もう誰ともマッチしないレート帯
VRMMOがゲームの主流となってから数年。
今の世界で最もプレイヤー人口が多いのが、 WANDERER HEAVEN ONLINE、すなわちWHOである。
このWHOは、地球よりも広大な世界を、ギルドを作って探索していくというメインのゲーム体験とプラスして、闘技場が盛り上がっていた。
通称ランクマッチと呼ばれるその中で、多数の人口を活かし、プレイヤー同士がいつでもマッチして擬似格闘場で一対一をする。
武器を圧倒的に強化するもよし、己の身一つでスキルを極めていくもよしのとにかく自由なタイマン。
簡単に言えば、ここで得られるレートの数値で、この世界のカーストが決まると思えば良い。
馬鹿でかいギルド長同士でランクマやってた時は同接が50万を超えてたし、負けた方はギルドを解体させられるほどの罰を受けた。
それほどまでに、このWHOでの普遍的な基準となっているのが、このランクマなのである。
そして、そんな俺のレートはというと。
−999(下限)。
下手すぎて笑えてくるような数値である。
ちなみに、ランクマスタート時は1000であり、最上位層は5000前後である。そして、0を下回って負の数になってきた頃からNPCとマッチし始める。
だけど運悪くなのか、この世で1番ゲームに向いていなかったのか、マイナス域に入ってきてからも一向に勝てず。
俺は一年前のWHO発売日に買ったというのに、今日の今日まで一回もランクマで勝ったことがなかったのだ。
そしてそのランクマの時間の大半を費やしているがーーー俺の目の前にいる、『訓練用ロボット−999』である。
「お前自分がNPCなの隠す気ないな……」
レートが下がり切ってから、ずっとコイツとマッチするようになってしまった。
それまで一応人間っぽい名前を装っていたのに、もうロボットって言い出してる。
「なめるなよ!」
スキル【俊足】。そしてロボットとの間合いを詰めて、斬りかかる!が、感触はなく、逆に脇腹に攻撃が襲いかかるのを感じる。
すんでのところで体を捻る。避けて着地した足で踏み込み、反動で斬りかかる!
ロボは武器でガードした。
「……段々当たってきてはいるんだよな……」
レートが下がり始めてからからずっと意地になって、初期装備で戦っていた。だからNPCにも勝てないのはわかっているんだが、毎日ちょっとずつ自分の成長を感じると中々変えたくなくなってくるんだこれが……!
「次は当てるぞ」
同接ももちろん0なのでずいぶん独り言が増えた。
今度は突進から、スキル【跳躍】。上から叩きつけるように剣を振りかざすーーーと、左に避けるのはわかってるから、スキル【回転斬り】!
逃げ場が無くなると、ロボは上に逃げる。
「ーーー【跳躍】!」
ロボの動きはもう頭に入っているから、俺もそれを追う。
自由落下するロボ目掛けて、剣を振り上げる。
しかしこれも空振り、状況は一転して無防備な俺の体が空中に晒される。
俺の体に、ロボの剣が吸い寄せられる!
「いまだッ!」
甲高い音。
武器と武器がぶつかる音だった。
俺はこの訓練用ロボットとの戦いの中で、確実に武器を弾くことができる隙を見つけることが出来た。
ロボが自分のHPを削り切るための攻撃を仕掛けてくるその一瞬。一瞬だけ武器を持つ力が弱まるのだ。
おそらくHPを削り切る際の一瞬だけ、隠しステータス的なものの処理が疎かになり、能力が下がっているんじゃないかと思ってる。素人の考えだけど。
「……ようやく、このレート帯ともお別れできそうだな」
空中で無防備になった訓練用ロボットは、その役目を終えようとしていることに自覚的なのか、ただ自由落下に身を任せていた。
「スキル【回転斬り(縦)】!」
全体重を乗せたその一撃。
訓練用ロボットに全てがダメージとして加わる。
地面にたどり着いたとき、立っていたのは俺だけだった。
『勝者:セカイ』
そして聞こえたのは、初めての勝利ファンファーレと、俺の名前の横に書かれた勝者の二文字だった。
「は、はは……」
一年の苦労を労うには、あまりに機械的な幕引きである。
しかし、そんな当たり前の演出ですら、俺にとっては勝利の美酒だった。
脳汁が耳から溢れてきそうなほどで、その場から動けなくなったが、その後には、これからようやくランクマでNPC以外と戦えることを妄想して止まなかった。
「やった、やったぞーー!!!!」
レート:−999(下限)→−948。
上昇した数値を見て、感覚だけの興奮から現実的な興奮へと変わっていった。
これから、NPC以外と戦えるんだ!!
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ーーーと、思っていたはずなんだけど……
弱いNPCばっかりとマッチするんだなぁ……WHOは人口多いって聞いてたんだけど……?
名前はプレイヤー名を装っており、言葉もしっかり話すようにはなってきている。
「初期装備のザコじゃねぇか!」とか、はっきり悪口言ってくる、高性能なNPCともマッチする機会があった。
しかし戦いの能力は訓練用ロボット−999よりも圧倒的に低かった。
例えば俺がレート450付近で出会ったプレイヤーとの戦いでは。
相手のプレイヤー名は『サトシ』。
「おっ初期装備のザコじゃんラッキー!さっさとレート上げてちゃんとした奴と戦おっと!」
そう言って、こちらに走ってくる。
俺は突進にガードを合わせるために剣を構えるが、一向に間合いを詰めてこない。
いや、詰めてきてはいるが、ゆっくり走ってるからガードのタイミングが難しい。
「これで終わりだ!」
やっとこちらまで来たかと思えば、大振りの一撃。
全体重が乗った一撃だったから、武器を弾く隙が生まれていた。
大振りのゆっくりとした振りに対して、俺が剣を合わせると、簡単に武器が飛んでいった。
「な、なんで、手から離れ……!?」
そして、【回転斬り】。
勝利のファンファーレが流れた。
というような戦いっぷりであった。
NPCの性能が訓練用ロボットと比べて著しく低くなっているのが凄い気になるが、レートはついに、最初と同じ1000までやってくることが出来たのだ!
俺の戦いはここから始まる!!
ーーーとこの時は思っていた。そして後に知ることとなる。訓練用ロボット−999は、デバッグ用の敵NPCであり、隠しステータスが全てMAXに設定されていたことを。そしてそれを倒した俺の隠しステータスは、全プレイヤーで最強になってしまっていることを。




