌いなタイプだ。そのレーダーに引っかかっちまったか。

 しかし、どこから嘘だってバレたんだ……?


「まあでもいいじゃないか。無理に彼女面しなくて自然体でよくなったわけだし」


「ま、まぁ……それはそうだけど」


 複雑そうな表情を浮かべる光。何を考えてんだか。


「それに、父さんにも話せるようになったってことだしな」


 母さんが追い出さなかったということは、一旦この戯言を信じて味方になることにしたということ。我が家において、母さんを味方につけるというのは勝者の側へ立つのと同義だ。


「そういやお医者さんなんだっけ、仁のお父さん」


「そうだ。それに、いつぞやの病院代を肩代わりしてくれた恩人でもある」


 後払いの交渉をした病院代だが、結局のところ病院側にも待てる期限というものがあるため、困らせすぎるわけにもいかず、父さんが肩代わりしてくれたというわけである。


「うぐ、そうだった」


「今でこそささやかな収入から少しずつ返せて来てはいるけど、まだ借金は借金だからな」


 それを考えると、本当に光の活動が軌道に乗り出して良かった。

 何もできずに受け取るだけだと、見えないプレッシャーに押しつぶされてしまいそうだからな。


「仁〜!ご飯よ〜!」


 母さんの声が聞こえる。


「とにかく飯を食って、話はそれからだ」


「ああ、そうだな」


 困ったときは飯を食う。

 いつでも使える、ライフハックだ。


「それに……」


 この家に光を傷つけようとしてるやつなんていねぇし、俺がさせねぇよ。


「ん?なんだ?」


「いや、何でもない」


 俺は部屋の扉を開けて、何食わぬ顔で光を先導するのだった。


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